Code124 魔法使いとの決戦・2
「さあ、あなたたちの仲間をすべて殺して奪ってあげるわ。絶望に屈しなさい、ジルバッドの生き写しめ!」
セファスオスキュラスは自在に魔法杖を振りかざした。するとその杖から光が天を貫き、少し間をおいてから邪悪な意思を放つ無数の光雨が大地に降り注いだ。そこからおびただしい数のゾンビやスケルトン、そして死にかけていた魔獣も立ち上がり、大海嘯さながらの猛進撃を始めたのであった。
「本当に数だけは多いな」
「伯爵、ここはあんたの力、フルに開放した方がいいんじゃねえのか?」
「ああ?俺は相棒とリリー以外の指示は受けねえぜ」
「じゃあ、私からお・ね・が・い。伯爵のかっこいい所見せてよね!」
今まで見たこともない大軍勢を目の当たりにした伯爵たちはそのすべてを見ながら、一気に打開する策を考えていた。並の兵士ならば戦意を失い逃走し始めるだろう、しかしここに集いし戦士たちは格が違う。どう突破し、敵を打ち取るか。それしか頭になかったのである。
現在機士国の兵士たちはこの戦域に25万程度いるが、もしこれを彼らだけで止めるには残りの95万を急遽呼び寄せてどうにか抑えきれるかというほどの勢いであった。しかしその残りの兵たちは事前に作戦を立てた通り、他拠点の制圧や首都防衛に回っているため、ハーネイト及びその仲間たちの超人的な火力が必要不可欠な状況であった。
ガルバルサスはその情報を前線の各隊長から聞いて、ボルナレロたちに連絡を取る。幸い他拠点の制圧はこの時点で8割方完了していたが、どんなに近い部隊でも支援到着に4時間はかかる見込みだと伝えられ、彼は歯を食いしばっていた。
そしてリシェルが伯爵の固有能力を使えば早いと進言するも、彼は相棒であるハーネイトの命令なしにはそれは使わないと突っぱねた。しかし最愛の人であるリリーのおねだりに仕方ないといった表情で、気合を入れた伯爵は、叫んで命令を出した。
「へっ、仕方ねえな。その前に兵を引かせろ。無差別に醸すからよ!」
その声が聞こえたガルバルサスとその部下たちは、すぐさま前線に出ていた兵たちにいったん引けと命令する。
「あの大うつけ者が、しかし、今は任せるほかないか。おい、兵隊ども、全軍aラインまで速やかに引け」
「了解であります、ボス!」
「なんだと、兵を引かせるとは」
実は以前、伯爵が事件を起こした際に現場の警備にあたっていたのがガルバルサスであり、彼の恐ろしさを目の当たりにした貴重な一人であった。そしてハーネイトから事前に話を聞かされていたこともあり、すぐに命令を出したのであった。そして兵たちは手際よく前線から後退し、彼らの前に突然伯爵が現れたのであった。数十万の軍勢を的確に、に統制の取れた動きを可能にしていたのもRTMGISシステム、そしていくつものアイテムを作り出した科学者、研究者たちのおかげであった。
「へへへ、いいぜ!特別に見せてやるよ!」
すっと地面に降り立ったサルモネラ伯爵。そして精神を集中させ、この戦場にいる無数の眷属たちに命令を下す。
「行くぜ、我が眷属ども!醸して食らいて滅ぼしてしまえ!日和見乃反乱劇!」
そう彼が言った次の瞬間、大地を埋め尽くしていたはずの軍勢が突如煙となって虚空に消えていったのであった。
「あ、あれだけの軍勢が一瞬で、消えただと!」
「嘘、だろ……!なんだよあれは。あの男、確かガルバルサス元帥が言っていた、ハーウェンオルクスの、死神!ああ、思い出した!」
「なぜ、あれが俺たちの味方を……」
