第14話 鷹の目の狙撃手・リシェル

 

「ハーネイト・ルシルクルフ・レーヴァテイン、だ。名は知られている割に、顔で分かってくれない人が多い……」


「な、何だと!!目の前にいるこの緑髪の男が、伝説の!確かに以前ルズイークさんから写真を見せてもらった。それとは少し顔つきが違うから別人かと思っていましたがまさか……。あのアイドル時代のプロマイドとは全く別人だ」


 男はその事実に開いた口が暫く閉じなかった。そして驚きながら彼の顔をよく見ていた。それに対しハーネイトは改めてこの男がリシェルかどうかを尋ねた。


「髪型は時々変えていたし、確かにそういう活動も……って、そのプロマイドってどういうことだ」


「え、ええ?これですが。かつて各地でアイドル活動していた時の写真ですよね。すごく、綺麗です」


「それ私の黒歴史の奴!!!っ、まだ出回ってるのこれ。……やれやれ、昔から女性と間違われるから、試しに挑戦したのがあれだな」


 リシェルが手に持っていた一枚の写真を彼に見せた。それを見た本人は顔をすぐに赤らめるな否や、しばらく固まっていた。


 昔の黒歴史をもう一度見てしまったハーネイトは話を聞いて、納得するものの複雑な気持ちでプロマイドを見ていた。これのせいで、情報が歪んで伝わっているのか。今まで名声の割に誰もが会えば驚く表情ばかりでうんざりしていた彼は大きなため息をついていた。


「……それで、リシェル・トラヴァコス・アーテンアイフェルトとは君のことか?」


「はい、そうです。一つお尋ねしたいことがあります。ルズイーク・ルナ・スターウェインとアンジェル・ルナ・スターウェインさん、そしてアレクサンドレアル国王の行方について知りませんか?」


 リシェルの質問に、ハーネイトは安心した表情で3人が無事に保護されたことと、事務所に今はいるということを彼に教えた。


「ルズイーク隊長が生きている、だと?クーデターの後行方が知れないと聞いて心配でたまらなかったんだ。隊長は無事なんだな?」


 リシェルは話を聞くと突然ハーネイトの腕を掴み、彼の体を軽く揺さぶりながら隊長の無事を聞こうとする。


「おいおい、いきなり体を揺さぶるな。ルズイークも王様も無事だ。私とエレクトリールが救出して保護している。安心してくれ」


 ハーネイトの言葉を聞き、男は涙を浮かべていた。風のうわさでは行方不明になったと聞き、いてもたってもいられなかったという。


「ああ、隊長も王様も生きているなんて。良かった、本当に良かった!」


 男は、荒野に響き渡るほど大声で泣き叫びながら、ルズイークや王様の無事を喜んでいた。


「ふう、それでリシェルというのは、本当にお前さんで間違いはないのだな?服装と髪型が若干違っていたからな」


 泣き叫ぶ男に、本当にリシェルかどうか確認をする。ルズイークが渡した写真は、リシェルが軍に入ってすぐに撮った写真のため、数年経った今、顔つきや背丈が変わっていた彼を、ハーネイトは最初は別人かと思っていたのであった。


「いかにも、この俺がリシェルだ。リシェル・トラヴァコス・アーテンアイフェルト。機士国出身の元軍人だ」


「ああ、確かにルズイークから聞いた名の通りだ」


「はい。そして、あの解決屋として機士国に仕えていた生ける伝説、ハーネイトさんなのですね。ここで会えるとは思わなかったです。こんな運命的な出会いってあるのか」


  リシェルは、その事実をかみしめるとまた大泣きしながら、ハーネイトに対し強引に握手をする。若干引き気味だが、勢いに押され彼も握手を仕方なくした。


「お主が解決屋ハーネイトか。実際に顔を見るのは初めてだが、お主の噂はよく聞くぞ。各地を周り魔物退治から掃除人探しと何でもこなすカリスマ的な存在とな。しかし話に聞いた顔つきや雰囲気とは違いますな。もっと鋭い眼光で、威圧感のある存在だと思っていた。私はヤカニ。ヤカニ・ノルガ・リーガティだ。旅商人をしている。よろしく頼む」


