第6話 訴状を準備しようかしら!

「あら? 祀理まつりさん? 今帰りなの?」


 いきなり、やっほー! と声をかけてきたのは。


 祀理まつりさんか。


 確か、この春から。


 市役所の福祉事務所で働き始めたのよね。


 あの御門みかどと高校時代の同級生。


 しかも、彼のケースワーカーの担当に任命させられたとの事だ。


 いや、災難でしょ。


 あの御門みかどだし。


「はい! 今日は、少しだけ早めに仕事を切り上げられましたので。咲さんは? 店員さんとしゃべっていたけど? お仕事ですか?」

「……ええ、まあ。世間話せけんばなしみたいな感じ? これからも、24時間営業続けますか? 人手不足で大変ですね? とか」


 雑談としての内容を祀理まつりさんに伝える。


 嘘はついていない。


 誰かさんが聞いたら。


 詭弁きべん弁護士だ! とか言って。


 非難されそうだ。


「この、エロ尻弁護士! おっと違った。嘘つき弁護士! お尻ぺんぺんしますよ!」

「ひゃん!?」


 いきなり、私のお尻を叩かれた!? 


 痴漢!? とにかく現行犯逮捕――


「たかさき君!? 過剰防衛だ!? 腕がねじれちゃう!?」

「そこまでよ! この悪漢……御門みかど!?」


 めまいがした。


 こんな馬鹿な事をしでかす人間だったわね。


 私の恥ずかしい声が周囲の人間に聞かれたじゃないの!


 訴状を準備しようかしら!


「咲さんに謝って! セクハラだよ! こ、このたびは、私の担当する者が、ご迷惑を。なにとぞ、穏便おんびんに!? ざ、咲ざん!?」

「な、泣かないで!? 祀理まつりさん!? 御門みかどが一番悪いから!? 責任を感じることは、一切ないのよ!?」


 謝るべき人間が謝らないのに。


 今からでも。


 御門みかどの担当を外れてもいいと思う。


「謝るのは、たかさき君だ! 何が、世間話? 違うよね! 祀理まつりに嘘つくんだ。へえー」

「わだし、ざきさんに嫌われてるど!? うぞって何!?」


 最低な展開。


 あることない事を祀理まつりさんに吹き込まないでよ! 


 ますます、泣き出してしまったじゃない!?


「全然嫌ってないわよ、祀理まつりさん!? ここで騒ぐのもね!? 美味しい洋食屋さんが近くにあるから!? そこで話し合いをしましょう!? 私のおごりで、好きな物を食べていいから!?」

「えっ!? いいんですか!? お言葉に甘えます!」

「食欲も相変わらずか。……で、俺の分もおごってくれるのかな? たかさき君? ヒャッハー! ごちになりまーす!」

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