Code 125 魔女と邪神、ハーネイト怒涛の魔法変身



「はあ、はあ。久しぶりだな、人の肉体を借りるなんぞな。おい、そこの貴様」

「口調が、変わった。何だ、一体」

「貴様はなぜ、母上の力を持っている?いや、体から確かに、アルフシエラ、母上のあの優しい波長が伝わって来る」

「どうも、この戦いは、神様同士で戦う結末になりそうだ。アルフシエラ様、どうします?」


 自身の娘とこのままでは戦うことになると、自身の中にいる女神にそう告げ確認をするハーネイト。それに対し女神、アルフシエラは彼女について話を切り出した。


「彼女は、娘は、誰よりも純粋で、その権能は生まれてすぐにして、姉であるソラに匹敵するほどでした。しかし私とソラリールが封印された後、彼女の行方は分からなくなりました。しかし、こうして再会できたことから、ヴァルナーはソラに追い出され、長い間放浪していたのでしょう」

「そういう経緯、か」

「私が直接、あの子に話をします。体を貸してください」


 結果として、女神は邪神となった娘の心に入り込むことを決め、それをハーネイトがアシストする形となる。

 そして彼の放つ魔閃が彼女を捉え、一撃でひるんだ末に瞬時に間合いを詰め、女神の力をセファスに送り込んだ。


「聞こえますか、ヴァルナー?」

「母、上。なぜ、なぜ、このような地に、おられるのですか!そして、生きていたなんて……っ! 」


 存在自体があいまいな精神空間の中、数億年、いや、それ以上ともいえる時間。母と娘はようやく互いに姿を確認することができた。


「私が、ソラに封印されていたことは知っているかしら?」

「ああ。私は、母上も父上も助け出したかった。あの傍若無人な姉を倒し、元に戻したかった。なのにソラは、私を、霊界に封じたのだ」

「そんなことが、あったのね。辛かったわね、ヴァルナー」

「かあ、さん……」


 邪神となっても、霊界で力をつけ姉に対し反撃の機会をうかがってきたヴァルナーは、内心精神的に疲弊していた。そして、封印されて以来会うことができなかった実の母であるアルフシエラ。二人は抱き合い、互いに泣いていた。


「っ、ぐッ、このっ、割り込むなあああああ!」

「うおおおおああああああ!」

「ヴァルナーっ!」

「なんて奴だ。抑え込みやがった 。セファス、これほどの力を持っていたとは」

「ふざけるな、これは私の戦いだっ!」


 一時的に気を失っていたセファスの精神が元に戻り、邪心から体の支配権を奪い返すとハーネイトたちを睨みつける。その異常なまでの精神力は狂気を滲み出させていた。

 

「はあ、はあ。私はぁ、こんな世の中をぶっ壊すために長年計画を練って、人を集めてここまで、来たのにっ!」

「なんて気迫だ……。ここまで憎悪を抱くとは」


 こうして意識の主導権を奪い返したセファスは、ぜえぜえと息を吐きながら彼を更ににらみつける。そして今までなぜこうしてきたか、そう告げながら先ほどよりもさらに多くの触手を、今度は地面からも召喚し彼を捉えようと素早く伸びていく。


