第54話 世の中は広いし!? 特徴が同じ人間も存在するからね!?

「……お前は、こんな時に蕎麦そばをすすっていて余裕だな」

「編集長こそ、テレビにくぎ付けじゃないですか」


 がらんとなった編集部。


 他の記者達は、取材活動に精力的だ。


 理由は――姫署長関係だ。


 夜のニュースで断片的に情報が流されたから。


『こちら、市民病院前です。ご覧の通り、パトカーが病院の入り口を完全に破壊しております。奇跡的にも負傷者は、運転していた月夜野つきよの署長だけとの事です。取材によりますと、パトロール中に急病人を発見し――』

「……今の所は、例の事件と無関係を装っている? どうなんでしょうか?」

「だからね、それを取材しに行くんだろ!? ああ、姫署長、無事でいてくれよお!?」

 

 教会のシスターか!? 手を組んでお祈りしてる!?


 駄目だ。完全に、彼女のファンになっている。


 編集長の錯乱さくらんした様子を横目に見つつ。


 呆れてしまった。


「まったく。どこが良いんですか? 世間知らずのお嬢様。おーほほほですわー!」

「黙って蕎麦そばでも喰ってろ! ポニテール馬野郎!」


 がるるると狂犬きょうけんみたいにうなっている。


 ポニーテール関係無いじゃん!? ひ、ひどくない!?


 みか君には好評だったのに。


 好感度が違い過ぎるからか。やれやれ。


 まあ、あたしも姫署長の事を言った手前。


 抗議は出来ないけどさ。


『ここで、病院内部にいる関係者の方に電話がつながっています』

「なんだかんだ言って、テレビも現役のメディアですね」

「まあな。ライブ中継ならネットにも負けてないだろう。それに、テレビをつけるだけで最新の情報を得られる。難しい操作は必要無いし」


 単純だからこうして生き残っている。典型的な例か。


「さっそく、関係者からの情報ですよ!? 視聴率も左右しますね!」


 少し鼻息はないきあらくなってしまった。


 あたしも、インタビューを後日申し込もうかな?


『なお、音声はプライバシー保護の加工済み。仮名かめいさんです。もしもし』

『はい、よろしくお願いします』


 あたしの名字みょうじと同じだ。偶然だろうけど。


 加工された声でも、礼儀正しい。と言うか場慣ばなれしている? 


 素人しろうとにしては、堂々としている感じだ。


『タマムラさんはどういった経緯で病院に居るんですか?』

優しい人のお見舞いで。私は、その人と内縁関係でして』

「ごほっ!? げほげほ!?」

「汚いぞ真実まみ!? 他人の色恋いろこい動揺どうようするとは」


 編集長が父親の様な眼差まなざしを向ける。


 何やら勘違いしてるでしょ!?


 どうせ、恋愛関係にうといとか。縁遠えんどういとか。


 ど、同情してるよ絶対!?


 いや、そんな事よりもだ。


 。あたしは、このフレーズに心当たりが!?


 き、気のせいだよね!? 世の中は広いし!? 


 特徴が同じ人間も存在するからね!?


 


 


 

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