第8話-CAN部と彩眼竜 ④

「――それでだ。今回の依頼だが、凛を中心に動こうと思う」

「はえっ? あたし!?」


 日差しの熱がまだ夕方を感じさせない放課後。

 依頼者を待つあいだ、部室ではこの依頼に関する取り決めが行われていた。


「あっ、あたしで……いいのかな?」

「良いもなにも、貴様が我さきに受け入れたではないか」

「それは……そうだけど」

「ならば貴様がやらなければ筋が通らんだろう。それに……」

「それに?」

「案件的にも、貴様が適任だと判断したんだ」


 小声で囁いた有巣が姫野から目線を外し、毛先を弄ぶ。照れているときの仕草だ。


 最近になって姫野もその意味を理解したらしく、ぶわっと目を見開くと、なんとも言えない笑顔でこちらを見る。だから俺も頷き返した。


「東雲先生が言うには、孤独だって言ってたじゃん。だから同じ思いをしてきた姫野が一番力になってやれるって有巣もわかってるんだよ」

「別にそこまで言っていない!」

「それくらい素直に言えよ!」

「私はいつだって素直――」

「あーちゃん、ありがと! あたし頑張るね!」


 まだ文句をまき散らそうとした有巣だったが、姫野に手をとられ、屈託のない笑みで見つめられると、諦めたように頬を薄く染めた。


 有巣も少しずつだが姫野のことを認めてきているように見える。初めの頃の二人を思い出すと微笑ましい。


「どんな子が来るのかわからないけど、いっぱい優しくしてあげようね。あたしもそうだったけどさ、他人に会うのって恐かったんだ。どうせこの人も敵なんだって思っちゃうから……。だから味方ですよーって気持ちで明るく迎えてあげなきゃ!」

「そうだな。できるか、有巣?」

「ふんっ! できるに決まっているだろうが。耳の穴かっぽじって、なお刮目していろ!」


 そういうと有巣は仁王立ちをして――


「よく来たな依頼者よ! 今から貴様の悩みをすべてぶち壊してやろうではないか!」

「ん? どうしたんだい、有巣くん! まるでラスボスじゃないか! 聖飢魔Ⅲのようで僕のインスピレーションがキュンキュンと感化しているよ!」


 最高のタイミングで東雲が入室した。


 気持ちはチュートリアルの町娘だったのであろうか。デーモン有巣閣下は顔を真っ赤にしてプルプルと拳を震わすとこちらを一度睨む。


 しかし、だ。


 俺と姫野はそんな有巣の形相が気にもとまらないほどに、入口の扉に釘付けになる。


 普段であれば、ここで有巣のとばっちりを受けるのがセオリーだが、そんなお約束はどうでもいい。ただ、東雲の後から入室した一人の小柄な女子に、間違いなく依頼者であろう、孤独と言われるその人物に目を見張る。


 無理もないが、優しく迎えたいと話していた姫野でさえ、ぽっかりと口を開けて固まっているのだ。


 俺たちの反応に違和感を覚えたのか、有巣も依頼者の方を向き、目を細める。


 有巣の目線の先、東雲の後ろで陰になっているが、そこには日陰だろうと埋もれることのない銀髪の輝き。それを一度振り払って、顕わになる漆黒の眼帯。


「おい、なにガンくれてんだクソガキ共。嚙み殺すぞ」

「……ほう。これはまた口の利き方も知らない、野良犬風情が迷い込んだな。貴様が入るべき部屋はここではなく保健所ではないか? 狂犬病のワクチンでも刺してもらえ」


 竜は嵐を呼ぶなんて言葉があるが、まんざらでもなさそうだ。

 部屋を照らしていた斜陽がわずかな雲に隠れる刹那。彩眼竜と鬼畜嬢が対峙した。

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