「あなたは、この世界が、理不尽で憎いと思ったことはないの!」

「ああ、それならいくらでもあるさ!俺だって、運命に翻弄されっぱなしの人生だからな!大牙流、ランブルエンド!」


 彼女の気迫に負けず、ハーネイトは霊量子の力を全力開放する。そして彼女に向かって乱れ斬りを繰り出した。


「俺はな、自身の出生の秘密を解くために旅をしてきた。そしてようやく、それが分かってきたんだ!邪魔をするな、セファス!」

「この青二才が!私は、この世界をぶっ壊して、新たな世界を作るのよ!いいわ、まずはあなたから仕留めてあげる」


 彼女は彼の猛攻に対し触手を盾にしながら耐え、不気味な魔法の詠唱を行う。


「これは、くっ、死霊の群れか!」

「恐怖におびえ屈しなさい、ハッハッハ!」

「それが、どうした!」


 なんとしてでもこの戦いに勝ち、平和を取り戻すため彼は溢れんばかりの力を外に解放しようと体を構えた。


「はああああああああああっ!」

「な、なんなの。これ、は、あなた。古代人だったの!」

「……闇を断て、黒翼斬魔(ナハトラディーレン)!」


 間をおいて、ハーネイトは瞬時に黒い紅蓮葬送、その名を黒翼斬魔と呼ぶマントを展開し、あっという間に彼女に襲い掛かる。リリエットたちの影響で隠れたもう一つの力、霊量子の力に目覚めた彼は、創金術と霊量現術を合わせた力を発現させた。それがこの漆黒の翼である。両方の力を合わせたことにより、さらに複雑かつ強度を増した彼のマント、そして翼。それをひとたび振るえば黒き嵐となりて、敵に襲い掛かる暴風となる。


「黒き罪禍!(ブラックフィアー・ヴァニッシュ)」

「きゃあああああっ!」


 黒い翼が天を覆い、まるで無数の蛇のように襲い掛かり、鋭い切っ先が幾重にも、彼女の体を激しく貫いた。空気中の霊量子とマント表面の霊量子がこすれあい、反発する。そのおかげで空気抵抗をほぼ無視した動きすら可能にしたのである。その変幻自在かつ、不規則なその軌道を読みかわせる者はほとんど存在しないだろう。


「が、がはっ、ぜえ、はあ、っ、一撃でこれほどとは、フハハハハ!いいわ、こうなったら、あの男の力を借りるほかないわねえ」

「あの男、まさか、貴様もデモライズを!止めろ、それは罠だ!」

「なあに、とっておきはこの後よ、さあ、蘇りなさい、ジルバッド!!!」


 彼女はフラフラになりながらも立ち上がり、素早く死霊魔法の詠唱をする。すると地中から黒い巨大な棺が現れ、ふたが空くと同時に人らしきものが出てきた。それを見たハーネイトは、青ざめていたのであった。それもそのはず、その顔は彼が師匠としていたジルバッドそのものであったからである。


「な、ま、まさかっ!師匠の、師匠の体を!貴様ぁあああああああああああ!」

「そうよ坊や、私は死霊術師、死者すら蘇らせ、自分の駒にできる!つまり最強なのよ! 」

「……もう、口を開くな……!私を怒らせて、何の得になるのだ!!」


 ハーネイトの顔の影が濃くなった、そして、次の瞬間彼女は感じる間もなく、閃光に全身を焼かれていたのであった。そう、彼は魔銃士の戦技、魔閃を放っていたのであった。


「がはっ!なぜ、そうまで魔閃を、ぐっ……それは、ジルバッドが最も嫌っていた魔銃士の、力っ!」

「……貴様は、私を怒らせた。……悪魔よ、天使よ、魔人よ、機鎧よ、私に力を!うおおおおおおおおおおおおおっ!師匠!!!!!!」


 いつ我を忘れたのだろう。数年前か、いや、それ以上前かもしれない。普段冷静な彼も、最愛の師匠が敵に操られ、死後ももてあそばれている状況を目にしてそれを保つことはできなかった。そして次の瞬間、光と闇に包まれた彼はその球体をけ破り、もはや人とは思えぬ異形の姿で彼女らの目の前に現れたのであった。


「カオティックアームズ!」

「なっ、あれは、なんだ!そんなものでこの私に勝てるとでも、さあジルバッド、愛弟子を殺しなさい!」

「………っ!」

「師匠!!!!!くっ、動くな、師匠!ゼルナエルの力よ、穿て!フォトノイズ」


 背中に装着した天機ゼルナエルの4門のフォトンバスターキャノン。それをすべて彼女らに向けて斉射する。その光の波は無慈悲に彼女を飲み込み、地上に着弾し大爆発を起こす。それでも操られていたジルバッドはその中から立ち上がり、魔法を唱える。


「次はこれだ!エストレアの力よ、彗星飛脚蹴!」


 ジルバッドが手から放つ光の帯を掻い潜り、二人まとめて強烈な飛び蹴りをぶちかまし地面に激しくたたきつけた。少しでも隙を作らせない。そう考えたハーネイトは魔本変身の長所である複数電魂の発現による、多彩かつ読まれにくい攻撃を繰り出していく。

