第48話 紫なんて分かんない!?

「寄り道せずに、帰ってね! なるべく、一人にならないでね!」

「はーい。まつりちゃん、またね!」

「まつり先生、さようなら」


 とある小学校の校門にて。


 下校時刻なのだろう。


 女子生徒が教師に別れを告げている。


 くくくく。


 近頃、物騒な事件が続いてるからなあ。


 防犯目的で、生徒の下校時も見守っているのだろう。


 そんな事をしても。


 大して意味をなさないのに。


 俺は、無敵状態だからな。


 誰が相手だろうが、やり過ごせる。


 狙った相手は確実に。


 今までの結果が証明している。


「……咲先生。俺と、つきあってよ」

「ごめんなさいね。私よりも相応ふさわしい相手が他にもいるはずよ? これから色々な人と出会うのだから」


 ませたガキが。


 いっちょまえに。


 大人の教師を口説くどいていやがる。

 

 けけけけ。


 なるほど。


 上玉じょうだまな教師だぜ!


 知的で気の強さがにじみ出てやがる。


 が、キャバ嬢みたいなはなのオーラを発している。


 それに、食べごたえのあるエロい体してやがるぜえ!


 決めた! 次の標的は――





「てめえー! いたいけな男子の告白を! もっと、ましな答え方あるでしょ!」

「わあ!? びっくりした!? 御門みかど!?」

「君って奴は!? ほんとに様子を見に来たのかな!?」


 貴様だ! たかさき!


 案の定、いたいけな男子生徒を魅了みりょうしやがって!


 まつりちゃん!?


 よかったですう!


 健気けなげで少し緊張している所が。


 ちょっと無理して、子供達に接してる姿も。


 ご飯、おかわりしちゃうよおおお!


「相変わらず、スーツ姿にパンストだな! 扇情的せんじょうてきで許さねえ!」


 全速力で悪女に向かって走る。


 ぐふふふ! 


 電柱に隠れながら、ミテイタゾ!


 そうだな……たかさき君の目前で停止して。


 あえて、何もしない作戦で行こう!


 意表をついて『え!? 何もしないの!?』と。


 腑抜ふぬけた表情をさらしてやんよ!


「よし! ストップ!? ああん、足がもつれちゃった!?」


 久しぶりの運動で、俺の足が制御不能だと!?


 馬鹿な!?


「ぶべえ!? 恥ずかしいよ!? よろよろと、こけちゃった。てへ!」

「ちょ!? 御門みかど君!? それ!?」


 それって何さ? 


 ぬ? 


 たかさき君の足元に、スーツのスカート部分が?


 人が転ぶ時。とっさに何かつかんじゃうよね。


 この場合、スカートを下に脱がせちゃった!?


「わ、わざとじゃないよ!? ほら、パンストのおかげで、下着も目立ってないからさ!? むらさきなんて分かんない!?」

「そう。なら、良かったわ。今日の下着は目立たなかったのね。うふふふ。……ナンテ、イウワケナイデショ! ブッコロス!」

「さ、咲さん!? スカート穿いてから懲罰ちょうばつして!?」





「事故だって言ってるじゃないか!? 誰が好んで、君のパンスト姿を披露ひろうさせると思うの! げへへへ!……まったく、付き合いきれないよ」

「本音がれてるじゃない! しかも、人の往来おうらいがある場所で! 信じられない!」


 ふん! 


 昨晩は、君を宿泊させてやったんだ! 


 これぐらいの、ラッキースケベ……君にもたれかかったぐらい。


 許して欲しいものだ!


「ざ、ざぎさん。担当者のわだしの責任です。……辞表の準備を」

「は、早まらないで!? 祀理まつりさん!? 就職祝いをしたばかりだから!?」

「あーあ。物分かりの悪い、たかさき君のせいだよ。故意じゃないって言ってるのにさ」


 さっさと水に流さないから。


 まつりちゃんを泣かせて。


 少しは、大人な対応してもらいたいよ。


「ほら!? さっきの事はアクシデントだから!? 日頃から引きこもって運動しないから! 私は、気にしてないわ。そ、訴訟もしないから」

「……御門みかどさん、くれぐれもこの様な事が無いように! 体力をつけましょうね! ばか!」

善処ぜんしょするよ。はい、この件は終了。お疲れちゃん!」


 散々、たかさき君のストレッチ――拷問ごうもんを受けたんだから。


 逆に慰謝料を請求したい。


 くそ、湿布しっぷか塗り薬を購入しないと。


 体全体が悲鳴を上げてるぜ。


「見回り活動も良いけどさ。帰宅してからの行動まで、監視出来ないだろう? 現に、駄菓子屋に小学生が集合中だぜ?」

「うわ、本当に? 盲点もうてんだよ。じゃあ、これから――」


 その駄菓子屋に行って。


 子供達の世話をしようとするんだろ?


 単純明快たんじゅんめいかいで。


 行動が丸わかり。


 優しいまつりちゃん、好物です。


 えへへへ!


「そっちは、さつき君が担当してるよ。皆のアイドル署長がwww」

「さつきちゃんが駄菓子屋に!?……ごめん、想像出来ない」

「あんたの差し金じゃないでしょうね? 姫署長まで巻き込んで。気の毒に」


 たかさき君に、巻き込まれてる俺の方が。


 悲惨ひさんだよ。


「そうそう。これ、差し入れの駄菓子。まつりちゃんの好きそうな物。ちっ、むらさきパンツの人は、お酒に合う駄菓子を選んでやった。うやまえ!」

御門みかど君、職務の都合上で受け取れないの知ってるでしょ? 贈り物とか。君の担当者として」


 そんな困惑した表情しなくても。


 別に、誰かが通報する訳でも無い。


「じゃあ、君がお仕事終了してから受け取れば? 受け取らないと、郵送でも何でもしちゃうぞ💓」

「なら、私が全部貰って。それから、祀理まつりさんに、私からプレゼントするわよ」


 たかさき君にしては。


 気がいてる。


 逆に、不気味である。


「はあ。分かりました。……ほんと、気の使い方があまのじゃく」

「まつりちゃん、れてるの!? た、たまんねえ!」

「あ、御門みかど? ちょっと、こっちに来て?」


 何だよ? 君に構ってる場合じゃ――


「誰が、むらさきパンツの人よ! この野郎!」

「ぐるじい!? 背後から首をしめないでえ!?」


 たかさき君が、後ろから両腕で首を絞め上げる。


 特殊部隊出身なのかな!? 


「……事件の考察で。外出してるんでしょ?」

「……ただ、犯人の心理を憑依ひょういさせてみただけさ」


 耳元でささやく、美女スパイ。


 祀理まつりに聞かせない様に。


 配慮しているのだろう。


「それで? 収穫は?」

「……それなりに。いて言えば――」


 緊張した面持おももちで。


 次の言葉を待っているな。


「思ってた以上に、たかさき君の胸が柔らかい事! ててるの?」

「……くたばれ! みーかーおおお!」

「咲さん!? やり過ぎ!? ス、ストップ!?」


 


 


 


 

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