第43話 自分で食べます!……ばか。

「お寿司が私を待っている💓 らんらーん」


 本日のお仕事も終了。


 夕食を楽しみにしつつ。


 今日を乗り切ったのだ!


 鼻歌はなうたをしながら。


 御門みかど君のアパートに到着。


 うん? 昨夜は私の部屋に彼を宿泊させて。


 今夜は、立場が逆になる訳だけど。


 ふ、深い意味は無いからね! な、ないもん!


 御門みかど君の部屋のチャイムを押す。


 すると、玄関のドアが開かれる。


「ほーい。まつりちゃん💓 お帰りなさい💓」

「ただいま。じゃないからね!? お、お邪魔するもん!」


 これでは。


 彼にあらぬ誤解をいだかせてしまう。


 き、既成事実とか外堀そとぼりを埋めるとか!?


「お寿司にする? お風呂にする? そ、れ、と、も、むぎゅーにする?」

「新婚さんの定番やりとりしないで!? ぶ、ぶん殴るよ!」


 完全に内縁の妻認定されてる。


 な、殴りたくなる笑顔だね!


「どちらかと言うと、かよい妻かな? えへへへ💓」

「訂正する意味あるかな!? こ、こいつ!?」


 次から次へと。


 御門みかど君の発言に辟易へきえきしてしまう。


「ミーカードー! ハヤクマツリサンヲ! ジャマシテナイデ!」

「ひいいい!? 部屋から化物の声がする!? 生贄いけにえとして、村一番のおなごをささげなければ!?」





「うーん💓 まぐろ💓 最高です💓」

「好きなだけ食べてね。初めからお寿司をご馳走ちそうすれば良かったわね」


 勝ち誇った表情で御門みかど君に言い放つ。


 その理由は――


御門みかど君は生もの食べれない人だからね。せっかくのお寿司なのに」

「ふん! 玉子と納豆巻き、シーチキン、いなり寿司は食べれるもん!」

「そこだけは、コストパフォーマンスが良いわね。腹立つ!」


 昨晩は洋食店で散財さんざいさせられた咲さん。


 恨み節だね。


「あれ? 君は何を食べてるのかな? 肉じゃが?」


 一人だけ抱え込むように。もぐもぐ食べている。


 ご飯無しで、おかずだけ。


「私にも食べさせてよ! 独占禁止だぞ!」

「えー。俺の唯一の夕食なのに。仕方ないな。ほら、あーん💓」


 じゃがいもをひとつまみ。


 はしで私の口元に運んで来た。


 条件反射みたいに。


 そのままパクリと食する私。


「あっ? 美味しい味付け! 御門みかど君、どこで買ったの? 今度、私も買いたいぐらい好きかも!」

「ぐはああ!? まつりちゃんの無自覚に殺されるうう!? キュン死しちゃうよおお!?」


 苦しみにのたうち回っている。


 訳が分からない。


「その……祀理まつりさん? 驚かないでね? その肉じゃが、御門みかどが作ったのよ」

「ふえっ? 作った? 御門みかど君が? へー。……っうう!?」


 み、みかど君の手作り!? う、嘘!? 


 私、素直な感想を言い過ぎたかも!?


 それと、私!? 


 食べ物に目がないからって。


 御門みかど君に食べさせてもらっちゃった!?


「ち、違うの咲さん!? お腹がき過ぎて!? み、御門みかどのやろーの策略に!?」

「ええ。分かっているわ。全部、御門みかどが悪いって」


 慈愛じあいに満ちた表情で慰められた。


 変に弁解しない方が良かったかな!?


「ほら、祀理まつり。とても美味しい肉じゃが💓 まだあるからね💓」

「ちょ、調子に乗るな!? 自分で食べます!……ばか」


 先程から食べていたお寿司の味が。


 混乱のあまり。吹き飛んでしまった。


 憎らしいかな。……肉じゃがの味だけは、しっかりと残っているのに。



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