第51話 一寸先は闇。

「本日も小学校の見回り活動、お疲れちゃん! はわわわ!?」

「ええ。お疲れ様ね。祀理まつりさん」


 疲労が蓄積ちくせきしているのかな!? 


 御門みかど君の口ぐせを!?


 そんな私の様子に。


 大人の対応で答えてくれるのは。咲さんです。


 かれこれ一週間。


 一緒に防犯パトロールに付き合ってくれている。


「子供たちの接し方にも、貫禄かんろくが出て来たわね。祀理まつり先生」

「そ、そうかな!? えへへへ」


 本物の弁護士先生には。


 かなわないけれど。


 お世辞は素直に受け取りましょう。


「それに、みんな良い子ですし。……御門みかど君よりも、問題児は見受けられなかったから」

同感どうかん。結局、姿を見せたのは最初の日だけだったわね」


 御門みかど君が。


 咲さんに対してやらかした日だね。


 駄菓子で誤魔化ごまかされた感じがする! 


 今更だけど!


「でも、彼にしては外出していた方ですよ。普段は本当に引きこもっていますから」

「毎日登校してくる小学生を見習って欲しいわね」


 あきれた表情を見せつつ、苦笑い。


 確かに。


 小学生の無邪気なパワーを分けてあげたい。


「小学生か。この頃は、他人と同じ? 横並び? 何て言うのかな?」

「人生において、変化が少ない? スタートラインって事かしら?」


 つたない考えを拾ってくれます。


 流石、咲さんです!


「はい。同じ様に学校に通って。宿題したり、遊んだり。金太郎飴きんたろうあめみたいに」

「そうね。義務教育期間は。そんな感じかもしれないわ」


 祀理まつりさんらしい、例え方。と微笑する。


 も、もっと違った例を出せなかったのかな!?


「でも、大人に近づくにつれて。それぞれ、違った人生を。当たり前ですけど。その事が残酷ざんこくにも感じちゃって」 


 一寸先いっすんさきは闇。


 ある人は、問題無く人生を送り。


 逆に、犯罪の加害者、被害者になったり。


 または、病死、事故死。二十歳を迎える前に死亡したり。


 本当は、それぞれ違い過ぎる人生なのだ。


 悲しいほどに。


「平穏に過ごせる人生だけでも、幸せよね。仕事をしていると肌で感じるわ」


 弁護士と関わると言う事は。


 少なからず、トラブルに見舞われている人間。


 好き好んで付き合う職種では、無いもんね。


 あっ、友人等は除きますよ!?


 私は、咲さんと一緒に過ごせて楽しいですし。


「『だから人間には、愛や希望が必要』」

「ロマンチックな事を言うのね。誰かの格言?」


 一人で抱えきれない。


 人生において困難な時こそ。


 上手い事を言ったもんだね。


「咲さんも知っている人ですよ? 変な所で、恥ずかしいセリフを言うんだから」

「と、取り消し。ロマンの欠片も無い奴よ! 御門みかどには、内緒にしておいてね?」


 告げ口を心配している様子が。


 ちょっと、子供っぽい。


 小学生時代に咲さんと友人だったら。こんな感じだろうか?


「分かってますよ。咲ちゃんの方がロマンチストだね!」

「も、もう! からかわないで!」


 めずらしく、れてる咲さんです。


 これ以上、困らせる事を言うのはめましょう。


 引き際をちゃんと心得こころえないと。


 誰かさんの事を言えないもんね。


 御門みかど君。





 文字通り、談笑だんしょうしながら家路いえじについていると。


 何やら、人だかりが。


「見回り活動の人達かな? でも、ここは市民病院ですよね?」

「診察の時間は終わってる時間よ? 有名人でも運び込まれたのかしら?」


 なるほど。


 芸能人とかアイドルとか。


 私とは縁遠い人だね。


 気にせずに帰りましょう――


「あれ? 咲さん?」

「すいません。何か事件ですか?」


 すでに野次馬に突入している!? 


 咲さんレーダー感知しちゃったの!?


「詳しくは知らないが。車がアクション映画みたいに突っ込んだらしいんだ」


 答えた男性も。


 断片的情報しか分からないらしい。自損事故?


 咲さんも病院の出入口を目指して。突進しちゃった。


 ぽつんと取り残されてしまった。


 さて、どうしようかな?


「警察はまだ来ないのか?」

「そろそろ、来るだろうさ」


 事件が発生してから。


 そんなに時間はっていないらしい。


 盗み聞きするつもりは無いけど。


が事故にったんだ。言われなくても、来るさ」


 身内? 警察関係者が事故? 嫌な予感がする。


 一寸先いっすんさきは――


「しかし、大丈夫なのか? あの姫署長。パトカーで盛大に突っ込んだのに」


 目の前がやみに包まれる。


 さつ、き、ちゃん?


 


 


 

 

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