第4話 何か、私に言う事ありますか?

「はーい、皆さん。本日のお仕事終了の時刻となりました。残業は、どーしてもやらないといけない事がある人だけだよ。お役所が働き方改革をしないのは、まずいから。うんうん。課長の私が率先して帰宅するからね? 本当に帰るからね!?……帰っていいですか? 小宮こみやさん?」

「あははは……新人の私に聞かれても困りますよ!? わ、分かりました。一緒に帰りましょうか?」


 天川あまかわ課長は、満面の笑みを浮かべて。


 鼻歌まで歌いだした。


 上司といえども、幼い女性にしか見えない。


 精神的な意味もあるのだけど。


「さすが、女神のケースワーカー! お優しい人だよお! まつりちゃん!」

「なあ、うちの課長にケースワーカーを派遣した方が!?」

「課長!? 錯乱さくらんしないでくださいよ!? 市民が目撃したらクレーム案件ですよ!? お菓子は!? 餌付えづけ係は何してんの!?」


 和気あいあいとした職場の雰囲気は。


 おそらく天川課長のお陰でもある。


 この仕事は精神的にも。きつい場面に遭遇そうぐうする事も。


 生活保護の人達の支援と言っても。


 一筋縄ではいかないし。


「なんだ? 合法ロリ川課長、また発作ほっさか? 幼稚園の保育士も大変だな」

「だ、誰だ、私をロリと呼ぶ奴は! 生活保護の奴だったら、保護を打ち切るぞ! 私の権限でえ!?」


 あっちゃー。このタイミングで来ちゃったの? 


 天川課長、明日職場に来てくれるかな?


「はい、御門みかど君……じゃなかった、御門みかどさん、今月の保護費ですね。印鑑を忘れてませんか?」

「忘れてねーよ。まったく、何で手渡しなんだ? 振り込みを希望したのにさ。高校時代の同級生に対する仕打ちがこれかい? 祀理まつり。そもそも知人が担当者なのは、本来ダメなはずだろうに。なあ? 合法ロリ川課長?」


 コミュニケーションを取らせる秘策です!


 外出距離も稼げて運動もできる。


 健康的な生活の一歩。


 些細ささいな事からスタートです。


 それと、振り込みだと。


 御門みかど君と会話できないからだよ?


「口をひらけば呪いの言葉を吐く奴の担当なんか、誰がやるものか! みんな辞退するの! 君は例外的に、小宮さんの担当! こ、こら、頭を撫でるな!?」

「特別な配慮に感謝するよ。ほんとに成人してるの? 年齢詐称? 身分証の提示をお願い出来ますか? 人魚でも食べたの? あははは!」


 こんな調子だから御門みかど君は誤解されちゃうんだよ? 


 何度も忠告してるのに。不満点です。


 私が担当になっても。あんまり意味がないんじゃないのかな? 


 過大評価されてると思う。


「か、からかって! お前なんか大嫌いだ!」

「あっそう? 俺、けっこう好きだよ? 天川さんの事」


 うん? 正直なのは良いと思うけど。


 これも誤解を招く言い方だよね?


「な、な、何ですか!? 口説いてるの!? わたし、おうちに帰るもん!?」

「お疲れ様でした、天川……行っちゃった。もう、御門みかど君は!」


 仮にも年上の女性を困惑させるのは、駄目なんだから!


「さて、保護費も受け取ったし!? ちょ!? はなせよ!? 握力ゴリラか!?」

「何か、私に言う事ありますか? 御門みかどさん?」


 保護費の入った封筒をがっちりつかんだ。


 私との恒例のお約束です!


「……皆様の大切な税金を生活費として使わせていただきます。なおかつ、社会復帰に向けて無理のない範囲で、努める事を誓います。こっちの方が、よっぽど呪いの言葉じゃないか」


 恨めしそうに視線を向けてくる。


 む! 反抗的かな!


「はい。どうぞ。無駄遣いをしないように、心がけましょう。ちょうど仕事も終わりだから、一緒に帰るよ御門みかど君!」

「やっぱり小宮さんスゲーな。アイツとちゃんと会話してるし」

「ああ。新人なのに精神力が強いな!……天川課長も見習って欲しいぜ! でも、そのままでいて欲しいかも? ロリ最高!」


 御門みかど君を利用して。


 評価を上げていると思われたら、嫌だな。


 同級生ですから。


 それなりの時間を過ごしていた訳で。


 接し方に慣れてるだけです。


「どうだい? 職場の方は? 俺の活躍で随分と評価を上げた様だな。おめでとう!」

「殴るよ! ピンポイントで心を読まないで! 難儀な同級生だね!」

 

 

 

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