第27話 ストレッチでもしましょう? 私も手伝ってあげるから。

「不審な人物の定義? 挙動不審きょどうふしんな動きをしているとかでしょ?」

「まあ、分かりやすい例だね。その場にそぐわない行動、態度をしている。じゃあさ、この事件の容疑者は不審人物じゃないって事は? 理解してる?」


 え? 容疑者の情報が無いから。


 まずは現場周辺の不審者を探しているのよ?


「この段階で、その結論を出すのは早すぎでしょ?」

「だって、不審な人物は確認出来ないのだろ? なら、容疑者は一般人と変わらない行動をしている奴だろ? むしろ、そちらの人物を映像で追った方が良いと思うけどね」


 それだと、ほぼ全ての人物が対象じゃない!?


 人手が足りないわよ!


「あのねえ、御門みかど。そんな手間のかかる事、無理でしょ? 防犯カメラだって、死角や設置されてない場所だってあるのよ?」

「すまん、言い方が悪かったね。容疑者は、不審者じゃないって事さ。うん。あくまで僕の考えだから。間違ってると思うよ? どうぞどうぞ、不審者を見つける事にいそしんでくれたまえ。無駄な作業では無いからね」


 こ、小馬鹿にされてる。


 まるで、私がしている事が。


 無駄だと言わんばかりに!


御門みかど? ずっと座ってると、体に悪いから。ストレッチでもしましょう? 私も手伝ってあげるから」

「い、いきなりどうしたのさ!? こっち来るな!? お、怒ってるのかい!?」


 逃げ惑う御門みかどに接近する。


 美容と健康の為だから!


「はい、両足を開いて。床にぺたーんと。ひたいを床に近づけるイメージで」

「い、痛いよおお!? 背後から押さないでええ!? こ、腰があ!?」


 開脚前屈ストレッチをさせてあげる! 


 あら? 体が硬すぎみたいね!


「日頃から運動してないからよ? はい、スッキリ!」

「うううう。体を痛めただけじゃないか!? ひどい!? 鬼! 悪魔!……密着については不問ふもんにしてやる!」


 ふう。私もスッキリしたわ。


 憎まれ口を止める事が出来て。


 あと数回やってやろうかしら?


「不審者じゃない根拠こんきょを言いなさいよ。モッタイブラズニ!」

「……俺が発見した遺体の遺族が『あの公園に近づかない様に、常日頃から注意していた』ってコメントしてたよ。そうなると、不審者に対しても注意をうながしたはずだろ? しかも、注意されていたにも関わらず、あの公園に行くのもなあ。不審者に公園に行こうと誘われた時点でも、俺なら逃げるね。あらゆる手段で」


 ……確かに。御門みかどの主張にも納得する部分もある。


「子供だから、親に対しての反発心や興味本位で公園に近づいたのかも? もしくは、不審者に脅されて公園まで誘導されたり、恐怖で黙って従うしかなかったとか?」

「興味をもった日に限って、被害に合うのかい? ほら、まただよ。偶然って奴。重なり過ぎだよ。もはや、必然だろ?……やっぱり、不審者じゃなく、そこら辺に居る普通の人間が。言葉巧ことばたくみに公園まで一緒に行った。そして、犯行に及んだ」

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