第75話 ――呪詛返し。

「犯罪をするには、便利だからね。この姿は。警戒けいかいなんて一切しないし」


 手始めに、小学生の女児を襲った。


 れていなかったので。


 手違いで殺してしまった。二人も。


 じゃあ、殺すなよ。と反省をしたんだけどなあ。


 その影響で、警察の捜査も頑張っちゃたし。


 懸賞金騒動まで。


 こうなると。


 慎重に獲物えものを探さないと。


 で、ちょっと山奥の榛名はるな中学校まで下見したみに行った。


 ちょうど、帰宅する中学生を発見。


 しかも、一人。


 部活で居残り練習でもしてたのかな? 幸運だ。


 帰り道にうずくまっていれば。勝手に声をかけてくれた。


 体格差たいかくさを考慮して。スタンガンを使用したけど。


 威力が強すぎた。あっさり、気絶。


 どうしたものかと思案中しあんちゅうに。


 不意打ふいうちのパトカーのサイレンだ。


 こんな所までパトロールするとは。


 しどろもどろになって。中学生を殺しそこねた。


 それからしばらくは。


 大人しく潜伏期間せんぷくきかんだ。


 警察の捜査の進展を見極みきわめて。


 安全かどうか判断。


 どうやら、中学生は意識不明状態。


 これも、幸運だ。


 そして、活動再開と同時に。


 目の前の、咲先生からやって来たのだ。


 もはや、天啓てんけいだろ?


「じしゅ、をすすめるわよ?」

「ふへへへ! げほっ、げほっ。ここまで冗談じょうだんが上手いと。漫才師まんざいしにもなれるね! 咲先生!」


 む程に笑うのも。久しぶりだ。


 こんなに有意義な時間を過ごせるとは。


 やっぱり、俺の行動は間違いじゃないって事だよね!


 生きてる事を実感出来る!


 ありきたりなセリフだけど!


「本当に自首じしゅして良いの? それだと、死刑の可能性、低くなっちゃうよ?」


 現在、女児二名を殺害。


 中学生を殺人未遂。


 これから、咲先生との事を考慮しても。


 何より。裁判員の前で。


 こんな姿で登場されたら。混乱するだろう。


 さらに、演技も追加したらさ。


 死刑の判断出来るかな? 一般の方々は。


 もし捕まっても、楽しみが増えるだけ。


 さらなる、悪意を皆さんにプレゼントしちゃうぞ! 


 精神を壊すぐらいにさ! 


「そんな事よりも。咲先生とやる事をやっちゃおう! 目の前に大好物が用意されたら。我慢するのは、拷問ごうもんだもんね!」


 でもなあ。


 こんなにキツイ目つきで威嚇いかくされると。


 うーん。


 ま、その内に気にならなくなるかな?


 気持ち良くしてあげれば、問題なしだよね! うんうん!


 咲先生のスカートに手をかけて。


 お楽しみの時間が始まる——


「丸っこいのはメイドのカナさん! ふう。到着でござる!」


 後方の鳥居の階段から。


 言葉遊びのリズムで、上がって来やがった。


 オタクで童貞っぽい奴を認識した。


 この時。


 必ず、奴をぶっ殺すと思ったのは。


 言うまでもねえよ!





「おや? 少年? そっちで倒れているのは? 母君ははぎみ?」

「うん! 熱中症みたいなんだ! これから助けを呼ぶ所だったから!」


 大きな声で返答する。


 咲先生に接近されたら。厄介だ。


 こちらから、行ってやるよ! ぶっ殺しにな!


 幸いな事に。


 ポケットにサバイバルナイフが入っている。


 奴から見えない様に。


 後ろ手でナイフを隠しつつ、接近。観察。


 神主かんぬしみたいな装束しょうぞくだ。


 コスプレオタク?


 上が真っ黒。下は真っ白で、勾玉まがたまの形。


 太極図たいきょくずの模様?


 それと、メイドのエルフが描かれた。


 紙袋かみぶくろを持っている。


 確実に、オタクの乱入者だ。


 クソ野郎が! 聖地巡礼かよ! 


 こんな場所にすら、来やがって!


 これから豪華な食事って時に。


 邪魔されたら、殺意をいだくだろ?


 でも、咲先生の精神的に追いめる事には成功かな?


 助けが来たと希望を持たせてからの。


 絶望。


 スパイスとして利用価値は……あるか。


 こいつの死は。


「助かったよ、お兄さん。ぼく一人じゃ、何も出来なかったから」

「ほほう! エロいぞ少年! じゃ、じゃねーし!? 母君、色っぽいでござるな!?」


 五メートルの距離。


 人の女を腐った眼で見てんじゃねーよ!


「そうかなあ? でも、美人なのは自慢じまんかな!」

「でも、性格は厳しいそうでござる。教育ママ殿では?」


 三メートル。


 みょうだ。


 危うく、納得しそうになったぜ。


「全然! そんな事ないよ! いつだって優しいんだから!」

「そうでござるか。自分もそんな女性と関わりたい……二次元命でござる!」


 一メートル。


 童貞のまま死ぬ事には。同情するよ?


 あーあ。野郎は趣味じゃねーんだけどさ。せめてもの情けだ。


 心臓を一突きで。仕留めてやる!


「じゃあ……死ね!」


 無慈悲むじひで不可避な刺突しとつ


 予知能力でも無ければ、ふせげない。


 現に、した感触が。右手に伝わった。


 殺したぜ! 簡単な作業で、あっけない。


『――呪詛返じゅそがえし』


 何だ? この浮遊感は? 世界がさかさまだ? 


 鳥居とりいも反転してるぞ?


 そうか! 邪魔者を排除して。


 咲先生とのお楽しみ中だったのか。


 快楽かいらくすごすぎて。


 飛んでるような気持ちなのか! ひゃあっほーう!


 あの咲先生を! ついに、ったんだ! 


 これから、何回もしちゃうけど!


 もうこの映像は良いからさ! 正常になってよ!


 全てが逆さまの世界に。


 あの男が。


 鳥居の中心に健在けんざいしていた。


 左腕には、俺のナイフが刺さったまま? 


 は? 意味不明だろ?


 それに、こちらを一瞥いちべつする姿に。


 戦慄せんりつした。


 ただのオタクじゃ無い!? まんまとだまされた!? 見た目にまどわされて!?


 まるで、俺がしてきたおこないを――そっくり返しやがった!?


 いやいや。そんな訳ねーだろ!? 


 だって、俺はこの愛らしい姿だぜ!?


 それを、地上に向かって巴投ともえなげする外道なんか居るはず無い!


 ここから転落したら、死ぬだろ! 普通にさ!


 確かに、ナイフで刺したはずなんだ! 違う!? 


 刺される前から、地面に倒れかかっていた!?


 左腕で心臓の一撃を防ぎ。そのまま、寝転びながら――


 時間の経過も、あべこべになってきやがった!? 


 思考が、ごちゃごちゃだ!


 とにかく、このままだと死ぬ! 


 咲先生と愛し合う前に!? 


 ふざけんなよ! くそがあああああ!


 


 


 





 


 

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