あたしって、罪な女だな。ふふん。

 また、あの悪夢あくむで。


 目が覚めてしまった。


 こうなると。目覚ましアラームの騒音の方が


 よっぽど良心的だ。


 あんじょう


 寝汗ねあせでヌレヌレなお姉さんだぞ!


 と、軽口かるくちを叩けたら。


 いんうつな気分も。少しは軽減されるのに。


「ふにゃ? たまねえ? どこにゃの?」


 彼の右腕を。抱き枕として愛用あいようするとは。


 事実は週刊誌よりもなりだろうか? 雑誌記者の自分としては。


 ……療養りょうよう中で。休業中だけど。


 あたしのセクシーな感触を感じなくなって。


 御門みかど はらえ――みか君を起こしてしまった。


「しゅいぶんの準備しとくね。ふわああ。ねみゅい」


 あたしの様子を察知して。水分補給の準備をしてくれる。


 時刻は午前2時。丑三うしみつ時。


 不吉の象徴しょうちょうみたいな時間帯。


 時計なんか確認しなくても。分かってしまう。


 それだけ頻繁ひんぱんに。悪夢に悩まされているからだ。


「ふぁい! ぬぽーつドリンク。冷やしておいたおー」


 よくえたペットボトルを渡される。


 寝ぼけているみか君は。ますます幼稚ようちになる。


 けれども。


 あたしの現状げんじょうを理解して。


 気を使わせない為に。そうしているのだとしたら。


 まつりんが。みか君に関わり続けている理由が。


 何となく理解出来た。


 もしくは。 


 単に、お姉さんの色気にやられてるのを。ごまかしてるかも?


 そうかそうか。必死に色欲と戦っているのか。


 あたしって、罪な女だな。ふふん。


「……玉村たまむら君、八重歯やえばを見せながらのあへぇな顔。見せるんじゃねー! ダブルピースでもするつもりか! 正気に戻れ!」


 こ、こやつ!? 


 あたしがエッチな夢の中にいると。勘違いしてる!?


 にやついた顔がそんな風になるの!? 違うし!?


 受け取ったスポーツドリンクを。


 これ見よがしに、豪快ごうかいに飲む。


「あっ! それ自分の飲みかけだった! 間接キス……だね。もじもじ」

「ぶぶーっ!?」


 みか君の顔に。思わず吹きかけてしまった。


冗談じょうだんなのに!? ひどい!?」


 ひどいのは、みか君でしょ!?


 あたしは間接キスなんて。気にしない。


 ただ、あえて指摘されると。


 は、恥ずかしいじゃん。


 真夜中まよなかに二人共。びしょれ。


 滑稽こっけいで。笑ってしまう。


「ま、まもりたい、その笑顔!?……くそ! 左腕がこんな調子だと。むぎゅーも出来ないよ!」


 首から包帯を下げ。日常生活において。右手しか使えない状態。


 彼もまた。この高級ホテルみたいな病室で、入院中なのだ。


 だんじて。恋愛関係の同棲どうせいでは無いから!


 でも。


 ま、まつりんには。

 

 うつろな表情で。半笑はんわらいされたけど!?


 ただ。一ヶ月も同じ部屋で入院となると。


 距離感が色々とおかしい事になってるのも。


 事実である。


 もはや、身内みうち? 家族みたいな? 


 とにかく、そんな感じだ。


 あたしは、みか君の補助要員であり。


 言わば、左腕のわりなのだ! 右手だけだと不便だもん。


 対して、みか君は――


「表情と視線で把握はあくするのも難しいよ。これからシャワーを浴びるよね? 脱水症状に注意! あまり長いと。ぐふふふ! 心配で突入しちゃう! 特殊部隊みたいに!」


 声を失った。


 あたしの通訳。


 意思疏通いしそつうがかりなのだ。

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