 彼は紺色の魔人の書に手をかざし、流脚のエストレアという格闘戦士の力を借りる。そして空から足を重ねて、そのままドリルのように空気を切り裂きながら彼女めがけて落下する。そして地面に着弾し、すさまじい土煙と衝撃の後セファスを蹴り上げる。


「ごはっ……!これはっ……何なのよ!」

「うなれ、クリムゾンイーヴィル!灼熱豪炎刃(クリムゾンバーストセイバー)」


 それに追撃する形で、彼の左腕に宿る機鎧、クリムゾンイーヴィルの能力が発現する。手から燃え盛る炎の刃を形成し、打ち上がった彼女の体を真下からそれを突き立てた。すると周囲を燃やしつくすほどの炎柱が上がる。そして炎は周囲を飲み込み、まるで結界か何かのように大気を燃やす。


「これで、とどめだ!フルフォースコード!」

「このわしが貴様らの野望に終止符を打とうではないか、見るがよい、死の訪れは貴様を選んだ、その輪廻、その命、我が一撃をもって奪い去る!故に、全テ無ニ虚ス光芒雨(スティム・スティレン)」


 魔本に秘められた力をすべて火力に変換するプログラムコード、フルフォース。それを唱えながら心の中で魔本を手に取りかざし意識を集中させる。そして上空で翻りながら瞬時に悪魔皇帝フォレガノに変身した。そして体に光を集め、一気にそれを体中から無数に放射し、その一撃一撃がすべてセファスに誘導するようにその光の帯はうねり、空気中を屈折するな否や、彼女の肉体を焦がしていく。


「ぐぉあああああああああ!貴様らぁあああああああ!!」

「これで、終わりにしてやる、大魔法112の号、星天滅葬(せいてんめっそう)……!」


 強烈に地にたたきつけられながら灼熱の閃光で体を焼かれたセファスに対し、ハーネイトは星の魔法、星天滅葬を発動する。体が光に包まれ、はるか上空まで一気に飛翔し、そのまま彼女めがけてすい星のように落下する。そして彼女に体当たりをぶちかましながら、光の閃光と爆発がその周囲を包み込む。


「……そ、んな……が……こんな、はず、では………っ!」

「魔法使い同士の戦い、最後は魔法で蹴りをつける。師匠……」


 全身全霊の、疾風怒濤の連撃。ハーネイトの攻撃をすべて食らったセファスは、地面に激しくたたきつけられたまま動かなかった。


「ククク、我らの力の前に立つものなどおらぬわ」

「……済まない、フォレガノ、みんな」

「案ずることはない、小僧。貴様の師匠の仇、確かに貴様の手で果たしたのだ」

「俺たちの力をここまで使いこなすとはな、これからも期待しているぞ」

「……まだ、だ」


悪魔たちは安心しきっていたが、ハーネイトは表情を引きつらせながら、倒れたはずの彼女を見ていた。そう、確かに大ダメージは与えた。本来なら致命傷であるはずの悪魔の一撃。しかし彼女はその場に立ち上がったのであった。


「なんて耐久力なんだ。あれだけの攻撃を喰らってなお立ち上がるのか」

「……殺す、殺す殺す殺す殺す、世界を、人を、お前を、ああああああああああっああああああ!」

「っ!これは、どういうことだ」


 セファスの魔力がいきなり増大し、あふれては周囲を津波のように飲み込み押しつぶして破壊していく。彼らが与えた強烈な一撃で彼女は完全に正気を失ってしまったのであった。そして膨れ上がる魔力が彼女の肉体を変え、見る見るうちに醜悪な邪神になり、軽く50mはあろうかという背丈まで体が巨大化する。


「……いかんな。完全に正気を失って暴走しておるな」

「し、師匠……!」

「何をぼさっとしとるか、早くあやつを止めるぞ」

「は、はい!」


 ジルバッドの怒声にハーネイトは我に返り、藍染叢雲を構え再度突撃を仕掛けようとした。確かに、師匠から生者の気配はない。しかしその声、口調。それは紛れもなく、幼少のころにいつも聞いていた師匠の声そのものであった。そう、確かに今ジルバッドという男は、硝煙や肉の焼けたにおいの立ち込める、荒れ地と化したこの戦場に立っていたのであった。


