第53話 月夜野さつきは健在ですわー!

「もしもし? 合言葉は?」

「『さつきちゃんのふともも、もちろん、もっちーですわー!』」


 病室のインターフォンが押され。


 タブレット端末たんまつで応答する。


 セキュリティー対策ですけど。


 もちもちうるさい!? 


 わたくし、そんなおもち体型たいけいですの!?


「な、何をおっしゃってるの!? 違いますでしょ!?」

「『あれ? おかしいな? 違った? ぐへへへ! ぎゃあん!? ま、まつりたん!? 弱パンチ連打、らめえ!?』」


 何やら、素早い動作で叩く音が確認出来た。


 おそらく、小宮こみやさんが成敗せいばいしているのでしょうか?


 となると、彼女は元気になられたのですね。


 素直に安心しましたわ。


 わたくしが原因で、体調不良になられて……誠に申し訳ないですし。


 一刻も早く、彼女の無事をこの目で確かめないと。




「その姿は!? さつきちゃんなの!?」「小宮こみやさん!? 車椅子くるまいすに乗られているの!?」


 互いの姿を確認する。


 ある意味で、予想外の姿に驚いてしまいました。


御門みかど君のすすめなの。私は必要無いって、言ったんだよ?」

「体調不良なのに強がるクセがあるからね。まあ、まつりちゃんを介護系ヒロインとして扱える絶好のチャンス! でもあったからね」


 またもや、気色の悪い笑みを浮かべる問題児。


 ……やはり、逮捕した方がよろしいのでは?


「そ、それよりも。さつきちゃん、包帯ほうたいだらけだよ!?」

「うーん、エジプトのミイラ? ぷぷぷぷ。肉付きのよろしい事だね、さつき君」


 この温度差ですわ。


 バランスが取れた。


 それぞれの反応だと。


 前向きに思うしかありませんわね。


「これこそ、大げさに巻き付けただけの事。月夜野つきよのさつきは健在けんざいですわー! あいたた!?」

「ほらな? さつき君は無事だったろ?」

「それは、そうだけど。……一体、何があったのかな?」


 どうやら、わたくしがこの有様ありさまになった原因を知らない?


 彼女の随行者ずいこうしゃの表情を確認する。


 話して良いものかどうか。


「パトロール中に、倒れてる人を見つけて。そのまま、病院目指して爆走。勢い余って、入り口にパトカーをねじ込んだ。ただ、それだけさ」


 情報的にかなり省略されていますが。


 おおむね、その通りでしょうね。


 詳しく話さないのは……彼女に余計な心労をかけさせない為の配慮でしょう。


「無茶し過ぎだよ!? さつきちゃん!? 人命救助も大切だけど!?」

「ま、さつき君の働きで尊い命は救われた。自身は、もっちりしてたから軽い全身打撲さ」


 救った? いまだに意識不明のあの子を? 全くもって、そうは――


「ふん! 最善を尽くした結果なのに、満足しないとは。何様だ!」

「ちょっと、御門みかど君!? キレてるの!?」


 わたくしの後ろ向きな心情を見抜いて。


 叱責しっせきされてしまいましたわ。


「……そうですわね。やれる事をやっただけ。それ以上の事を考えても、どうにもなりませんもの」

「こら! 御門みかど君! 言い方! あれ? どこいちゃったの?」


 それだけ告げると――どこかに消え去ってしまった。






 


 


 


 

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