第20話 ちょ、ちょっと!? 居座る気なの!?

「ここが祀理まつりの部屋か!……その前に」

「それって、塩?」


 御門みかど君が取り出したのは。


 お弁当用のトッピング?『からげ専用』と書かれている。


月夜野つきよの署長から、貰っておいたのさ。しかし、彼女は弁当屋でもやってるのかな? いや、差し入れ担当か? 他にもトッピングが何種類もあったぜ?」

「清め塩の代用? お葬式の帰りに渡される? あの?」


 どうやら、私の部屋に入る前に。


 けがれをはらうらしい。


 気を使っているのか。


 変な所で律儀りちぎだね。


「精神衛生上の意味合いが強いけどな。ほら、祀理まつりの分だ」

「ど、どうも。……君は、本当に難解だね? 唐突とうとつにマナーを守ったり」


 渡された塩を私自身に振りかける。こんな感じかな?


「はい、それじゃあ、私の部屋に入れてあげるけど……用が済んだら、帰ってよ?」






「……ふーん。きょろきょろ。うわ、まつりちゃんの匂いがする!」

「どんな匂いなの!? そもそも、私の体臭を認識するほどいだ事あるのかな!?」


 予想以上のコメントだよ!? 


 平然と言うセリフでもないからね!?


「さてと、テレビをつけて。祀理まつりは明日も仕事だろ? 早く寝なさい? 貴女の事を大切に思っているのだからね、お母さんは」

「ちょ、ちょっと!? 居座いすわる気なの!? トイレはどうした!? 私の母親気取りかよ!?」


 思わず言動が荒くなる。


 と、泊まる気か!? こいつ!?


 私を異性だと思ってないのか!?


「……さっそく、ニュースで取り上げているか」

『……遺体が発見された公園は、以前にも女子児童の遺体が発見されており、警察は連続殺人事件の可能性を視野に、捜査を続けるとのことです』


 テレビアナウンサーが現場から生中継をしている。


 今更ながら。


 あの公園で、事件があった事を再認識させられた。


 現実感が無いけど。


『また、被害者のご家族からコメントが発表されました。読み上げます』


 ……気が重くなってきたな。


 私はニュースの内容をあえて聞き流した。


『何かの間違いであってくれたらと何度も思いました。不謹慎な事ですが、被害にあったのは、自分の娘ではなく、他人の子供だろうと。あの公園には近づかないように常日頃から、注意をしていましたし。なぜ、娘があの公園で殺されなければ――』


 あれ? 御門みかど君は? 


 目的のトイレに行ったのかな?





「……やっと出て来た。君は人の家のお手洗いで何を――」


 私は、馬鹿だ。


 少し考えれば。


 分かった事だ。


 あの公園で、彼が何を目撃したのかを。


 そして、なぜ。


 私に膝枕ひざまくらをさせたのか。


「だ、大丈夫!? 御門みかど君!? 顔色が悪すぎるけど!? もしかして、吐いてたの!?」


 よろよろとその場で倒れ込んだ。


 と、とりあえず、楽な姿勢に。


 布団も用意しないと。


「……ただ、疲れただけだよ。死者にかれて、疲れた。それだけさ」


 おそらく、被害者の死体の様子を思い出したのだろう。


 むしろ、今までよく耐えていたと思う。


「何で言わないのかな? 体調悪い事をさ」

「……別に。言ったら治るのかい? それよりも市販の薬が欲しい」


 そ、そうだった。


 文句を言う前に、薬でも飲ませなければ。


 胃腸薬があったはず。


「あった! あと、お水だね!」

「……いやはや、最近の部屋着は可愛いな。女子高校生にも見えるぞ、祀理まつりちゃん」


 気分が悪いのによくもまあ。


 軽口を言えるね。


 普段からこの調子だから。


 彼の変化を見逃してしまったのだ。


「……はい、どうぞ。飲める?」

「ありがたや、ありがたや。不老長寿の薬じゃ! 誰にも渡さんぞい!」


 君は、昔話のお爺さんか!?


 小芝居こしばいを披露して意味あるの!?


「……この調子じゃあ、今日は帰れないよね? しょうがない、人道的な観点から泊めてあげるよ?」

「わーい!『今日は家に両親がいない日なんだ』イベント発生! 不束者ふつつかものですが、よろしくちゃん!」


 そもそも一人暮らしだから!? 


 やっぱり、強制的に帰らせれば良かったかも!?

 

 

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