「まさか、なんで、こんなことに、師匠、師匠!!」

「……落ち着くのだ、我が弟子よ。確かに、あの時わしは死んだ」


 かりそめの体でジルバッドは、落ち着いた声で弟子に話しかけた。自身が死んだ後、その魂を拾われ、拘束されていたこと。そして反撃の機会をうかがっていた矢先にこのような事態になったことを話したのであった。


「な、なぜ、そのようなことを、師匠!」

「わしとて、責任があるのでな。一人の若い女の人生を狂わせてしまった。それに気づいた時から、こうしてでも止めるとな」

「だけど、その仮初の、いや、死霊術によって現界を保っている状態なのでしょう?」

「そうじゃが」

「あのセファスという女からそうして力を奪えば、師匠は消えてしまう……」


 十何年ぶりに、不完全とはいえ再会を果たした師匠。然し彼女の力でどうにか姿を維持できているため、もしこの場で彼女に勝利し倒してしまえば、師匠はこのまま消えてしまう。そう考えたハーネイトは、その場から動くのをどこかでためらっていた。


「こぉの馬鹿もんが!!!!!!!!」

「がっ……!」

「貴様はわしへ依存しておるな。まだ治っとらんのか、お前は」

「し、師匠……!」

「わしは死んだ身、どうあがいても、終われば土に還るだけじゃ」


 本当はどうにかして活躍をしている彼に会いたかったジルバッドだったが、彼女のかけた呪いにより行動のほとんどを支配されていたためどうすることもできなかったのであった。そして、まだ甘くてふがいないところがあるハーネイトを一喝するな否や、彼の頭に手を当て彼をなだめようとした。まだまだ青二才じゃなとジルはつぶやきながらセファスのほうを見ていた。


「せっかく、こんな形でも、また言葉を交わせると……」

「はあ、しかしこうしている間にも、あの女の力は増幅するばかりじゃ。最大の魔法力をぶつけ、彼女の力を削ぎ落すほかない」

「……ええ。……行きましょう、すべてを取り戻すために!」

「フッ、ようやくいい顔をしてきたではないか。行くぞ、我が弟子よ、息子よ!」


 盛大に頬を殴られ、冷静さを取り戻したハーネイトは、刀をしっかりと握り構えると、すかさず彼女の方に向かって走り出した。多くの魔獣の死骸の上を超え、風に乗り、空をかけるように突き進んでいく。


「師匠は上から、私は下から行きます!」

「おう、さっさと行け。さて、と。悔いの牢獄 無快の大箱 夢幻の調べ、幽玄の理。天と地結ぶ契約の柱、大いなる狂気の籠、天命断ち切り悲劇の提供者 捕らえし者に適し与えよ苦悶の罰 黒界の魔檻は魂捕らえ逃すことなく只其処に有り!」


 ジルバッドが、ハーネイトが以前使用した大魔法よりも長い詠唱で、同じ魔法を使用しようとしていた。ジルバッドらが魔法研究を行っていた際は、魔法の詠唱はこれほども時間がかかるものであった。常勝のジルバッドとも生前は言われていたが、彼の死因は長すぎる詠唱中に敵に囲まれ、集中攻撃を受けたことによるものであり、魔法の扱いの難しさがそこにあった。  

 そして彼は、弟子であるハーネイトが魔法の境地に達し、同じ効果でも3行の詠唱でそれが行えることを知らなかった。そしてそれはすぐに、彼自身の目で目撃することとなった。


