第61話 何の変哲も無い質問だけど?

「娘の男性恐怖症についてですか?」

「犯人像を確定させる為――いや、参考情報として。無理には聞かないし、プライバシーは守るよ」


 ゆきさんは。


 しばらく考え込んでしまう。


 私も、御門みかど君を再度注意しようか迷った。


 そもそも、私が御門みかど君の扱い方にけていると思われているけど。


 決して、そんな事は無い。


 こうして、彼の言動に。


 神経をとがらせているのだから。


「……事件解決に役立てるなら。署長さんにも色々とお世話になっていますし。分かりました」

「……はっ!? おーほほほ! わたくしとしては、当然の事ですので。お気になさらず」


 さっきから、御門みかど君の事を注視。


 いや、ピラミッドの財宝を狙う不届き者に対する。


 ミイラの視線と言うべきかな?


 全身包帯でぐるぐる巻きのさつきちゃん。怖いです。


 ゆきさんの返答もそっちのけで。


 彼を威嚇いかくしている。


「まずは、対象年齢は? 男性すべてが、駄目なのかい?」

「中学生から老人まで? 幅広はばひろいと思いますけど」


 かりかねないとの事。


 うーん? 年齢をさぐるのに意味あるのかな?


「次は、男性恐怖症の症状は? やっぱり、過呼吸とか動悸どうき? うららっちは?」

「おっしゃる通りです。流石、プロファイラーさんですね」


 気安く愛称あいしょうで娘さんを呼ぶな! 


 ゆきさん、彼はニートで引きこもりです。だまして、ごめんなさい。


 指摘したいけど、会話の邪魔になるだろうから。黙っておこう。


「他に、彼女特有の症状はあるかい?」

「……じんましんが。全身に出る事が多々あります」


 皮膚が赤くなったりする事だね。


 若いのに大変だ。思春期なら、なおさら。


 ありきたりな同情をしていると。


 御門みかど君の標的は。


 突然、さつきちゃんに。


「だってさ。さつき君」

「はい、さつきですわ?」


 気品ある声で、返事をする。


 伝統ある女学校の生徒みたい。


「だからね、さつき君」

「はい! さつきです!」


 先ほどの返事よりも。


 はっきりとした口調で応じる。


 しかし、どうにも意思疎通いしそつうがおかしい。


 例えるなら、漫才まんざいのコントを見ているようだ。


「…………」

「…………」


 今度は、御門みかど君の表情がくもる。


 あきれているね、この顔は。


「あのさあ。浅間あさま君の話を聞いてた? もっちもっち?」


 もしもしとたずねているのだろう。


 いや、もっちり姫と称されている事を。からかっているんだね。


 私は、さつきちゃんのもっちり加減? は良く分からないけど。


 綺麗なお姫様みたいだと言う事には、同意する。


 そんな彼女をなじっている彼は。完全に悪役だろう。


 はあ。こんな調子だから。


 無礼な人物の代表的存在になるんだよ?


「だ、誰がもっちり野郎のもっちーですのおお!? ぐげえええ!? 粉骨砕身ふんこつさいしん!?」

「そこまで言ってないし。ぷぷぷぷ!」


 たまらず激昂げっこうするさつき姫。


 けど、全身は文字通り? あれ?


 そもそも粉骨砕身ふんこつさいしんは、本当にそんな状態をす言葉じゃないよね?


 いけない、いけない。


 御門みかど君の影響で。


 ツッコミ能力を向上させてはダメだ。


 不謹慎ふきんしんだよね。


「こみゃぁーさん! 翻訳ほんやくしてくださいませ! わたくしには、理解不能ですわ!」


 どこかの方言みたいに。


 投げやりに私の名前を呼ばないで!?


 突然の指名。


 だからね、私は御門みかど君の思考をサポートする人物じゃないんだけどなあ。


御門みかど君、お願いだから。もう少し、かみくだいて説明してくれるかな?」

「ひゃっほう! まつりちゃんに上目うわめづかいでお願いされちゃった💓」


 完全な誤認だね。くねくね身もだえするな!?


「うんうん。しょうがないなあ。まつりちゃんの愛に感謝したまえ。もっちー」

小宮こみやさん、助かりましたわ! がるるる!」


 今にもみつきそう。


 早く本題に戻って欲しいよ。


うらら君を発見した時に、は出ていたかい?」


 何の変哲へんてつも無い質問だけど? 


 さつきちゃんに聞きたい事ってこれ?


 だと——この時は知るよしも無かった。


 


 






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