「もしかして、ゼルベットの?」


「有無、そうである」


 旅商人の男も、改めて自己紹介する。ヤカニは、東大陸の各地を回り、商品を売買している男であり、ゼルベット商人連合の一員でもある。


 ゼルベット商人連合はリンドブルグにいる香月も所属している、ヨーロポリス内で商人たちが各街を行き来をしやすいように取り計らったり街道の整備を行うのを主な活動としたギルドである。


「とにかくこれで依頼は完了だ。リシェル、これを受け取れ!ルズイークからのプレゼントだと」


 ハーネイトは背中に背負っていた巨大な銃と説明書、手紙をリシェルに渡す。


「これは、兄貴と姉貴が作った銃だ。銃身の裏に俺の家、もとい研究所のマークが入っている。それとこれは手紙か」


リシェルは銃を地面にそっと置き、封書の封を開けて中から手紙を出して読む。そしてしばらくすると彼は手紙を読み終え、涙を流していた。このリシェルと言う男は一体何回涙を流せばよいのだろうか。エレクトリールが不思議そうにリシェルを見ていた。


「すまねえ、兄貴、姉貴…っ!勝手に家を出てよお!絶対兄貴と姉貴助けるからな!待っててくれよ……っ!」


「何か事情があるみたいですね」


「そうだな。人にはそれぞれ事情がある。そっとしておこう」


 手紙を見て泣いているリシェルを1人にしておいて、3人は話を続ける。


「ハーネイト殿、先程はありがとうございました。それと隣にいる可愛らしい金髪の人、名前を聞きたい」


「エレクトリール・フリッド・フラッガです。皆さんご無事で何よりです」


「エレクトリールか、本当に2人には助けられた。ありがとう」


 ヤカニは二人に改めて礼をした。あともう少し来るのが遅ければ、魔獣の餌食になっていただろう。ほかの商人仲間も言っていた、彼の実力を目の当たりにして、やはり心強いなと彼はそう感じていた。


「しかし、これからどうするのだ?」


「私たちは先ほども述べた通り、各地で機士国を乗っ取った輩を倒すため力を貸してくれる仲間を探しているので」


 ハーネイトはヤカニに仲間を集めていることを話した。情報が洩れてもさほど問題のない内容だけで何が起きているのかを伝え、それを聞いたヤカニは顎髭を触りながら真剣に、何が起きているのかを聞いていた。 


「そうか。先ほどの話を含め。それで取り返すために仲間集めか」


「そうです」


「そういうことか。確かに、今の機士国のせいで商売がやりづらい。奴ら交通の要衝を抑えてやがるし、検問も厳しい。その背後にDGがいるのならなおのこと許せん。私の友達も、昔DGと戦って死んだ。そうだ、今回の恩も含めて欲しいものがあれば優先的に回そう。これくらいしかできないがな。ゼルベット連合の、他の仲間たちにも連絡しておこう」


 ヤカニは商人連合に連絡をし、優先的に物資を回せるように調整することをハーネイトに申した。連合は4つの支部を持ち、それぞれ管理する者が違うという。しかし彼らの結束力は強固であり、瞬く間に情報を伝達する独自の方法があるという。


