第9話 このまま好き勝手に犯行をさせたら、警察は不要だよな。

「……嫌な予感しかしねえぜ。宝くじは全く当たんねーのによ」


 だだの独り言だと分かってるけどよ。


 俺だって。遊びで刑事をやってねーからな。


 悪い予感だけは。


 的中てきちゅうしやがるんだよな。


「赤城警部? お金が必要ですか? わたくしが援助しましょうか?」

「いらねえよ。そもそも、署長に金銭的援助される刑事が居るのかよ?」


 出たぜ。何かと事あるごとに、俺の所に出没する。


 月夜野つきよのさつき。


 有力者だが、上級国民の娘だが知らねえけど。


 育ちが良すぎる箱入り娘。


 警察署内では姫署長なんて呼ばれてる。


 そもそも20代で警察署長になれる訳ねえのによ。


 どんな権力を使ったのか。末恐ろしいぜ。


「困った事がありましたら、何でも相談してくださいね? わたくし、貴方の上司ですから。それから、夕食のお弁当を買ってきましたの。ハンバーグ弁当、からあげ弁当。シャケ弁当、幕の内弁当、酢豚弁当。他にも色々。皆さん、お弁当の差し入れですわ」

「おいおい、勘弁だぜ。弁当屋でも始めたのかよ? 金はどうしたんだよ? ポケットマネーなのか?」


 警察署の目の前に。


 安いがうめえ弁当屋があるけどよ。


 あきらかに買いすぎだな。


「電子マネー対応してませんでしたわ。今度、対応させましょう。紙幣は、かさばって財布に収まらないですからね」

「どんだけ紙幣を入れてんだよ! 弁当屋に行くだけなのによ!」


 間違いなく十万単位の紙幣が入ってやがる。


 思わずツッコミを入れちまったじゃねーか。


 御門みかど坊の役目だぜ。ツッコミは。


「姫署長、差し入れの弁当でありますか? 助かります!」

「おお! 部下思いの署長で、感激であります! ありがたく頂戴ちょうだいしますぞ!」

「わたくし、こんな些細な事でしか労をねぎらえませんが。捜査活動、よろしくお願いいたします」


 部下の奴ら、完全に姫署長の臣下だぜ。


 だが、捜査の士気が確実に上がるのも事実。


 当の本人は謙遜けんそんしているが。


 馬鹿にならねー上司の働きだぜ。


「赤城警部? 腹が減っては戦は出来ません。署長命令です。召し上がって下さい」

「ぐいぐい接近してくんなよ。了解だ。からあげ弁当を貰うぜ」





「それで、どうでしょうか?」

「んあ? ここの弁当に問題はねーよ? からあげはジューシーだし」


 上品に弁当を食ってんな。ひと口が少量だ。


 食事の様子だけでも。育ちの良さを感じるぜ。


「そうですか。一安心しました。わたくしも、庶民のハンバーグ弁当を堪能できて上機嫌です……では、ありません。捜査の進展の方です! わたくし、貴方の上司ですから!」

「上司アピールは何だよ? 新手のパワハラか?……かんばしくないな。やはり、犯人の目撃情報が全く無いのが痛すぎる」


 犯人像が絞り込めてねーし。


 動機は、さほど重要じゃねえ。


 ろくでもねー動機で犯行をするのが。


 犯罪者だからな。


「例の助言をくださる、閉じこもりの方は何と? 確か、新戸にいとさんでしたか?」

「誰だよ!? それを言うなら、引きこもりだろ!? 確かに、閉じこもってるかもしれねーけど! ニートだよ! それと、御門みかどだ!……新たな犯行が起こる可能性、放置していても自滅するとか何とか」


 世間知らずの姫署長との会話には。


 訂正を入れるのが大変だぜ。


「自滅ですか?」

「ああ。犯行が続くと段々、雑になってくるらしいな。初めの犯行よりも慎重さが無くなったりよ。エスカレートして犯人が致命的なミスをやらかす。そして、逮捕される流れだとよ」


 だからと言って。


 このまま好き勝手に犯行をさせたら、警察は不要だよな。


「ですが、このまま放置しておくのは、警察の名折れですわ! わ、笑っていますの? おかしな事を言いましたか? わたくし?」

「いや、同意見だぜ。さつき署長」

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