第43話-信念と正さとネバー・ギブ・アップ⑥
「――諦めるな……」
低く出た俺の声に姫野は
いつのまにか俺は姫野の眼をしっかりと見ていた。
「諦めちゃ駄目だ。だって姫野はまだ生きているじゃないか」
その言葉に有巣が目を見開いて俺に向く。
「無理なのも、どうにもならないってのもわかってる。けどそこに姫野の意志はあるのか?」
「それは……」
姫野は足先に視線を落とす。
「俺もやっぱり納得できないんだ。頑張ったやつが泣くのは悔しいし、正しいことを努力した人間は報われなきゃいけないと思う。これに道理とか根拠はないけど、俺は……嫌だ」
姫野は寂しそうに胸の前で手を絡めた。
俺は一呼吸置いて話す。
「俺の親父、バカがつくほどに
横の有巣の肩がぴくりと動き、姫野が口元をおさえる。
「親父がしたことは正しかった。けど、葬式に来た人達が言うんだ。『残念だ。
自分でも痛いくらいに強く拳を握る。
「でも結果として、うちの家計はすごく苦しくて、俺も色々と諦めた。やりたかったこととか、自分の時間とか、他のやつが当たり前に持っているものを俺は諦めたんだ。それに親父はあんなにも親切だったのに、俺の家族を助けてくれる人間は一人もいなかった。そんなことが続いたから、俺も親父がしてきたことは間違いだったって思うようになっちまってさ。結果として損しただけじゃないか……って。誰も親父が正しかったって証明できないし。悔しいけど、そうなんだ」
視界に入るのはサッカーボールを追っているはずだった右足。失ったものは多かった。
「俺の親父はもう帰ってこないからどうにもできない。けど姫野は違うだろ。なら、まだ諦めないでほしい。望みがなくても諦めないって選択肢があるだけ幸せなことだと思う。だって、まだ正しかった自分を証明できるじゃないか」
俺は自分でもなに言ってんだと思うほど真剣に、姫野に訴えた。
「でも……あたしにそんなこと……」
沈黙が部屋を包み、俺も目を伏せる。
たぶん俺は願っていた。俺が得られなかったものを得るチャンスが姫野にはまだある。
ならば証明してほしいんだ。正しい行いの先には、それなりの報いがあるのだと。
そんな願いを姫野に押し付けていたのかもしれない。
「――思い出した」
有巣がぼそりと呟く。
有巣に顔を向けると、有巣は俺を
「《N(エヌ)》は、ネバー・ギブ・アップだ」
は? と俺は首を傾げる。
「そうか。諦めてはいけないんだ。ならば、ここで引き下がるわけには絶対にいかない」
有巣は
「凛。貴様の明るい青春を必ず取り戻そう。もともとそのつもりだったんだ」
有巣は立ち上がり、ホワイトボードを引っ張りだす。
真っ白なボードには消していない『CAN部』の文字がくっきりと残っている。
「わたし達はCAN部だ。できないことをできるようにする生徒支援型の部活。依頼主のできるようになりたいことや、やりたいことを応援、助力する部活だ」
そして力強く姫野を指差す。
「さて、CAN部の初仕事だ! 依頼人、姫野凛! 貴様の望みを言え!!」
「えっ!? 仕事? それにあたし……依頼人?」
驚く姫野に有巣は不敵に笑う。
「優馬の言う通りだ。無理だとか、そうするしかないという
有巣のぶれない視線が姫野を
姫野は「でも……、あの……」と歯切れ悪くぶつぶつ呟いていたが、俺の顔を見て静かに瞳を閉じた。そして思い切ったように叫ぶ。
「あたし……やっぱり、こんなの嫌だ! せっかく新しいスタートを切ったんだもん。頑張ったもん。変わりたい、もっと楽しくて、輝いてたなって思えるような青春を送りたい!!」
そうだ。それがいい。そうあってほしい。
「凛、よく言った。優馬はどうだ? 凛の依頼は受けるに値するものか?」
「もちろんだ」
俺は強く肯く。
姫野はぐっと拳に力を込めて、有巣は自信に満ちた顔で言う。
「よし、承った! ではこれより依頼人、姫野凛に対するCAN部を執行する!」
千鶴さんは「まったく、おまえ達は最高だよ」と嬉しそうに笑った。
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