第65話 さて、特大の呪詛をくれてやるぜ!

 本日は、厄日やくびだったらしい。


 おかしいな? 


 目覚めた時は。


 最高な一日が始まると信じていたのに。


 大抵、悲劇に見舞われるのは突然さ。


 現に、体育会系の熊みたいのに殴られて。


 ぷぷぷぷ。マジ受けるんですけどお! マジまんじ


 あれだ、アニメのかませ犬キャラ。


 地べたとキスしているシーン。


 実演しているから! 周囲のみんな! ぜひ、見に来てね! 


 御門みかど、待ってるから!


 ああ、意識がぐらついて。えーと、さっきまで何をしてた――






「ふんぎゃあ!?」

「わ!? 地面にいつくばって寝てたの!? ゴキブリかな!?」


 そうだ。まつりちゃんの両足に。


 背中をふみふみされて。


 起床したんだ。


「ソファーで就寝しゅうしんしたんじゃ? どうして、私のベッドの足元に?」


 相変わらずのジト目。疑っている。


 スケベなまつりちゃんめ!


 すぐ変態的行動を連想するんだから! 


 実に、けしからん!


「失礼な! まつりちゃんが勝手に寝落ねおちしたんじゃないか!」

「そうだっけ? ぬ? 私、自分のベッドに戻った記憶無いよ?」


 人に絵本を読み聞かせる役目を頼んでおいて。


 自分にはメリットなんて全く無かった。


 全然、皆無、一切いっさい


 こんな役目は、二度と!


「ああ。だって、背負ってはこんだから。コアラみたいに」

「コアラ、可愛いよね! ぬいぐるみと間違う!? 待って! おかしい!」


 急にどうしたのさ? コアラは可愛いよ? 


 まつりちゃんも。もちろんだし?


 疑問点なんて。きっと、疲れているんだね。


 心配ばかりさせるんだから。


「世の中は、不思議な事ばかりだもん。おかしいと感じるのも自然さ。でもね、おかしいと思う心も……実は、おかしいよね?」

「思考の迷路にいざなうな!? 違う! そうじゃなくて!」


 もう! さっきから! 取り乱して! ぷんぷん!


虚言きょげんでしょ!? 私、体重あるし!? 君、ひょろいじゃん!」

「分かったよ。まつりちゃんが自分でベッドに行った。以上。終了ですわー!」


 しばらく放置しておこう。


 まったく、人騒がせな祀理まつりだぜ。


 かついだ時に。不可抗力で、手がお尻とか。


 背中にお胸が当たったかもしれないよ?


 おかしいな? うん。おかしいな? 


 ぐふふふ!


 まつりたん、ハアハア!


「信じられない! 変態! ばか! くたばれ、色欲しきよくはらえ!」


 散々さんざんののしってからの。まくら投げ。


 これも、一種の愛情表現だから。甘んじて受けよう! 


 ぶへっ!? 痛いよおお!?




夫婦漫才めおとまんざいは終わりましたの?」

「これはこれは。昨晩、あられもない声でもだえていた、もっちり姫じゃないですか?」


 まつりちゃんとのじゃれあいが終了。


 気配を消していた。


 もっちーが皮肉をべた。


「ち、違います! おかしな表現、しないで下さいませ! くっころ!」


 自分だって、とらわれの女騎士みたいな事を。


 え? 月夜野家つきよのけでは、くっころ精神を受け継いでいるの?


赤城あかぎのおっさんから、連絡れんらくは? 早朝そうちょうだから、特に無いか」

「すでに、午前10時を過ぎていますわよ? 小宮こみやさんは、ゆっくり過ごして構いませんが!」


 そうだよね。まつりちゃんは、また風呂に行ってるし。


 骨休ほねやすめだもん。


 温泉の効能で一段と綺麗に。


 ふひひひ! た、たまらん! 今日は、大吉だぜ!


「ちょっと、こちらまで来て下さい」

「ほいほい。もっちーも体が痛むだろうから。御用聞ごようききぐらいは」


 執事しつじは無理だけど。家事手伝いを甘くみるなよ!


