第29話 あの忌々しい男の話題になると。ポンコツになってしまう持病ですの!?

「……今回の事件の概要がいようは、以上になりますわ。ここからは、質問を受け付けます。わたくしが指名しますので。質問のある方は、挙手きょしゅを。媒体名と名前も忘れずに。……では、そちらの短髪の方」


 午前10時に開始した記者会見。


 署長としての説明責任をしなければ! 


 同席しているのは、もちろん。


 部下の赤城警部ですわ。


「『さむらい新聞』の真田さなだです。依然いぜんとして、捜査が進んでいない中で、新たな犠牲者が出てしまった訳ですが。警察として、どう受け止めていますか?」


 あくまでも、冷静に。


 感情的になっては。いけません。


 淡々と質問に答えましょう。


真田さなださんがおっしゃる通り。新たな被害者を出してしまった。誠に、申し訳ないと感じています。しかしながら、捜査員達は、不眠不休で犯人検挙に向けて活動しておりますので。その点に関しては、ご理解頂けたらと」


 波風を立てぬ返答を心がける。


 わたくしの部下達は。


 やるべき事をちゃんとやっている。


 ただ、結果に結びついてない現状が。歯がゆい。


 実際に、新たな犯行まで起きてしまったのだ。


 警察としては。言い訳など到底できませんけど。


「よろしいでしょうか? では、次は、ポニーテールの女性の方」

「『週刊親しき仲にもスクープ』の玉村たまむらです。昨晩、新たに遺体が発見されたました。その時に、第一発見者の方が警察に連行されていましたが。その後の扱いは、どうなりましたか?」


 週刊誌の記者ですわね。


 返答にはより一層、注意しないと。


 偏見かもしれませんが。


 週刊誌が売れる為なら。何でも書く。


 そのような連中と認識していますから。


「えーっと!? あの方は、怪しい様な!? 不可思議な存在と言いますか!?」


 記者達が一斉にカメラのシャッターボタンを押した。


 しどろもどろに返答してしまった影響だろう。


「重要参考人扱いでしょうか? どんな供述を?」


 ここぞとばかりに。


 ポニテ女性記者がたたみみ掛ける質問を。


 心なしか、声色こわいろが熱を帯びている。


「きょ、供述でしょうか!? よ、妖怪、あばずれ弁護士が恐ろしいとか!?」

「それは、犯行の自白ととらえて、よろしいのでしょうか?」


 わたくしったら一体何を口走ってますの!? 


 あの忌々しい男の話題になると。ポンコツになってしまう持病ですの!?


 目の前がぐるぐる回転しそうな勢い。


 ど、どうしましょう!?


「捜査の陣頭指揮をやっている、赤城だ。まだ、捜査中の段階で発表する事は、何も無い。一般人が死体を見つけたからな。精神的にも不安定な言動を取っただけだぜ」


 やや強引に。


 隣席りんせきしていた警部にマイクを奪われた。


 ハプニング発言をものともせず。眼光鋭く答えている。


 あら!? わたくしを見かねて、フォローしてくださったの!?


 流石、わたくしの部下ですわね! 赤城警部!


「しかし、月夜野つきよの署長が、第一発見者を取り押さえてる様子を目撃しましたが?」

「ああ。だから言っただろ? 痛ましい死体を発見した影響で、錯乱状態でな。暴れる所をなだめてた。それだけだ。なあ?」


 ちらりと横目で合図を送る警部。


 阿吽の呼吸ですわね!


「ええ、多少荒っぽい事になりましたが。その後、聴取を続けると、徐々に落ち着きを取り戻しましたわ。アリバイ確認も、しっかりと裏が取れましたので」


 いささか不満な表情を見せた女性記者。


 スクープを物にしたかったのだろう。


「はい、それでは次の質問者ですわね。では、バンダナをしていて……可愛らしいイラストが描かれているTシャツの方!?」


 ぽっちゃりとしている体型にメガネ。


 オタクどちら様!? とツッコミを入れそうになりましたわ!?


「『一生萌え日和びより』のでゅへ! です。ち、ちなみに、ペンネームで活動しているので。ご容赦だお。オタクの為の情報誌をフリーペーパーを制作してますです」


 一難去ってまた一難ですの!?


 わ、わたくし、この記者会見をやり過ごせますの!?

 

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