第8話 想定外の化物に喰われちゃうぞ?

「想定? まわりくどい言い方ね。分かりやすく話してくれるかしら?」

「たかさき君の集中力に合わせた会話ですけどお? 興味のない話だと、全くと言っていい程、聞いてないからさ」


 または、無視するからな。


 身勝手なエロ弁護士め! 


 実に、けしからん!


「この後の事件の展開の想定とでも言うのかな? 被害予測?」

「……通り魔の犯行が続くって言いたいの?」


 魔眼使いのように睨まないでよ。


 だから、君は面倒な奴なんだ。


「あくまで、現時点での状況だよ。今の所、犯人の情報は乏しいだろ? なら、犯人はやりたい放題。次の犠牲者は、残念ながら出る可能性が高い。そのことを想定してるって聞いてるんだけど?」

「だから、これ以上被害者を出さない為に!」

「さ、咲さん!? 落ち着いて!? 他のお客さんも居るので!?」


 やれやれ。甘っちょろい理想を語ってくれるぜ。


 現実を直視して欲しいよ。


「……騒いでごめんなさい。祀理まつりさん」

「いえいえ。御門みかど君が物騒な事を言ったのが原因ですから。なんで、そう悲観的な考え方なのかな? カツカレーのカツをもらっちゃうぞ!」

「……これだから一般人は。もし事件に関わるつもりなら、あらゆる事態を想定してないと、対応できないぜ? でないと、想定外の化物に喰われちゃうぞ?」


 その前に、俺のカツカレーを狙ってやがるのか!? 


 祀理まつりめ!


「想定外の化物?」

「もっと簡単に言うと。予想外の出来事でパニックになるかな? 思考停止状態。こんなはずじゃなかったとかね。そして、後手の対応をしてしまうって訳さ」


 何だね? そのジト目は? 


 たかさき君? し、信じてないな?


御門みかど? 杞憂きゆうって言葉、知ってる? あらゆる可能性を考えたって、仕方無いじゃない? 第一、想定外なんて。そう簡単に起こらないでしょ?」

「もちろん。ただし、全く想定してないやからが大多数だろ? 君みたいにね。頭の片隅にすら残っちゃいない。だから、想定外の化物は化物なんだよ。出会ったらお終いだね」

御門みかど君の話は、難しいよ? あっ、でも……危機管理の考え方に似ているかな? 災害対策を考える時とかの」


 おお! たかさき君よりも、マシな人種が居るではないか!


「賢いぞ、祀理まつり。カツを分け与えてあげよう」

「やったー! ありがと御門みかど君!」


 まあ、食欲に対して、正直過ぎる奴だが。


 ペットに餌付けする気持ちは、こんな感じか。


「その化物の対策方法をご教授してくれる? せっかくの時間が無駄にならないように」

「ふん。想定外でパニックになったなら、一度冷静に物事を考える時間が必要だろ?そうだな、安全で静かな環境で落ち着く事が、一番だね。リセットボタンを押して、ゲームを一からやり直そう! なんてね」


 怪訝けげんそうな顔しないでよ。


 いつか分かる時が……来るかもね。


 その時になって――死ぬほど後悔しなければいいけど。

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