第78話 ……憑かれて……疲れたよ。

「この野郎!」

「うあっ!?」


 私の思考能力が低下している隙に。


 赤城警部が襲撃者を強引に。


 背負い投げをした。


「み、か、くん? ち、ち。さ、されて」

「……たまねえの、胸をまもるって、いっただろ?」(※49話参照)


 必死に痛みに耐えている。


 今日で刺されるのは二回目だ。


 左腕の手術の麻酔が多少残っているとは言え。


 精神的にも。肉体的にも。


 常人なら気が狂いそうな出来事なのに。


 完全に常軌じょうきいっしている。


咲嬢さきじょう! ナースコールで御門みかどを治療させろ! で、てめえは誰なんだよお!」


 言われるがまま。ナースコールのボタンを押す。


 またもや想定外の出来事で。ぽんこつ状態の私だ。


「……被害女児の父親だよ。俺が遺体を発見した。玉村たまむら君を狙った理由は。週刊誌内容の抗議こうぎだよ」


 御門みかどがお見通しと言わんばかり。説明する。


「遺族で父親だあ?」

「そ、そうだよ! 週刊誌のせいで! こ、心愛ここあは、何度もおかされ続けるんだ!」


 沈黙ちんもくしていた襲撃者が。


 感情をあらわに動機を話す。


 記事内容は――『玉村たまむら記者に続け! 例の通り魔は、性的暴行魔か!?』かしら?(※72話参照)


「わ、たし、かいて、ない」


 腰が抜けて。その場でしりもちをつく格好で。


 玉村さんが。たどたどしく弁明べんめいした。


当該とうがい記事は書いてないけど。主要な記者だと思われたんじゃない? 遺族にしたら」

「ちくしょう! 必ず同じ目にわせてやるからなあ! おかして殺してやる! 待ってろよ、玉村たまむら!」


 例え逮捕されても。再び犯行すると。予言をした。


『本当に自首じしゅして良いの? それだと、死刑の可能性、低くなっちゃうよ?』


 あの化物ばけものの言葉を思い出す。


 もし、生きて逮捕されていたら。死刑になっただろうか?


 無期懲役? 精神的な事で減刑される可能性は?


『もし社会に復帰出来たら。またね! 咲先生!』


 ありたかもしれない呪詛じゅその言葉が。


 私を恐怖につつみ込んだ。


 これでは。ひどいリメイク。


 再演さいえんを見せつけられているみたいだ。


のろいは伝播でんぱするんだよ。たかさきくん』


 御門みかどが言いそうな言葉まで。


 ぐるぐる頭の中で復唱ふくしょうし始めた。


「とにかく署まで連行れんこうだ! おら! 立ちやがれ!」

「……心愛ここあ君はさ。むしろ、君がした事の方で。泣いてるんだけど? お父さん」

「ふざけるな! お前も私の心愛ここあにレッテルをるのか!」


 血走ちばしった目で。御門みかどのたわごとに殺意を向ける。


 家族でも無い奴に。


 娘を知らないくせに。


 お前に、一体何が分かるんだ! と。


心愛ここあ君が言ってるんだよ? ああ! お父さんにはえていないのか!」

馬鹿ばかげてる! 霊でも――」


 御門みかど妄言もうげんを。父親は鼻で笑った。


 だけど――


君、カレーに醤油しょうゆをかけるんだよね」

「……えっ、な、何で!? 家族しか知らない――」


 急に。しどろもどろになった。


 ごく少数の身内しか知らない情報に。


 赤城警部でさえ。


 驚きを隠せない。


「うんうん。酔っぱらうと、をお姫様抱っこして寝室に? ラブラブだね! まさ君!」

「つ、妻と私と。心愛ここあしか知らない。ほ、ほんとに、えているのか!?」


 お姫様とは。多分、奥さんの事だろうか?


 それにしても。


 本当に死者と対話をしているの?


「『まさくん。人を簡単にきずつけるのはダメって。いつも言ってたのに! どうして?』」

心愛ここあの為なんだ! 奴らが好き放題、世間に情報を拡散させやがって!」


 再び玉村たまむらさんに。殺意の表情で訴える。


「『だから、にくをしようとしたの?』」

「……そ、それは! だったら、どうすれば良かったんだ!? なあ!?」


 この事態をまねいた犯人。


 最愛の娘が。一番、うらんでいる存在と。


 同レベルの行いをしてしまった事実に。


 ようやく気付いたらしい。


「『人は感情で間違った行動をしちゃう時もあるから――』

「だ、だから、相手の立場になって。思いやる心。せる存在に。な、なろうって! こ、心愛ここあ! ゆ、許してくれ!」


 御門みかどの言いかけた言葉を。


 父親がつむぎ。泣きくずれる。


 最愛の娘の――名前の由来ゆらい、エピソードまで把握はあく出来るものなの?


「『もう時間だね。……まさ君、お姫様が待ってるから。家に帰ろう? わたし、幸せだったよ。もし、生まれ変わったら――』」

「また、私達、家族の所に? あああああ!」


 嗚咽おえつが病室内にひびく。


 殺意と言うものを。


 浄化じょうかする儀式ぎしきの様に。


「どうしました!? み、御門みかどさん、またさってる!?」


 血圧計を取りに行った女性看護師が戻って来た。


 その他に、騒ぎを察知した医者も病室内に。


「ああ、これ? 果物くだものを食べようとしたら。さった。てへ!」

「じ、自傷行為じしょうこうい!? とにかく処置しょちしますからね!」


 大嘘おおうそだ。何でそんな嘘を――


「まさ君、悪ノリしぎ! 看護師のコスプレして来るなんて!」

「……え!?」


 きょとんとする父親。


 赤城警部は苦々にがにがしい表情だ。


「おっさんに注意されて大泣きだもん。続きは署で。なるべく、酌量しゃくりょうしてやってよ? 

「ったく! しょうがねーな! 行くぞ!」


 現行犯で逮捕する事を見送った。


 いや、微罪びざいとして扱うつもりなのだ。


 遺族で精神的に不安定。減刑げんけいの理由もそれなりにある。


 御門みかど意図いとが伝わったのだろう。


 深々と一礼いちれいした。


「彼女とは金輪際こんりんざい、関わらないでね? ふざけた行為が好きじゃないんだ。それが――


 玉村たまむらさんを守るために。


 遠回とおまわしに。のろいの言葉を忘れなかった。


 赤城警部と父親が病室を去って行く。


 反対に。病院関係者があわたただしく入室して来る。


「……かれて……疲れたよ。たまねえ、後でちゃんとはらうから――面倒めんどうを」


 ことづけを残す途中で。


 死人の様に。


 御門みかどは意識を失ったのである。


 


 


 


 

 


 



 


 

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