久しぶりにその最強最悪の能力を見たガルバルサスも、人づてに噂を聞いていた前線の兵士たち。そして全く事件を知らなかった兵士たちは全員同じ感情を抱いていた。それは死への恐怖であった。
なぜ伯爵が恐ろしいか、それはいかなる防御も、能力も無視して相手を醸して食べてしまう。そういった能力によるものであった。彼が相棒と呼ぶハーネイトもそうだが、この菌の魔王のできることは想像しただけでも身の毛がよだつ程の力であった。
「だが、私は死霊術師!幾らでも死の軍勢を呼び出してあげるわ」
セファスがそう言いながら杖を数回手元で回し、邪悪な魔法の詠唱をする。すると伯爵が葬ったはずのゾンビやスケルトンの軍勢が再度その場に現れ、ガルバルサスらが率いる軍陣に向けてまるで津波のように怒涛の勢いで押し寄せる。
「ほう、しぶとい奴らだな。こいつは驚いたわ、クハハハハ!」
「くッ、この物量はまずい!」
「まずいですな、これは」
ガルバルサスたちの近くにいたアンジェルとルズイーク、そしてバイザーカーニアの関係者たちは、幾度となく迫りくる軍勢に対抗しきれずにいた。その時、森のほうから強烈な閃光が走り、大地を飲み込んだ。
「うらぁあああああ!」
「せいやぁあああ!」
その光波は多くの魔獣や機械兵を巻き込み、光の減衰と共にあらわになったその領域に、生命反応は一切なかった。その光景全員が見ており、光が生まれた元を誰もが凝視した。するとそこには、シャムロックとハルディナが威圧感のある立ち方で敵の軍勢を睨んでいた。
「だ、誰だあの二人は」
「まさか、あの姿は。ハルディナさん!それにシャムロックさんも!」
「知り合いなのか、エレクトリール」
「ええ。あの人たちにもここに来た際に助けて頂きました。しかし、あれは一体」
エレクトリールはまさか、リンドブルグの町長までここまで来ているとは想定していなかった。そして彼女の恐るべき力もである。狂王ハルディナ、それが彼女の異名。おしとやかでかわいらしい姿は、あくまで演技。愛しの彼に近づくためにやや無理をしているだけであって、本性は血も涙もない無慈悲な鬼であった。
「お、鬼がいるぜ、なあ風魔」
「あの人は、噂に聞いたことがあるあの狂王、ハルディナよ」
「狂王?」
風魔は風のうわさで、でたらめに強い女格闘家がいると聞いたことがあった。それがハルディナであり、彼女の力を聞いた風魔は顔を引きつらせていた。何せ彼女は素手で街の一つや二つを消し飛ばすのである。その光の威力は、例えるとしたら小型の核爆弾に匹敵するほどであるという。それを聞けば、あの軍勢たちが光に飲み込まれて次々と消滅していくのもうなづける話であった。
「フハハハ、戦場はよいものだ」
「それだけは、私も同感します。いでよ、四千銃士隊、すべてを亡ぼせ!」
「ではこちらも切り札を切らせてもらおうか。出でよ、神奇影軍(しんきえいぐん)! 」
シャムロックの奮戦を見たミロクとミレイシアもベイリックスをクロークスやリシェルたちに任せ前線に立ち、それぞれが能力を行使して残りの魔獣やゾンビ、スケルトン兵などを蹴散らしていく。彼の鮮やかで無慈悲な剣裁き、彼女の巧みで圧倒的な人形兵からの集中砲火。対策などしていなければ防ぐすべなどない。主であるハーネイトですら、素の状態で戦って無事でいる保証はないといわしめるほど、シャムロック、ミロク、ミレイシアの3人はけた違いの強さを誇っていた。彼に仕えるものは、彼に肩を並べるほどの力がなければならない。それを彼らは証明していた。
