第55話 とにかく、ダッシュだよ、ちくしょー!?

『そうですか。タマムラさんの関係者の方も、お大事になさって下さい』

『お心遣いに感謝します。どうもです』


 あたしの混乱をよそに。


 電話インタビューは進行して行く。


『さて、タマムラさん? 月夜野つきよの署長の現在の容体ようだいについて情報があるとの事ですが?』

『はい。実は、姫署長さんとも知り合いでして。こちらも、お見舞いにうかがいました』


 この情報提供者。運が良いのか、悪いのか。


 いや、お見舞い続きで災難だけどさ。


 記者の目線からすると。


 姫署長の情報を得ているだけでも運が良いだろう。


 それも、誰も知り得ない情報。喉から手が出ちゃうう。


 ぐぬぬぬ。あたしにも、情報提供してよお!


『現在、政治家等の特別待遇の個室で治療を受けています。ちょっとした、高級ホテルの一室みたいでした。病院内である事を忘れそうな、快適な部屋ですね』


 うわあああん。貴重な情報。全部言わないで、小出しにしても良いんだよ!?


 もったいない精神を発揮して!?


「……一人で何をもだえているんだ? お前にもいつか人生の相棒が出来るからさ。うんうん」

「な、何を勘違いしてるんですか! 欲求不満じゃありませんよ!」


 今は、仕事で忙しいの! プライベートにく時間が無いだけだもん!


 あたしも本気を出せば、一人や二人。楽勝だもんね!?


 さ、寂しくないもん。


 リア充共め! スキャンダルにまみれろ! 


 それをあたしが記事にしてかせいでやる! ふへへへ!


『姫署長は事故の影響で、全身を強く打っている状態です。ですが、もっちりしていた事がさいわいしたとの事です。命に別条べつじょうは、ありません』

「うひょおお!? もっちりだって!? 姫署長もっちー!? やっぱりな!?」

「何を喜んでいるですか!? 肉の質感ですか!?」


 グラビアアイドルに興奮している……思春期中学生か!? 


 単純な編集長め!


 月夜野つきよのさつきは、健在けんざいか。


 そもそも、事故にあっても。平然としてそうな感じがする。


『そうですか! あれだけの事故でしたから、心配しましたが。視聴者の皆さん、月夜野つきよの署長は無事との事です!』

『外見は、大げさに包帯を巻き付けてですね。日本人形のミイラみたいでしたね。ぷぷぷぷ。失礼しました、くしゃみを我慢して音声が』


 ぬ? まさかと思うけど。笑った? 


 いやいや、あたしの心が汚れているのか?


 疑心暗鬼ぎしんあんきになるのは職業病だよね。


 そもそも、笑い声だと思ったのは――最近似た笑い声を耳にしたせいだろう。


『ところで、月夜野つきよの署長が救護した人物についての情報はありますか?』

『こちらについては、一般人なので自分から情報を言う訳には。警察から正式の会見の場で質問して下さい。申し訳ありません』


 なるほど。プライバシー保護と言う事か。


 焦らなくても、警察からの公式情報を待てとの警告だろう。


 だからさ!? この情報提供者は何なのさ!? 


 素人だったら、構わず情報をべらべら話すでしょ!?


『いえいえ。そうですよね。これから、警察の方でも会見が予定されているとの事です。会見が始まり次第、中継を繋ぐ予定です。タマムラさん、貴重な情報ありがとうございました』


 さて、あたしも取材に行く準備を。


 お蕎麦そばも。そろそろ食べ終わる――


『はい、ありがとうございました。、いや、、名字借りちゃった💓 放送見てくれた? 感想、聞かせてねー』

「ぶーっぶ!? げほっ!? ごほっ!? 噓でしょ!?」

「お前は普通に蕎麦そばも喰えないのか!? っておーい!? 急にやる気を出してどうしたの!? 取材に行くのか!?」


 編集長の問いかけを無視する様に。荒々しく、お蕎麦そばを流し込む。


 味覚やら風味ふうみなんか、味わってる場合じゃない。


 とにかく、ダッシュだよ、ちくしょー!?


 声が加工されているけど。


 ああ、もう! 気づくのが遅い、あたしの馬鹿!


 みか君じゃん!? 


 道理で、聞いた事ある笑い声だよ!?


 




 


 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る