第38話 種も仕掛けもあるんだよ、玉村君。

「そもそも、みか君。あたしと、どこかで会った? それに、その……作戦がバレたのは?」


 おそるおそる質問しないでよ。


 ただの引きこもり相手に。


 大物政治家じゃないんだぜ?


「君にとっては面識は無いと思うけど。記者会見のテレビ中継を見れば察するさ。これは、さつき君のせいだよ」

「さっぱり分からないよ!? お姉さんを困らせるのはいけないんだぞ!」


 君とは、さほど年齢に違いは無いのだが。……お姉さんキャラか。


 手玉に取られちゃうのも、一興いっきょうかも。


 でゅへへ!


「たまねえがさつき君の返答に満足してなかっただろ? テレビの画面越しでも表情を読む事は出来るからね。もちろん、心理状態も」

「はい!? テレビ画面のあたしを観察しただけで、行動を予測したって事!? 超能力者なの!?」


 お決まりのフレーズに辟易へきえきする。


 超能力者、霊媒師等々。


 ただ単に。


 相手の立場、心理を考えて導き出した推測だ。


 慣れれば、誰だって出来る。……精神的に疲労するけどな。


「馬鹿な事を言うなよ? 俺は本物じゃない。君の連絡先だって、とある関係者から名刺を貰っただけさ。種も仕掛けもあるんだよ、玉村たまむら君」


 関係者とは。さつき署長だ。


 会見の不手際を許す代わりに。たまねえの名刺を用意させた。


 ただ、それだけの事だ。


 特殊能力なんかじゃない。


 コミュニケーション能力だろ。


「海外では超能力者で事件を解決してもん! そのたぐいでしょ、みか君は!」

「……はあ。『信じるか信じないか、あなた次第って』言葉は含蓄がんちくがあるね。どうにも」


 一度そう思ったら、中々考え方を改めないからね。


 他人がどう指摘してもさ。


 特に間違って物事を覚えていた時。


 有名人の名前とか何でも良いが。


 正しい名前を指摘しても――当人が信じていた間違いを。真実だと思いたくなる心理って奴か。


 これには理由が色々あるが。


 まあ、自分が信じていた事を真実だと思いたい。


 間違って覚えていたなんて。


 思いたくない。そんな所さ。


 なかなか自分の非を受け入れられないか。


 難儀なんぎだね。






「それじゃあ、補足的に話をするよ?……そうだな。君は、学生時代は運動部に所属していた。もっぱら、陸上関係かな? また、他の競技にも助っ人として参加していそうだね」

「だから、何でぇ!? その通りだよお!? 霊視れいしも出来るの!?」


 たま姉が。


 不用意にぐいぐいと近づいてくる。


 なるほど。


 それなりに、あどけなさも持ち合わせていると。


 玉村たまむら君について情報更新。


 アップデートっと。


「なるほど。同級生、いや、学年問わず――男子から告白された経験も数知れずか。たま姉は、。罪作りな、ポニテ先輩だね」

「いやああ!? みか君に丸裸にされちゃってる!? エッチだぞ!?」


 黒歴史をあばいたのだろうか?


 まるで、俺が襲っているみたいな感想を――


「こら! 御門みかど君! 女性を困らせる発言は、駄目だって言ってるよね!」

缶蹴かんけりみたいな死体蹴りも駄目だよお!? ぎゃあんん!?」


 まつりちゃんが座ってる俺を足蹴あしげにする。


 ふえーん。


祀理まつり!? 最近、暴力的だよ!? 欲求不満じゃないのかい!?」

「し、失礼かな!? 御門みかど君が元凶でしょ!」


 はいはい。全部、俺の責任ですけどお。


 後で、かまってやるか。ぐふふふ!


「……とまあ、こんな感じだよ? 君が急いで走って来た姿からの考察。ならびに、今までの言動、態度からの推察。これのどこが、超能力なんだい?」

「そうだとしても、只者じゃないでしょ?……もしかして、一連の事件の犯人!?」


 どいつもこいつも。


 俺を犯人に仕立てる気じゃねーか!?


 ……弁護士の準備をしておこうかな?


 無論、たかさき君以外の弁護士だけどな!


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る