ミレイシアの人形兵たちは正面から来る敵の群れを焼き払う。それに合わせる形でミロクは刀を抜き地面に強く突き刺す。そうすると地面が黒く染まり、そこから影人が無数に現れ一目散に魔獣や機械兵たちにとりつく。ミロクの持つ刀は、切った物の影を取り込み、自在に支配する恐ろしい能力を持っていた。影を切るだけでなく、利用する。これが一般人でいう還暦を迎えた、伝説と称される老剣士の力であった。
「なんという力だ。あれがハーネイトに仕える者たちの実力か」
「そうですねえ。あの三人、今ではほとんど存在しない純粋な古代人のはずですよ」
「は、ハハハハ。これはもう勝ち戦だな」
伯爵とリリー、南雲と風魔はその光景を目に焼き付けながら、勝利を確信していた。自身を3回も致命傷を負わせたハーネイト。それに匹敵するのではないかという猛者たちの奮闘。サルモネラ伯爵はおもしれえ、おもしれえと声高に叫んでいた。
「魔法使いさん?自慢の軍勢、もう戦線崩壊しているけれど」
「う、うるさい!な、なんなのよあの連中は!」
そんな中、ハーネイトはセファスオスキュラスと対峙している真っただ中であった。
「なぜこのような真似をする」
「決まっているでしょう、こんな世界なんかぶっ壊して、滅茶苦茶にするためだわ」
「そこまで言うか、だがな、そんな野望はこの私が打ち砕く」
ハーネイトは手にした刀を鞘から素早く抜きはらい、彼女めがけて突貫する。その一撃を彼女は防御魔法を即座に発動し、黄色く光る魔力の壁で受け止める。そして盾と刀をぶつけながら話をする魔法使い。あまりに敵意をむき出しにしているため、ハーネイトはなぜそうなのかを聞きだそうとしていた。
「貴様がハーネイト、か。ジルバッドによくしてもらったというじゃないか」
「それが、どうした!」
「私は、あいつが、あいつの研究が憎い。いや、すべてが憎い!」
彼女は憎悪をあらわにし、彼に向かって突撃しながら、黒い半透明の触手を無数に展開しつつ迫りくる。そして彼の刀と彼女のまがまがしい触手がつばぜり合う。ハーネイトは的確に触手をいなしながら距離を詰めては一旦離れ、決定的なすきをうかがう。そして再度突貫し杖と刀がぶつかり合う。
二人はそうしてぎりぎりとにらみ合いながら、何があったのかとハーネイトは彼女に叫びながら尋ねた。
「そういうわけか。セファスはジルバッド師匠のことが好きだったわけなんだな」
「だが、だがっ!師匠は打てあってくれなかった。そんなに、死霊魔法が怖いか、ああ!」
このセファスは、闇魔法の使い手であり、特に死霊や死体を操る死霊術師であった。しかしそれが彼女を苦しめる結果になった。彼女もジルバッドの大ファンであり、心酔していた。苦労の末に弟子に入るも、死霊術を嫌っていたジルバッドは彼女を受け入れられず、溝は深まるばかりであった。
それも、ジルバッドの魔法に対する思いや信念が、彼女のとは大きくかけ離れたものであったからである。
「師匠は魔法使いの印象向上に関して大きく貢献していた。そんな師匠が、世界を乱す魔法を使う人を傍に置いておいては、言葉に重みがなくなる。だからそうなったのでは?」
「だったらなぜそれを、いわないのよ!」
「それは俺が知りたい、ぜ!だが、信念が合わずとも、あんたにはそのままでいてほしいなんて、願ってそうしたんじゃないのか?師匠は昔から口下手なところあったから」
彼らは激しく魔法を撃ち合い、間合いを詰めてはそれぞれの武器でつばぜり合い、吹き飛ばされてはまた魔法を撃って間合いを詰める。誰も近寄れないほどに過激で、白熱した戦いを彼らは繰り広げていた。これこそが真の魔術師同士の戦いである。
「何よ、それ。ふざけるなっ!喰らいなさい、大魔法37式、炎獄魔陣!」
