第42話 当たり障りのない記事じゃあ、読者は納得しませんよ?

「一気に書き上げたぞ! 誤字脱字チェック!」


 みか君の取材をもとに記事を作成。


 たった今、完成した。


 だが、例のチャラ君に報酬を支払った為。


 あたしのふところは寂しくなってしまった。


 しばらくは、食費をけず羽目はめに。


 夕食はゼリー飲料で済ませた。


 自業自得なんだけどね。


 女神様をだましてこの程度の仕打ちならば。


 甘んじて受け入れよう。


「取材活動は上手く行ってるか? 真実まみ?」

「ぼちぼちですよ、編集長。この通り、名誉の負傷をしましたから」


 不名誉の負傷だけど。


 あいたた。今時分になって痛みが!?


「……ポニーテールだからと言って、馬の真似事までしなくても」

「何でドン引きしてるんですか!? ひどい!?」


『スクープを掴む為なら、努力できる範囲で頑張れ!』と発破をかける人とは思えない反応だ。


「命あっての仕事だからな。注意しろよ?……ま、この業界にしては甘々かもな。うちは」


 週刊誌はとにかく取材をしてスクープを掴む。そして記事にする。


 内容によって部数の売れ行きに天と地の差がある。


 おそらく他社は。


 血まなこになってネタを掴もうと躍起やっきになっているだろう。


 だけど、編集長が言うように。


 ここの職場は、他社と比べてゆるーいのだ。


 個人の努力で好きに記事が書けるし。


 もちろん、記事内容も自由だ。


 その効果なのか。週刊誌の中では異色の存在である。


 差別化が反映されてるのだろうか?


 コアな読者層が一定数存在し。


 売れ行きも悪くは無い。


「どれどれ。見出みだしは『による犯行か!? 通り魔の犯人像にせまる!』」


 編集長が記事内容をチェックする為に。


 あたしのノートパソコンをのぞき込む。


「……通り魔事件の考察記事か。情報が少ないわりに、まとめられてるな。どこかの犯罪心理学者にでもインタビューしたのか?」

「考察が得意な人物とだけ言っておきましょう。秘密です」


 よもや、引きこもりでニートの。


 みか君が手伝ってくれました。


 なんて、正直に言える程の度胸どきょうは無い。


「取材源の秘匿ひとくか。良い心掛こころがけだな」

「どうも。で? どうですか? あたしの記事内容は?」


 やはり、記事作成には客観的な意見は必要だ。


 自分で納得した記事が書けたとしても。


 他人が読んだ感想が全てだから。……書き直し、ボツの経験も多々ある。


「……不気味だな。元犯罪者が語る手記みたいで」

「えー!? 書き直しですか? ぬあんでえー!」


 終わった。今までの努力が。


 はかない記事だった。さよなら。


「別に書き直さなくて良いぞ? ただ、真にせまり過ぎてると言うか。特に、最後の部分が。予言か?」

「『今の所、被害者は小学生だが。今後は中学生、高校生に被害者が出る可能性も。十分に警戒をすべし』ですか?」


 確か、みか君は『どうにも被害者の年齢がばらついてる』とか。


『小学生だけ警戒して、たかくくってると思うつぼだからね』との事だ。


「週刊誌ネタとして地震予知もやってるからな。構わないと思うが。……他社と同じで、姫署長の特集で足並みをそろえてだな」

「他社の記事内容まで知ってる!? 編集長が記事書いてよ!? 情報網がもったいないですよ!?」


 相変わらずの物知り。スパイ顔負けの情報。


「当たり障りのない記事じゃあ、読者は納得しませんよ?」

「姫署長の人気にあやかって何が悪いんだ! あのキャラクターは芸能人に引けを取らないぞ!」


 完全に姫署長のファンじゃないか! 


 これだから、世の男どもは!


「どこの令嬢キャラですか? 今時『ですわー』なんて変なしゃべり方居ませんよ!」

「実際に存在してるじゃないか! いや、存在してますわー!」


 あたしの記事内容をそっちのけで。


 延々と姫署長について議論が始まってしまった。


 これで掲載して良いのか悪いのか。


 結局、自己判断になってしまった。


 

 

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