第56話 全身打撲だけど、もっちりしていて無事!?

「おい! スマホなんか見てんじゃねーよ! 現場は封鎖してあんだろうなあ! ああん!」

「し、失礼しました。赤城警部」

「……で、ですが、さつき署長の容体ようだいを」


 市街地から車で20分。


 周囲は自然豊かな木々にかこまれている。


 この辺りは、別荘やら保養地やら。


 レジャーとしても有名な地だ。


容体ようだいを知れば、おめえが治療出来るのかよ!」

「ひぃぃ!?」

「赤城警部、落ち着いて。後で署長さんに報告されたら、それこそ療養出来ないでしょ? 彼女の性格からして」


 部下に当たり散らす警部を制止する。


 感情的になるのは。


 仕方のない事だけれど。


「……くそ。悪かった、言い過ぎたな」

「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした」


 林道を封鎖している警察官が敬礼して。


 謝罪をした。


 和解成立、実によろしい。


「ところで、多華たか弁護士は?」

「私? ああ、署長さんの代理で赤城警部に付きってるだけだから。ここで、大人しく待ってるわ」


 この先にある事件現場に通して良いかの確認だろう。


 私が行っても邪魔になるだけだろうし。


 もっとも、些細な情報だったらこの人達――目の前に居る警察官から、仕入れる事が可能だろう。


咲嬢さきじょうにしては、物分かりが良いじゃねーか? 別に構わねーぜ?」

「お構いなく。部外者がうろつき過ぎるのも、問題でしょうから」


 怪訝けげんな表情を見せる警部。


 普段の私の行いの結果だけれども。


 そんなに、不思議に思わなくても良いじゃない? 


「現場の状況を確認やら報告を受けたら、ぐ戻る。お前ら、くれぐれも咲嬢さきじょうを大人しくさせておけよ!」

「は、はい! 警部!」

多華たか弁護士を丁重ていちょうに見張っておきます!」


 丁重ていちょうに見張られても。


 そもそも、おかしな表現ね。


 それだけ、どう扱って良いか分からない人物。


 厄介な人物と言う事ね。


『何を今さら認識しているんだい? たかさき君? 事件に胸を突っ込むのは、君の得意技じゃないか?』


 下品な表現の幻聴が聞こえる。


 今頃になって、自制心が働いているのかしら?


 この事件に――関わり過ぎだと言う事を?





 赤城警部が現場に向かった後。私はスマホを使い情報を収集していた。


 幸いな事に。木々に囲まれたこの地でも、電波は届いていた。


 その間にも、追加の警察車両やら人員が目の前を通過して行く。


 はたから見れば。


 待ち合わにてスマホで時間をつぶす女子高生だろうか?


 女子高生には、まだ見えるかしら? 


 祀理まつりさんなら、ともかく。


 そう言えば。彼女は大丈夫だろうか?


 急に意識不明で地面に倒れたから。


 流石に、私も取り乱してしまった。


 ただ、病院との距離が近かった為。


 処置が万全なのは、せめてもの救いだ。


 問題なのは。この事を御門みかどに連絡した時の事だ。


『君が事件に巻き込んだ結果、愛しの祀理まつりちゃんは体調不良になった』


 要するに、小言ね。


 私に対する、嫌がらせの言動を延々と聞かされた。


 確かに、一般人の祀理まつりさんを連れ回してしまった落ち度もある。


 反省すべき所は、反省しないとね。もちろん、謝罪も。


 私は、御門みかどと違って常識人ですから。ええ。


『ここで、病院内部にいる関係者の方に電話がつながっています』


 スマホで検索けんさくしていると。


 ニュースのライブ配信にたどり着いた。


「姫署長さんの容体ようだいについてかしら?」

「我らが姫署長の!?」

「おい!? 赤城警部に注意されたばかりだろ!?」


 私のつぶやきに、すかさず反応する警察官。


 監視かんし任務は、しっかりと続行中らしい。


「そうよね。信頼している上司の容体ようだいは気になるわよね? 私が勝手にしゃべるから、無視して仕事を続けて」

「お心遣こころづかい感謝します!」

多華たか弁護士、申し訳無い。こいつは、新人でして」


 謝意と謝罪。


 対照的な警察官の反応に、微笑してしまった。


 私のお目付けを命じられているのだから。


 これくらいの事は、問題無し。


 赤城警部には。


 私が勝手にべらべら話しかけてきたと。報告すれば良いだろう。


『タマムラさんはどういった経緯で病院に居るんですか?』

優しい人のお見舞いで。私は、その人と内縁関係でして』


 理由はさだかではないけど。


 胸騒むなさわぎがする。


 物事を見落としてる様な?


 ともあれ、どこにでも記者みたいな存在が居るわね。


 まあ、そのおかげで最新情報が得られるけど。


『さて、タマムラさん? 月夜野つきよの署長の現在の容体ようだいについて情報があるとの事ですが?』


 前置きをはさんでの本題。


 ここからが重要な情報ね。


『現在、政治家等の特別待遇の個室で治療を受けています。ちょっとした、高級ホテルの一室みたいでした。病院内である事を忘れそうな、快適な部屋ですね』


 月夜野つきよの家は。


 市民病院に限らず多方面に寄付金をしている。


 このぐらいの特別待遇は。


 病院としては当然だろう。


『姫署長は事故の影響で、全身を強く打っている状態です。ですが、もっちりしていた事がさいわいしたとの事です。命に別条べつじょうは、ありません』

全身打撲ぜんしんだぼくだけど、していて無事!?」


 意識がとかじゃなくて!?


 表現が変だ!?


「おお! 姫署長のもっちり肌で無事でしたか!」

「当然だ! 誰でも包み込む様な、もっちりした人だぞ! 多少の事でも健在さ!」


 いつから、もっちりキャラクターに!? 


 ゆるキャラの扱いなの!?


「なあ! 聞いたか? 姫署長は、もっちりしていて無事だって!」

「そうか! もっちり最高だぜ! もっちり姫!」


 周辺の警察官達に情報が伝わって行く。


 もはや、もっちりの伝言ゲーム!?


『――タマムラさん、貴重な情報ありがとうございました』

『はい、ありがとうございました。、いや、、名字借りちゃった💓 放送見てくれた? 感想、聞かせてねー』


 そうなの。玉村たまむら記者の名前を借りたのね。


 ふふっ。


 相変わらず、人に君付けするのだから。


「アイツハ、ナニヲシテンノヨ! ミーカーオオオ!」

「た、多華たか弁護士が鬼の形相ぎょうそうに!?」

「ふざけて騒いだからだろ!? 赤城警部よりもおそろしい!?」 






 


  

 

 

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