第11話-鬼畜嬢と理不尽④

 有巣に連れて行かれたのは屋上につながる階段の踊り場。


 この校舎で唯一無人の場所であり、告白の穴場として無用の者は立ち入るべからずという暗黙のルールができあがっている名所だ。


 いつかここに想いを寄せる女子と来るのだろうか。そんなことを考えながらこの前を通り過ぎた四月の俺よ。達成おめでとう、そしてドンマイ。


 踊り場で足を止めると有巣は振り向きもせずに切り出した。


「おい、武者小路優馬」

「な、なんだよ」


 俺は少し身構えた。そういえば二人きりで話すのは中庭以来だ。気まずさが残っている。それにこんなトラブルの後じゃあ何を言われるかわからない。


 そして沈黙がかったこの空気に耐えきれず、俺は相手より先に口を開く。


「あ、あのさあ……このあいだの事、皆に誤解されてたみたいだな」


 一瞬だが、有巣の背筋は電気が走ったように痺れた。

 とりあえず先手必勝だ。謝っておいて損はないだろう。


「あれは俺のせいでもあるし、悪かったな。嫌な想いさせて。ごめ――」

「ま、待て!」


 早々と謝ろうと軽く腰を折ったのと同時に、突然有巣は振り向いた。今度はこちらがびくっとなるが、次の行動に俺は目を見張る。なんと有巣の身体は俺に向かって、綺麗な直角を作っていたのだ。


 屋上からの光に照らされてえる長い黒髪は今にも地面に着きそうで、それはまさかの光景だった。


「ご、ご、ごごご……」


 有巣は口ごもっているが、なにが言いたいかはわかる。あの鬼畜嬢が謝罪の意を示しているのだ。


 俺は生唾を飲んでその瞬間を待った。遮ってはいけない空気が全身を圧迫する。

 そして、


「ご、ご、ご、ごごごっ…………ゴボウって……、細過ぎると思わないか?」

「はっ?」


 有巣はゴボウを批判した。

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