「ここまで、弟子が成長していたとはな。フハハハハハハ!それを見ることができただけで、わしは安心して向こうに行けるぞ」

「はああああ!落ちろ、落ちろって言ってんだよ!」

「グギャアアアアア!」


 彼女の面影は既になかった。黒く美しい髪、白く透き通るかのような美しい肌。しかしそれは既になかった。変異しつつあるその腕は周囲の大気を切り裂き、その足は地面を破壊する。今まで戦ってきたい世界からの侵略者よりも強い。そう思いながらも、ハーネイトの剣と魔法は鈍ることを知らない。彼女の腕が虚空を振るい、彼をなぎ倒そうとするがそれを移動魔法で巧みにかわしてから空を飛び、地面に向けて無数の連続突きを行う。エクセリオンキャリバーに武器を持ち替え、その剣の刀身を素早く伸縮させることで強烈な一撃を彼女が襲う。それでも彼女は倒れず、肩や背中に生えているカッターや針を無数に飛ばし彼を打ち落とそうとする。

 しかし彼のスピードはそれらを容易に振り切る。そして空中で間合いを取りながら何かを詠唱する。


「集う雲、群れる天雷。融雷せよ、破戒せよ!電閃の裁きよ天より来たれ!大魔法59の号、百雷轟臨電撃(びゃくらいごうりんでんげき)!」


 彼は神経を研ぎ澄ませ、天に手を掲げる。すると天が急に曇りだし、彼の上空には幾多の稲妻を含んだ黒雲が立ち込める。すると突然彼女の体を光の帯が貫き、次の瞬間とてつもなく巨大な雷が彼女を飲み込みながら穿った。その一撃はさすがに堪えたのか、彼女の動きがその場で停止した。肉が焦げるようなにおいが辺りに立ち込め、放った電撃の威力の高さがそれを物語る。


「弟子が師匠を超えるか……。フハハハ!流石、わが弟子よ」


 ジルバッドはその光景を見た感想を述べながら高笑いしていた。まさかこれほどまで実力をつけていたとは思っておらず、彼を育てたことを誇りに思っていた。異世界から親に頼まれて連れてきた養子が、自身を超えるセンスの持ち主であった事実。しかしジルは嫉妬など全くせず、彼をほめたたえていた。

 そう、彼はハーネイトの実の親を知っている。なにより、昔助けた異世界の住民や旧友たちを連れてシルクハインのいる女神の世界まで向かった際に、その親から女神の計画を阻止するためにまだ赤ん坊のハーネイトを連れて行ってくれと懇願され、彼の願いを受け入れたからである。それは、ハーネイトがこのままこの世界にいれば、人としての心が全くない、殺戮兵器になること。そしてそうなれば、人類は未来を失う。何よりシルクハインが、息子を愛していたから。だからこそ異世界の、いや。元居た世界の住民に希望を託したのであった。


「ハーネイト様、あれが、伝説の戦士なのですね。兄さま、彼に近づく脅威を片付けて、お願い!」

「無論だ、セフィラ。さあ、不浄なる死の使者よ、今一度土に帰れ!」

「龍神様に続け!我らがハルクス龍教団の力、見せつけたれ!」

「数が減ってきておるな。全軍、包囲攻撃で残りをひねりつぶせ!」

「イエス、ボス!」


 勢いづくのは龍騎士団だけでない。ここぞとばかりに機士国の軍勢が一糸乱れぬ統制で的確に敵の集団を包囲し、銃撃や魔法工学で生み出された魔道兵器による一撃を無慈悲に浴びせていく。


「俺たちだって、な!黄の魔閃」

「行くぜ、影狼!」

「これを喰らいなさい、白銀伸剣!」


 リシェルがそれに呼応し、上空に銃口を向けて無数の光を打ち放つ。それが雨となり、大地に降り注ぎ包囲されている敵の魔獣たちに襲い掛かる。その一撃一撃が皮膚を貫き命を奪っていく。一方の南雲と風魔もそれぞれの忍術を生かし包囲からあふれた敵を打ち取っていく。ハーネイトの熱い思いと気迫が、広大な戦場に広がり、それに呼応するかのように兵士や仲間たちが立ち上がり、各自ができることを行っていく。


「へっ、やるじゃねえか相棒の仲間たちよ。ここが踏ん張りどころって、はっきりわかってんぜ」

「伯爵!フィナーレ、飾るわよ!」

「おうよ!」


 伯爵とリリーは、この星の人たちの可能性、そして一体となったその力に驚きながらも、これこそが必要なことではないのだろうかと考えていた。

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