第63話 受け止めきれないよ!? 私の担当じゃありません!?

「ふんふん♪ 長湯ながゆしちゃったかな?」


 高級ホテルの浴室を満喫まんきつ


 だけど、悲しいかな。


 ここは、あくまで病院。室内が豪華ごうかなだけ。


 精神的には、旅行気分とかけ離れている。と自制じせいを――


「はにゃ? まつりたん? やっと出てきたんね?」


 浴室から脱衣場に入室したら。


 けて。


 坐禅ざぜんをしている人物が!?


撲殺ぼくさつして良いかな! 頭をかちるぞ!」


 坐禅ざぜんなら。


 木のふだで肩を叩くけど。


 気分的には。


 きビンでぶん殴りたい!


「ふゅあって、やみあがりにゃのに、ながゆにゅあんだもん」

「そ、それは、その。と、とにかく、出ていけ! ね、寝るな!?」


 御門みかど君なりに、心配してくれたのだろう。


 脱水症状とか?


 当の本人は、セレブ気分にひたっていたなんて。


 い、言えないもん。





「何で私のベッドがしわくちゃなの!? あ、あいつ!」


 さつきちゃんの病室に戻ると。


 完璧なベットメイクが無残むざんに!?


小宮こみやさん、ふう、申し訳、はあ、ありませんわ」


 苦しそうに息をする彼女。


 御門みかど君から、発熱した事を聞かされていた。


「ごめん、さつきちゃん。さわいじゃって。御門みかど君の変態行為に責任を感じないで? ゆっくり療養りょうようして?」


 気休きやすめの言葉を伝える。


 そもそも、私達と一緒だと安静に出来ないかも?


「一人だと、ふう、余計な事ばかり考えてしまいますから。小宮こみやさんが居てくれるだけで助かりますわ」


 心情としては、一人暮らしで。


 インフルエンザになった時かな?


 病気の時は心細こころぼそい。


 精神的にも不安定になっちゃうもんね。


「買いかぶり過ぎだよ?  まあ、話し相手ぐらいには役立つと思うけど」


 これでも、私はケースワーカーなのだ! 


 生活の悩み相談は心得こころえていますから!


謙遜けんそんですわね。では、わたくしが寝付ねつけるまで、相手をしていただけますか?」

「了解です。どんな内容でも受け止めるよ!」


 謎の職業病を発症してしまった。


 いけない、いけない。普通に雑談するだけだよね。


小宮こみやさん。……わたくし、もっちり野郎ですの?」

「受け止めきれないよ!? 私の担当じゃありません!?」


 さじを投げるとは、この事だ。


 いや、御門みかど君の風評被害ふうひょうひがいに対しての相談だろうか?


 はたまた、名誉毀損めいよきそん? 


 法律関係だったら、さきさんが適任。


 でもなあ。相手は御門みかど君。


 どんなに注意しても。


 我関われかんせずな態度だし。


 私に対して、その、反応に困る言動も。


 さっきだって、脱衣場で――


「おほほほ! そんなに、真剣に悩まれても! やはり、真面目まじめで優しい方ですわね」

「ちょっと、さつきちゃん!?……むー。意地悪いじわるです」


 私にとっては、判別しにくい冗談だった。


 その時点で、つまらない堅物かたぶつと認識されちゃったのかな?


「そんな事をしてると。ますます、クリスティーナじょうに似ているって、言われるからね!」

「誰ですの!? 架空かくうの人物!? 詳しくですわ!」


 あれ!? 話に食いついて来ちゃった!? そこは、素直に流して!?


『俺の精神力が~』について説明するの!? 


 ライトノベルを!? さつきちゃんに!?


 





「ふう。まつりちゃんのだし汁は、最高だったぜ!」


 悪寒おかんがする例えをしながら。


 御門みかど君が入浴を終え、部屋に戻ってきた。


源泉げんせんかけ流しだったでしょ!? へ、変な表現するな!」


 湯船ゆぶねには地下から温泉を引いてるとの事だ。


 美肌効果びはだこうかも期待できると思う。


「自分のベッドに戻らないのかい? ここは、俺専用のソファーだぞ!」


 秘密基地の場所取りじゃあるまいし。幼稚ようちだね。


 二人掛けだから、隣りに座れるでしょ?


「さつきちゃんが眠くなるまで話をしてたけど。今度は、私の方がね。君の子守歌みたいな話を聞かせてよ?」

「悪女! たかさき君に似て来たね」


 要は、退屈な話をしろと言っていますから。


 日頃の君の行いを考えれば。このくらい、奉仕ほうししたまえ。


「そうだな。うららっちの男性恐怖症の原因について。どう思う?」

「分かんないよ。精神科医じゃないもん」


 さっそく、難解な話題だね。


 睡魔を誘うには、申し分ないかも?


「うーん。男性から嫌な事をされたとか?」


 素人しろうとの意見だけれど。

 

 御門みかど君もそんな事は、気にしないだろう。


「きっかけは、様々だけどさ。例えば、男性から理不尽りふじんな暴力を受けたとか。内容は重いね」


 話題の選択を間違っている。


 これじゃあ、気が滅入めいって、眠れなくなりそう。


うららさんも?……だよね」

「可能性が高いのは……元夫もとおっとの家庭内暴力って所か」


 前置きとして弁明したけどさ。


 やけに、現実的で。時々、寒気がする。


推測すいそくでしょ? 実際に聞いてみないと。き、聞けないけどさ」


 浅間さんのプライバシーだもん。そう簡単に、質問出来ないよ!?


暇潰ひまつぶしの連想れんそうゲームさ。まつりちゃんが、湯上ゆあがり姿で誘ったんでしょ💓」


 事実誤認じじつごにんだね。君って奴は。


 私をからかわないと、呼吸できない人なの?


「しょうがない。他には? 自称プロファイラーさん?」


 私の事情で付き合わせちゃってるし。


 ちょ、ちょろくないもん。温情おんじょうだもん。


元旦那もとだんなについては。浅間君も体操選手だったから。指導者か選手じゃないかな?」

「うわ。妙に現実的だね。いつも、そんな事を考えてるの?」


 安易な考えと思うけど。


 当たりそうで不気味。


「浅間君が現役時代にパートナーと出会った場合さ。競技に打ち込んでいる間は、人間関係も限られるからね。逆に、引退してからだとお手上げさ」

「……ふーん。男性恐怖症の治療は? どうやるの?」


 前向きな話題。こちらの方が、私にとっても役立ちそうな知識だね。


「同じ病気で苦しんでる人とグループで話し合ったり。カウンセリングも――」


 こうして、意外にも真面目な議論? に発展し。


 いつの間にか。


 眠りにつく事には成功したのである。



 

 


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