第76話 無慈悲な結末を。宣告されてしまった。

「……咲嬢さきじょう? 目がめたか!」

「……あかぎ……警部?」


 視界しかいがぼんやりとする。


 私、何をしてたのかしら?


 けん怠感たいかん我慢がまんしつつ。


 強引ごういん起床きしょうしようとする。


「無理して起きなくていいぜ。寝てろ」


 けれど。体が動きにくい。麻痺まひまでは、していないけど。


 ここは? 病院? 確か――


『咲先生とやる事をやっちゃおう!』


 その瞬間。全てを思い出した。


 あの想定外の容姿をした。


 化物ばけものみたいな犯罪者との遭遇そうぐうを。


「あの犯人は!? どうしたの!?」

「……その前に。確認しておきたい。咲嬢さきじょう、どこまでの事を覚えている?」


 刑事の顔で、逆に質問されてしまった。


 時間経過とともに。記憶も曖昧あいまいになってしまうから。


 早いうちに、事情聴取したいのかしら?


「……神社跡地で襲われて。……犯人が誰かに気が付いて。その後の事は……覚えてないわね」

「……そうか。肝心かんじんな場面の証言は無理か」


 複雑な表情を見せた。


 事件は、まだ解決してない?


咲嬢さきじょうが意識を失った後。……やっぱり、おめえから話しやがれ!」


 赤城警部が右側のカーテンを乱暴に開けた。


 私の病室は一般的なもので。個室では無かったらしい。


「いやん💓 いきなり仕切しきりのカーテンをけないで!」


 左腕は、首から包帯ほうたいげている。


 青白く。やつれ果てた。


 それでいて。言葉と裏腹に不機嫌そうな。


 御門みかど はらえがベッドでしていた。


「……ちょっと、待って――」

「死んだよ。あの犯人」


 私の理解が追い付かないから。話をさえぎろうとしたのに。


 無慈悲むじひな結末を。


 宣告せんこくされてしまった。


「死亡し……た? なん……で?」


 これは、いつもの軽口かるくちであって欲しい。


「君を助けた結果に決まってるじゃないか。あんな場所で襲ったら。階段から転げ落ちる可能性もあるだろ?」


 あの時。犯人と対峙たいじしたのは。


 本当に、貴方あなたなの?


 だとしたら。


 救出にけ付けるはずが無い。


 御門みかど自身が言っていた。


「……私をおとりに利用したの?」

「君を標的ひょうてきにしたのは犯人だぜ? その指摘してきはひどいと思う! ぷんぷん!」


 あからさまに。


 負傷した左腕を心配そうに確認している。


 ちゃんと助けに向かい。


 名誉の負傷までしたと。


 暗に主張しているみたいだった。


「さて、約束通り。質問があれば答えるよ? 消化試合しょうかじあいみたいな感じだけど」


 犯人の正体が判明し。事件も結末にいたった。


 今更いまさら、何を聞けと?


 それに、私の心境は。


 カオス状態だ。


 この騒動をどう受け止めたら良いのか。


 怒り、悲しみ。なげき?


 感情も。落としどころを求めて。


 こうして……さまよい続けているのに。


「ふむ。要点だけを一方的に話すよ。……その様子だからね」






「たかさき君のスマホにね。ウィルス――位置特定アプリだった!? を秘密裏ひみつりに入れておいたよ! てへ!」

「……は!? いつの間に!? 盗聴、盗撮機能まで無いでしょうね!?」


 御門みかどから謎の条件の一つ。


『常に連絡れんらくを取れる様にしておけ!』


 私の居場所を常時じょうじ監視かんしする為だったのね!


 そして、もう一つの条件。


 学校の見回り活動の参加を合わせると。


 完全に囮役おとりやくじゃない! やっぱり!


「その成果せいかで君を救いに行けたんだからね!? ちゃんと、ドクターヘリとかの手配もしたんだよ!? さつきちゃんにさ!?」

「……出血死しなくて良かったわね! 御門みかど!」


 ほら! 下準備もしてるじゃない!


 想定外の事態にも。対処出来るように。


 ただ、すべてを見通す事は無理だったわね。


 御門みかど自身が重傷になっているもの。


 犯人に不意打ちをされて。


 運良く。刺されながらも。腰をかし。


 気づくと相手が消失してたらしい。


 犯人は勢い余って。


 あの長い階段から。


 自ら落ちた格好になってしまったとの事だ。


「それよりも。犯人の姿を知っていたのかしら? 事前に?」


 あの無邪気むじゃきな姿。


 前もって知り得ておかないと。


 確実にだまされてしまう。


浅間あさま うらら君の事を覚えているかい?」

「ええ。三人目の被害者で中学生の? 確か、男性恐怖症だった?」


 男性が接近すると。


 じんましんを発症してしまう。だったかしら?


「彼女の担任の先生――女性教諭に話を聞いてね。男性恐怖症の対象年齢を探ってみたんだ」


 なるほど。彼女が襲われた時に。


 発症していない理由を追求したのね。


榛名はるな中学校は小中一貫校。部活動も一緒にしているとの情報。で、うらら君はどうしてるの? なんと、体操を教えていたとの事だ。同級生からお年寄りの年齢だと発症する事も判明」


 小学生。幼い子供は大丈夫だったのね。


 ……皮肉な事ね。


 唯一、男性恐怖症が発症しない姿だったのに。


「それからは。事件現場周辺の防犯カメラを再チェックだよ。ほら、君のセクシーな尻拭しりぬぐいをする事になったじゃないか! むらさきパンツ弁護士!」


 その通りの指摘だけど!


 誰が子供の姿に注視ちゅうしして調べるのよ!


「で、あやしい候補こうほ浮上ふじょうしたのが。例の犯人さ。ただし、判明したのは昨日だよ。どちらにせよ、時間が足りなかった」

「……その間に、私が標的にされてしまったって事ね」


 仮に。御門みかどの条件を受けなかったら。


 人知れずに。


 犯人に襲われていた可能性もあった。


 そう考えてしまうと。


 一概いちがい御門みかどを責められない。


 四六時中しろくじちゅう、私の居場所を監視していたのは遺憾いかんだけど!





 



 


 


 



 


 


 

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