想定外の化物 その伍

第49話 ……みか君、意味不明だよ?

「みか君! 週刊誌の売り上げが好調だってさ! あたしが書いた記事の!」

「……あ、そう?……まだ、朝じゃないか、玉村たまむら君」


 すでに、お昼の時間帯なのだけど。


 彼自身の認識としては。


 早朝らしい。


 かれこれ、二件目の事件から一週間。


 特段、捜査に進展は無かった。


 あたしとしても、事件に動きが無いとね。


 記事が書けない。


 情報不足だ。


「事件が発生してから、生活リズムがくずされてばかりだよ。それまで、来客なんて勧誘ぐらいなものだったのにさ」


 苦々しい表情で言い放つ。


 あたしがたずねて来た理由を。


 察したのだろうか?


「お姉さんが会いに来てるのに。そんな態度はダメだぞ!」

「……はいはい。お茶は自分で用意して。冷蔵庫の中に飲み物もあるから」


 部屋の中に入ると。


 ふと、さわやかな香りが。


「みか君? 湿布しっぷか筋肉痛とかのスプレーでも使ったの?」

「まあね。知り合いにからまれて。むらさきパンツのレスラーに」


 どんな交友関係なの!? 


 お世辞にも。


 人間関係が充実しているとは思えない。


「……で? 君の週刊誌が売れたのは分かった。それで?」

「……もし良ければ、次の記事内容に助言を頂けたら」


 みか君の機嫌をそこねるのは。マズイ。


 合掌して頼み込む。


「助言? 必要無いよ? 現に、君が書いた記事じゃないか。それに、売れ行きも好調。好きに特集すれば?」

「うえええ!? あれは、みか君の情報を参考にした記事だもん!」


 悲鳴にも似た声が出てしまった。


 はしごを突然外された感じだ。


「なら、姫署長特集にする? 意外とふとももがもっちりしててさ。げへへへ!」

「絶対、書かないもん!……みか君のフェチ情報はいらないです」


 姫署長の特集記事は。


 他の週刊誌がやったネタである。


 こちらも。そこそこの売れ行きらしい。

 

「だから、言ってるだろ? 好きに書けば? ただし、

「……みか君、意味不明だよ?」


 哲学的な話? 


 それとも、記事作成の心得こころえ


「簡単な事さ。衝撃的過ぎる事実を書かなければ良いって事。例え、事実だとしても。その事で、誰かの恨みを買う事になるからね。絶対に」

「それじゃあ、スクープなんて書けないよ? 確かに、恨みを買いやすい職業だけど」


 週刊誌記者なら特に。


 世間の風当たりも強いのも。


 自覚している。


「たまねえは、まだ若いからね。その辺のさじ加減が理解出来ないだけさ。それに、心臓を刺される覚悟なんてしてないだろ?」

「あ、あたし殺されちゃうの!? みか君!?」


 不穏な予言!?


 一番、されたくない人にされちゃった!?


「あくまで、警告さ。特に、今回の事件は――いや。大丈夫! たま姉の胸はオイラがまもる!」

「どこが大丈夫!? 逆に狙ってる!? 手つきがエッチだぞ!?」


 虚空こくうを方手でんでいる。


 こ、こら!? あたしの胸の形を確認しない!?


「それにしても、今日で一週間か。……そろそろ、犯人も動き出すか」

「なになに? また、超能力? お告げ? 詳しく、お姉さんに話してよ!」


 うわ、かなりの仏頂面ぶっちょうづら


 禁句なワードを口にしてしまった。


「……あえて、指摘しないけど。また言ったら、たまねえにマッサージするから! ぐふふふ!」

「急に機嫌が良くなってるじゃん!? みか君、ゲス野郎だ!?」


 ふと、女神様の顔が浮かんだ。


 彼女に。


 みか君の取り扱い方法を。


 聞いとくべきだった。


「でもさ、みか君だったら未然に犯行を止める事も可能でしょ?」

「……簡単に出来たら苦労しないさ。ま、出来ても絶対に関わらないけど」


 むむ? 懸賞金が出てるのに? 


 もったいない。


「良くない事に関わると、次々と降りかかって来るからね。考古学者じゃないんだぜ? これ以上、遺体と対面してたまるか。……握力を鍛えよう! 今度は、中身まで目撃してやる!」


 誰かの指図さしずで。


 二件目の遺体を発見してしまったのだろうか?


 それと、握力を鍛えるのに意味があるの!? 


 何かをつかんで。


 下におろす作法を披露している!?


 ただ、彼が本気になったら。


 遺体ぐらいは発見してしまう。


 その事実が。


 少しだけ――おそろしいと思った。


 例えるなら。


 怪物か。


 化物に遭遇してしまった時の様な。

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