第73話 自分の身が危険かどうかも分からない。だから――

 御門みかどから出された条件は。


 他愛たあいのない事だった。


 今週。つまり、4月が終わるまで。


 小学校の見守り活動をして欲しいとの事。


 以前、祀理まつりさんと一緒に活動した場所だ。


 御門みかどにスカートを強奪ごうだつされた記憶は、消し去りたいわね。(※48話参照)


 今回は、私一人。祀理まつりさんは不参加。


 御門みかどが言うには『日々のお仕事に、お疲れちゃん!』との事。


 それから『常に連絡れんらくを取れる様にしておけ!』だって。


 今日も、スマホは充電済みだし。


 電波状況も確認してもいる。


 ますます、首をかしげてしまう。


 あいつ、私をどうしたいのかしら?


 そんな事を考えている内に。


 見守り活動も、本日で最終日だ。


 もちろん、事件についての聞き込みも忘れていない。


 子供の目線めせんの情報も、役に立つかもしれないし。


 人が近寄らないスポット、遊び場等。


 何か物証ぶっしょう痕跡こんせきを。


 見つけられれば、良いのだけれど。





「はあ、はあ。やっと、たどり着いた」


 思わず、よっこいしょと言いそうになる。


 階段が思っていたよりも、多かったわね。


 仕入しいれた情報によると。ここは、神社の跡地あとち


 街を一望できる、ちょっとした山に存在している。


 厳密に言うと、山では無いのだけれど。丘? 


 とにかく、あの階段の本数だ。


 標高ひょうこう的に、ありがたい位置とも言えるわね。


 現存している神社だったらだけど。


 今は、この頭上にある鳥居と。


 こま犬の像が残っているぐらいか。


 本殿ほんでんは……時代劇に出てきそうなボロボロ具合ぐあい


 落ち武者むしゃ野盗やとうのねぐら。そんな感じだ。


 時刻は、昼過ぎ。


 それにしても、静かすぎる。


 まるで、下界げかい隔絶かくぜつされているみたいね。


「確かに、こんな場所だったら。人が寄り付かないわね」


 長居ながい無用むよう


 周囲に目ぼしい物があるかチェックしましょう!


 子ども達は、肝試きもだめしの場所とか言っていたわね。


 危険物があれば。回収しておこう。


 これでは、街の美化活動。ボランティアみたいね。


 こま犬の像を通り過ぎ。そのまま、直進する。


 老朽化ろうきゅうかした賽銭箱さいせんばこか。


 こちらも、全体的に穴だらけ。中身を容易に取り出せそう。


 ただ、こんな所をチェックする物好きは。そうはいないだろう。


 賽銭箱さいせんばこを上からのぞき込む。


 中身は簡単に判別はんべつ出来た。


「……冗談じょうだんでしょ」


 思わず、あとずさりをする。


 何かのいたずら? 


 いや、この組み合わせをみる限り。


 そうではなさそうだ。


 たりにしたのは――


 サバイバルナイフと女児の下着。


 事件の確かな物証ぶっしょう


 落ち着きなさい。冷静に。


 まさか、本当に発見するなんて。


 この場所だって、立ち寄っただけ。偶然ぐうぜんだ。


ねえ。本当にそうなのかい? 何かしら理由があるものだよ。たかさき君』


 懐疑主義かいぎしゅぎ権化ごんげの声が。


 頭の中にひびく。


「……あいつは、考え過ぎなのよ。何でも疑ってたら、まともに生活出来ないわ」


 とにかく、警察に連絡。現場保存ね。


 スマホで写真を撮ったり――


 スマートフォン取り出す。


 表示画面の電波状況のアイコンをチェックしてしまった。


 普段だったら、特に気にならないのだが。


 御門みかどの条件を気にしてるのだろうか?


 圏外けんがい、電波状況が悪いみたい? 


 つながらない訳では、なさそうだけど。


 その瞬間。


 とてつもなく、嫌な予感がした。


 何かが、おかしい。


 見落としている。


 それか、想定外の事態で混乱中なのかも。


で静かな環境で落ち着く事が、一番だね』


 いつだっただろう? 


 想定外の化物ばけものに出会った時。どうするか。(※8話参照)


 私としては。くだらない雑談として認識していたけど。


 安全? なぜ? 御門みかどはそう言った? 


 だって、想定外の事態だ。


 思考停止でパニックになる。


 自分の身が危険かどうかも分からない。だから――


「なっ!?」


 腰のあたりに痛みが走る。


 視界しかい点滅てんめつしてる?


 地面に……たおれたの? うごけ……ない。


あぶない、あぶない! 異変に気づくなんて。咲先生、手強てごわい!」


 だれ? さきせんせい? 


 まさか、あなたが? 


 はん、にん!?



 



 


 


 


 

 


 



 

 


 

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