「それはありがたいですね。少しでも補給面をしっかりしておきたいものでして。よろしく頼みますよヤカニさん」


「ああ。こちらこそだ。連絡先を渡そう」


ヤカニはハーネイトにすぐに出られる連絡先のコードを渡した。


「では私はリノスに向かう。そろそろ失礼するぞ。作戦の成功を祈ろう」


「分かった。気を付けてくれよ。ではまた、ヤカニ」


 ハーネイトたちとそうして別れを告げ、ヤカニはリノスの方向に歩き出して行った。一応ハーネイトは見送るついでに守護の魔法を彼にかけておいた。


「リシェルさん、落ち着きましたか?」


「あ、ああ。しかし一つ気になることがある。誰があの魔獣にあんなものをつけたのか、ボルナレロが直接そうしたのか……?」


「そうですよね。奴らの狙いは武器を売って利益を稼ぐだけではないのかもしれないかも。さっき話したように、魔獣を兵器利用するのかもしれませんがね」

 

  ハーネイトは先ほど集めた情報を整理しながら、敵の狙いについて考察を深める。魔獣、魔物の被害を抑えるため、ボルナレロが行っていた魔獣操作計画について知っていることを2人に説明した。


「出来れば実験段階のうちにどうにかしたいです。そうでないと」


「さっきのように装置で操られた魔獣が、街や人を襲う事件が増えれば大変ですよ」


「尚のこと、ドグマ・ジェネレーションと機士国の暴走を食い止めなければ。そして研究者たちに何があったかも調べる必要がある。それはすぐにわかるだろうが」


 ハーネイトは、クーデターや魔獣に関して直感的に、別に目的があると考えていた。それはまだ漠然としていたものの、この先更に恐ろしい事件が起きるのではないかという予感が体を満たしていた。


 霊界と言う言葉を悪魔とユミロから聞いたこと、そして白い服の男の行方と目的。それが彼の心を乱す。


「これも霊界と言うのに関係があるのだろうか」


「それ、あるかもしれない。だがここで話したくない。ごめん、なさい」


 彼の言葉にユミロがペンの中から小声で話しかけた。それを聞いたハーネイトは分かったと念話でユミロにそう伝えた。


「とにかく、機士国を取り返し、クーデター起こしたやつを締めないとな!」


 リシェルは勢い良く、クーデターを起こした連中をとっ捕まえると宣言した。


「ということは、俺らに同行してくれるか?」

 

「ああ。憧れの解決屋と共に旅ができるとは、何が起こるか分からない。得意なことは狙撃や重火器、あとはナイフ格闘。遠距離からの支援は任せてください。と言ってもルズイークさんから大体話は聞いていると思いますが」


 リシェルが多機能銃を軽々と担ぎながら、ハーネイトに自己紹介する。


「ああ、改めてよろしくなリシェル」


「よろしくお願いしますね、リシェルさん」


「ああ。よろしくなエレクトリール」


  そうしてリシェルは2人に力強く握手をする。こうして新たな仲間、リシェルが加わったのであった。


「では日が暮れる前に、フラフムに向かおうか。エレクトリール、リシェル。行けるか?ボルナレロが待ち合わせ場所を指定している。情報を聞き出す好機だ。あいつはまだ、敵の手に堕ちてはいない!」


「はい、いつでも」


「ああ、準備できている。行こう」


 ハーネイトとエレクトリールは、新たな旅の仲間リシェルを加えて、今日の泊まる宿を探しに、ヨーロポリス連合の勢力下にあるシャリナウ市、そしてその東にあるフラフムという町に向かった。


 夕方ごろフラフムについた彼らだが、どうも町の雰囲気がおかしいのである。それをハーネイトが最初に察知する。


「折角町に着いたのに、人がいないとは。ん…何やら町の中心が騒がしい」


「さて、あれはなんだ?人の集団を何かが囲ってやがる。どれどれ」


 リシェルはライフルのスコープで人の群れをよく見る。よく見ると街中で人ではない何かが大量にいるのを目で捉えた。


「げっ、あれは魔獣?」


 彼の言葉を聞き、ハーネイトが2人を連れて建物の影に隠れる。


「なんて数の魔獣だ。しかも住民を囲っていやがった」


 3人が目撃した光景、それは今にも住民たちが大量の魔獣の群れに襲われそうになっていた状況であった。

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