 さつき君の意向を聞こうと。彼女に接近する。


「【電撃よ! 手のひらに帯電せよ! サンダービンタですわ!】」

「その呪文は!? ぎゃん!?」


 思いっきり、ほほを平手打ちされた。


 誰だよ!? クリスティーナの魔法を教えた奴は!?


「気色の悪い笑みが消えて何よりですわ! そして、おーほほほ! お疲れちゃんですわー!」


 完全になりきっている。


 ぽんこつ令嬢れいじょうのクリスティーナに。


「わたくしなりに相違点そういてんをまとめて。不名誉ふめいよなキャラクター像を払拭ふっしょくですわー!」


 いつの間にか仕入れたのか。


 手には『俺の精神力が~』の原作ラノベ。


 逆効果じゃないか? その内に、作者から公認されそうだ。


 面白いから、黙っておこう。


「それと、ご質問の赤城あかぎ警部でしたら。お昼前に顔を出すらしいですわ。予定ですけど」

「そう。……浅間あさま君の所に行ってくるか。確認する事があるし」


 読書の時間を邪魔する訳には。


 せっかく、自分からクリスティーナの事を学ぼうとしているのだから。





 浅間あさま君は。うららっちの病室には居なかった。


 さつき君の病室と同じで、特別待遇とくべつたいぐう部屋だ。


 インターホンを鳴らしてみたが。無反応。


 となると。買い物かな? ルームサービスで取り寄せも可能だけど。


 浅間あさま君の事だから。


 遠慮して、自腹で院内のコンビニでも行ったか?


 こうして、院内を捜索していた訳ですよ。


 そうしたら、うつむき加減の彼女を発見した。


 かたわらには、中年でジャージ。


 いかにも前時代的な監督みたいな風格で。


 校門で竹刀しないを持って、待ち構えてます? 生徒指導が趣味ですか?


「やっほー! ユッキー! むぎゅーしてください!」

「……え、プロファ、御門みかどさん!?」


 こんなに身をちぢめちゃって。震えてるし。よしよし。


「……DVの元旦那だったら、軽く会釈えしゃくを。後は、話にうなずくだけで」


 きつきながら、ささやく。


 単に、むぎゅーをしたかっただけでは無いぞ! えへへへ!


 彼女は、ぺこりと会釈えしゃくをした。


 はい、良く出来ましたね!


「おい! お前はゆきの知り合いか! いつまで、からみついていやがる!」

「いやーん。貴方こそ、私を捕まえようとしているじゃない?」


 引きはがしに向かって来るが。


 浅間あさま君を盾にしたり。


 周囲をぐるぐる回り込んだりして。やり過ごした。


ゆきさん、もう一回だけ。むぎゅーして!」

「は、はい」


 ふう。運動すると疲れるぜ! 休憩大事!


「こ、この野郎! お前は――」

「最近、ゆきさんとお付き合いをしている者ですよ」


 ぴたりと硬直こうちょくする監督かんとく様。


 あははは! 素直だね!


「こんな馬鹿と? 嘘だよな、ゆき!」

「ほ、本当、です。……お付き合いを始めたばかりで」


 嘘は言っていないからね。現に、昨日から知り合った仲だもん。


 勘違いするのが悪い。


「そんな訳で。元旦那の居場所はもう、ありましぇーん! ざまあ! グッバイ!」


 おっ? ぷるぷるしちゃって? スライム君かな?


「駄目だよ? 愛し合う時も、独りよがりで乱暴じゃあ? 僕のむぎゅーを参考にしなさいよ? それから――」


 さて、特大の呪詛じゅそをくれてやるぜ!


「彼女達は。殴りつけるサンドバッグじゃねーんだよ! 何なら、等身大の大人なドールでも送ろうか? 保健体育の先生? ぷぷぷぷ!」

「ぶ、ぶ、ぶっ殺してやる! このガキ!」


 おお! 動きがスローモーションだ! 


 ぶん殴られるな! あへへへ!


 



 

 




 






 


  



 

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