第74話 これこそが、俺の唯一の社会とのコミュニケーションだ!

「うーん。出力しゅつりょくの調整が難しいんだよな。このスタンガン」


 咲先生の背後から。腰付近に押し付けた。


 でも、失策しっさくだな。


 これだと、会話もままならない。


 せっかくの二人きりなのに。


 だって、途中から察知しそうだったから。


 下手をすれば、この場から逃げ出したかも。


 だから、あわてて強襲きょうしゅうしたのだ。


 予想外だったなあ。


「しょうがない、少し回復させよう。うん! それが一番!」


 賽銭箱さいせんばこの前で。


 うつぶせに倒れているから。


「ほら! 咲先生! 箱を背もたれに! よいしょ!」


 介護かいごをする様に。


 魅惑な肢体したいを移動させた。


 それから、外部の連絡手段のスマホを確保。


 どうやら、誰にも連絡していないらしい。


 そもそも、ここの場所を教えたのは。


 俺だ。


 ここ最近、小学校の校門前で。朝と夕方に出現してたから。


 それとなく、ここの神社跡地の事を話した。


 その結果。この通り。


 作戦大成功! 


 来なかったら、かなり落ち込んだだろう。


「……あ、なた、なんさい、なの?」

「ひどい! こんな姿だからって! これでも、二十歳の大人だよ!」


 いきなり年齢の質問。


 自己紹介をした方が良いのかな?


 気分は合コンみたいだ。知らないけど。


「ちょっと発育が遅いだけなのに。信じないだもん。誰もさ」


 別に不思議な事でもない。単純な事なのにさ。


 後期高齢者が五十代。


 つまり、年齢よりも若々しく見られる事だって。


 普通じゃん。


 ただし、個人差があるだけ。それだけだ。


「でも、この姿のおかげで。警察にも見つからないんだから。笑っちゃうよね?」


 そう言うと。咲先生の目が。


 敵意てきいに満ちていた。


「そんな目で見ないでよ! ただの事実でしょ?」

「……はんこうの、どうきは?」


 何だかサスペンスドラマのやり取りだ。


 でも、人と話すのは久しぶりだから。


 ここで話を切り上げても。つまんない。


「実は、ずーっと引きこもりだったんだよ」


 突然の身の上話に。


 ちょっとだけ、目つきが怖さが緩和かんわされたかな?


「小学校の入学式には出たけど。いよいよ授業が始まるって時に、引きこもっちゃって」

「学校に、いかないで、ずっとなの? おとなになるまで?」


 信じられないみたいな表情。


 一般的な価値観だったら、そうかも。


「咲先生の知り合いにも居るんじゃないかな? 別にめずしくもないでしょ? 引きこもりなんか」

「あいにく、まともな引きこもりに、であえていないわね」


 俺の事をふくめてのブラックジョーク? 


 ははっ! 確かに! ウケる!


「で、最近になって。引きこもりを脱出したけど。全然、年齢相応の対応してくれないんだ」

「……でしょうね。しゃかいにふてきごうになった。ますます」


 最初は、電車とか映画が子供料金でお得! とか浮かれていたけど。


 本当の年齢を告げると。誰も信じない。


 しまいには。


 子供の冗談として取り合わない。


 どうやら、この身は呪われているらしい。


 こんなんじゃ。社会に居場所なんて。


 いや、もともと適応出来ない人間だった。仕方ない。


 でも、自分だけ貧乏びんぼうくじを引くのは。


 納得いかない。


 だったら、悪意をまきらして。


 やりたい様に、やってやる!


 これこそが、俺の唯一の社会とのコミュニケーションだ!





 


 



 

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