第6話-CAN部と彩眼竜 ②

 ――それは一瞬だった。


 男が俺たちに気付いて、わずかに拳を止めた刹那。少女は風を切るほどの音を立てて、反転した。


 右足を軸に、軽いステップからは考えられないほど俊敏な身体運び。

 そして、回転力をそのままに、小さな左拳を男の顎めがけて高く打ち上げたのだ。


「え? へっ!?」


 鈍い音と共に男がふっ飛んで、動揺する姫野の前でうずくまる。

 さらに脇目にも止まらぬ速さで一歩踏み出すと、もう一人の男のみぞおちを蹴り飛ばした。


 わずかに衝撃波が見えた気がした。もちろん蹴られた男も無力化されて地面に突っ伏す。


 少女は痛みに悶える男たちを舌うち交じりに一瞥すると、次はこちらに向く。

 陰った雑木林の中に一寸の光が届き、それを鬱陶しいように手で塞いで、その女は俺たちを睨みつけたのだ。


 ボブカットの銀髪がわずかに浴びた光の中で乱雑に揺れる。

 華奢な身体と幼い面持ちとは対照的に、刃物のような鋭い眼光。そして、その眼光は左目にしかない。もう一方には漆黒の眼帯があてがわれていた。


「なんだ、おまえら」


 それが彼女の第一声だった。

 低い声で威嚇するように俺と姫野を目で交差させると、第二ボタンまで開いたYシャツの下の黒いアンダーを暑そうに胸元で引っ張る。


「あ、あの……大丈夫……ですか?」


 姫野が恐るおそる口に出すと、銀髪の少女は気怠そうに頭をかいた。


「おい、大丈夫かって、あたしに聞いてるのか? おまえの目は節穴かよ」

「た、確かにそうですけど……。なにかトラブルがあったように……見えたので」

「おまえらには関係ない話だ。それに見ためで判断すると、こいつらみたいに痛い思いするからな。せいぜい気を付けとけ」


 最後は吐き捨てるように言って、そいつは俺と姫野の間を通り抜ける。

 わずかに甘い香りが鼻をくすぐり、俺と姫野はそれを留めることなく見送ってしまった。


 彼女の言う通りだったのだ。俺たちはあの銀髪の少女を助けに飛び込んだのだが、その女は無傷で、やられた男たちには数発の打撃跡があったのだから。

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