第58話 あっ! こ、こいつが!? やらかしたんだ!?

「もしもし? 玉村たまむらさん? え? 御門みかど君?」

「はい! わたくし貴方の上司ですわー! はあ? あの、不埒ふらち者?」


 病室での通話は。


 あるまじき行為。


 けれども、この特別待遇? の病室には関係ないらしい。


 私の通話の相手は、玉村さん。週刊誌の記者だ。


 一方、さつきちゃんはだんさんかな? 


 私と同じ様に、通話をしている。


 互いに別人と通話しているけど。


 ……いの一番で、御門みかど君の所在を確かめているのは偶然ぐうぜんだろうか?


 私の経験上、嫌な予感しかしない。


 むしろ、何かをやらかした後だろうか?


御門みかど君なら、さっきまで一緒だったけど。どこかに行っちゃった――」

『とにかく、見つけたら連絡してね——ぎゃふん!?』


 スマホからにぶい音が聞こえてきた。


 まさか、また盛大に転倒てんとうしてしまったのかな!?


「玉村さん!? 大丈夫ですか!?」


 既に通話は途切れていた。


 やっぱり、スクープを求めて奔走ほんそうしているのだろう。


「あの方なら、行方知れずですわ! ニュース? いえ、視聴していません――随分ずいぶんと騒がしいですわね? もっち? もしもし? 赤城警部?」


 不可解な表情で、問いかけるさつきちゃん。


 こちらも、不本意な形で通話を終えた。


だんさんから?」

「ええ。『自分のニュースは確認したか?』とか。それから、ほかの捜査員でしょうか? 断片的に何かを叫んでいる様な? お祭りのかけ声でしょうか? もっち?」


 ニュース? さつきちゃんは有名人だからね。


 世間的には、トップニュースの扱いなのだろう。


 あれやこれやと情報が飛びって、騒いでいるのかな? 


 その事を心配しているのかな? だんさん。


「お祭り? 事件現場付近で? うーん。やる気を出そうと声を張り上げているのかも? さつきちゃんが名誉の負傷をしたから」

「わたくしにとっては、不名誉な負傷ですわ! 変に気をわれても困ります!」


 と言いつつも。捜査員たちにしたわれて。


 まんざらでもなさそうだ。


 ツンデレ? なさつきちゃんの様子に、みがこぼれてしまった。


「さてと。私は、そろそろ帰らないとね」

「はい? 小宮さん? 貴方は、今晩は入院ですわよ? 手続きも完了してますし」


 帰り支度じたくをしていると。耳を疑う発言が。


「へげっ!? 私はもう大丈夫だよ!? 元気だもん!?」

「なりません! 入院費用に関しましては、わたくしが責任を持って――」


 そういう問題では!? いや、お金の問題もあるけど!?


「来客ですわね。合言葉は?」

『ふともも♪ もっちもっち♪ 貴方だけのもちリズム♪』


 話の腰を折る様に。


 例のごとく、病室のインターホンが鳴らされる。


 彼のしキャラクター。クリスティーナのキャラソンも聞こえる。


 確認不要だね。お調子者の再来かな。


 



「初任給が入院費なんて、残念過ぎるだろ? 下手すると借金になるかもね。こんな大層な病室だと」


 実に、嫌な指摘だね!


 確かに、そうかもしれないけど!


「それをさつき君が肩代かたがわりしてくれるのだから。良かったじゃないか?」

「わたくしが原因で、体調を崩してしまったのですから。当然ですわ!」

「いやいや、日頃の疲労が積み重なった結果だから。私の責任です!」


 そんな、さつきちゃんの財布さいふをあてにするなんて。


 違う気がする。


「ともあれ、祀理まつり。今から病院の外に出るのはお勧めしないぜ? マスコミが待ち構えてるだろうし。素直に入院した方が賢明さ」

「ならば、わたくしの付き添いで、仕方なく宿泊するなら問題はありませんわね! おーほほほ! ぎょええ、関節の痛みが!?」


 さつきちゃんは、そうまでして私を泊まらせたいの!? 


 いや、私の体調を心配しての事だろう。


 調子に乗って、大声を出してるさつきちゃんの方が重傷だと思うけど!?


「……もう。分かりました。大人しく指示に従います」


 しぶしぶ了承りょうしょうする事に。


 ちょ、ちょろくないもん!


「ところで、君は一体どこで何をしていたのかな? 玉村たまむらさんとだんさんが探していたけど?」

「いやん💓 束縛系彼女なの? まつりちゃんは? 常に監視するタイプ? えへへへ!」


 よ、喜ぶな!? 彼女じゃないし!? ぶん殴りたい笑顔だね!


「ちょっとした、ダメージコントロールだよ。さつき君の行動を引き起こした責任もあるし」


 どうにも理解するのが難しい。


 さつきちゃんの救出劇は、御門みかど君が原因?


「赤城のおっさんも不用意な事をしたもんだ。今頃、部下に八つ当たりしてなければ良いけど」

「上司の目の前で、わたくしの部下を侮辱しないで下さい! この結果は、わ! た! く! し! の! 責任ですわー! ぐえええ、五臓六腑ごぞうろっぷが!?」


 りずに大声で抗議する。


 諸悪の根源みたいな言い方は、感じ悪いよ? 御門みかど君!


「具体的には、何をしでかしたのかな?」

「テレビインタビューを受けてね。まつりちゃんとの事実婚を発表しちゃった💓」


 私をからかっているね!


 あからさまな嘘!


 前半部分が正しいのだろう。


「もっちり姫!? な、な、なんですの!? ネットで話題のニュース!?」


 タブレット端末たんまつに向かって叫ぶ、さつきちゃん。


 だんさんに言われた事を気にして、調べたのだろう。


 もっちり姫? さっきから、もちもち言い過ぎだよね?


 御門みかど君じゃ、あるまいし――あっ! こ、こいつが!? やらかしたんだ!?



 



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