予告編 眩惑(げんわく)の乙女

    私の男運は。相変わらず、呪われてるいるらしい。  

巫女みこさん! リナさんのアクリルスタンドは?」

「えーと、在庫は……ごめんなさい。れね」


 本格的な梅雨の季節。6月中旬。


 神社の社務所にて。


 同じ様な絵柄のグッズの。販売対応をしている。


 私――多華たか さきの本業は。


 弁護士なのに。


 また、子供みたいな成人男性を相手にするなんて。


 私の男運は。


 相変わらず、のろわれてるいるらしい。


 事の発端ほったんとしては。


 とある事件現場になったすたれた神社を。


 て直した事がきっかけだ。


 こうして巫女みこのコスプレをしながら。


 奉仕ほうし活動をする理由?


 こっちが聞きたいぐらいね。


「何の為のコラボイベントだよ! 在庫を多めに用意しとけ! クソ長い階段を上がった意味ねーだろが!」


 この神社に参拝するには。


 苦行に近い段数を攻略しなければならない。


 そう。


 足を滑らせたら、転落死するぐらい。比喩でも無く――


「騒がしいですわ! 予約受付してますわよ! しかも、書き下ろしイラストカードも付きますわ!」

「なら用紙を渡せよ! クリスティーナみたいなキャラしやがって!」


 黒髪ロング。お嬢様口調の巫女みこさんが。クレーム対応に乗り出した。


 または、この彼女に誘われたのが。


 運のきだったかもしれないわね。


「誰が『もっちりクソ野郎』ですって!? がるるる! ばうばう!」

「そ、そこまで言ってねーし!? す、すいませんでした!?」


 ケルベロス? みたいな吠え方をして。


 クレーマーを撃退したのであった。


多華たか弁護士も遠慮しては駄目ですわ! 訴訟するぐらいの対応を!」

「署長さんは、逮捕する勢いだったわよ? 興奮しないで?」


 鼻息を荒くしている彼女を。落ち着かせる。


巫女みこさんが法的措置したら。ある意味、ホラーでしょ?」

「おほほほ! 冗談が過ぎますわ!」


 私のジョークにご満悦まんえつらしい。 


 ああ。


 私は。


 何をしているのだろう?


 自問自答じもんじとうしている所に。


「あれ? さきさん? その格好かっこうは!? うわ、スマホが誤作動しちゃったかな!?」


 カメラのシャッター音。


 しかも、連写れんしゃだ。


 苦しい言い訳だけど。


 女神めがみみたいな彼女だからか。


 それすら許せてしまう。


祀理まつりさん、ひさり。元気に――いえ、聞く必要は無いわね」

「はい! さっそく、ご利益りやくがありました! 待ち受け画面にしますね! えへへへ!」


 それだけは勘弁かんべんして!? 


 でも、こんな笑顔されたら!? ずるい!?


小宮こみやさん? あの方の差し金で? お疲れちゃんですわー!」

「……別に! あいつとは無関係だもん! あの最低ニートが! くたばれば良いんじゃないかな! くそ野郎め!」


 我ながら。意表をかれた。


 ここまでののしる姿を目撃したのは。


 初めてだからだ。


「勝手に、わだじを担当から外じでさ。びじんなお姉さんと同棲生活じで! ふええん!」


 今度は号泣!? いつもの祀理まつりさんじゃない!?


「と、とりあえず、小宮こみやさんも中に! ですわ!」

「そ、そうね。休ませましょう」


 見かねて社務所内に移動させる。


 同時に。


 関わりたくない人物の。


 気になる近況を。


 耳にしてしまったのだ。

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