「炎熱などこれで打ち消すまで、大魔法43式、雪華氷雨(せっかひょうう)」
セファスは火炎系の大魔法、炎獄魔陣でハーネイトの逃げ場を塞ぐ炎の壁を作り出す。しかしそれを彼がカウンターで氷結系大魔法、雪華氷雨(せっかひょうう)による凍てつく冷気と氷柱の雨で打ち消す。しかし互いに強大な力がぶつかり合いなかなか勝負が決まらない。ハーネイトも大概だが、このセファスも実力でジルバッドの弟子になっただけのことはある。そして常に鍛錬を怠ることなく、協会から研究資料を強奪し、3行句版の大魔法を難なく使用していた。ジルバッドら6聖魔は昔の長い詠唱に固執していたが、ほぼ同年代の彼女はそれにこだわることなく、的確に魔法を連発する。
「ぐぅ、なんて火力っ!」
「ふん、流石ジルバッドの子供ね」
「お、俺は、師匠の子供じゃ、ないっ……!イジェネート剣術!剣林(ソードフォレスト)」
セファスの言葉に表情を一変させ、普段見せない様相で彼女をにらみつけるハーネイト。そして彼は刀を突き出す。すると地面から無数の刀剣が勢いよく空中に伸びていき、空中にいる彼女を打ち落とそうとする。
「へええ、そんな技も使うのね。それなら何よ。一番彼から多くのものを受け継いでいるというのに?あ、あがががが、じゃ、邪魔をするな、ヴァルナー、っ!」
「様子がおかしいな。って、アルフシエラ様?」
「まさ、か。ヴァルナーって、ヴァルナーティクス?」
セファスの様子を見たハーネイトは、アルフシエラの声を聴き、彼女の中に、ヴィダールティクス神話の邪神、ヴァルナーが潜んでいることを教えてもらった。
「もしかして、以前おっしゃられていた娘さん、ですか?」
「そう、よ。ええ、今ならはっきりと、あの子の波動が分かるわ。おそらく、彼女の中で眠っていたのね」
「だったら、なぜ今になって出てくるんだ?」
「ぐあ、あああああああああ!」
そして苦しみもがいた末、彼女の動きは止まり、ハーネイトの方に向けて凍るほど凍てつく視線を向けたのであった。
「幸い各地から歴戦の戦士たちが集結している影響か、拮抗しているが長くはもたんだろうな」
「ガルバルサス司令官!死人は出ていませんが負傷者が多数です。戦線の維持も大分きつい状態です」
「だが、敵の勢力は沈黙した。よくあれだけの魔物を、機械兵をおさえこんだものだ」
「しかしまだですよ。彼は、あの巨大な化け物と対峙しています。そしてまだ、魔法使いが呼び出したものと思われるゾンビ、スケルトン兵が残っています」
部下からの情報を聞いたガルバルサスら機士国関係者は、すぐに戦術を変えて至急無線で連絡を各部隊に取った。
「……他の部隊及び他国の戦士たちに次ぐ。ラー遺跡まで総合の半分の兵で強行突破し、挟撃に持ち込む!日の国の侍と霧の龍が道を開く。その隙に第一から第六までの機士国連隊は強行突破を図れ!残りの部隊は再編しつつ、敵を押し込め!」
「……ボルナレロ氏から連絡!CエリアとFエリアでデモライズによるものと思われる大型級の魔物の出現を確認!死人がカードを使用している模様だ」
「ええい、次から次へと!」
各地に配置した魔法センサーから伝達される情報を随分更新し、余すことなく確認するボルナレロとホミルド、そしてほかの研究者たち。ガルバルサスと前線にいる戦士たちの情報と合わせ、必要な情報を適宜提示していく。これこそがハーネイトが目指していた地図を運用し効率よく戦線を押し上げ制圧する手法。今のところ特に問題はなく、支援を受けた各部隊は統制を取りつつも勢いを増して敵に立ち向かっていく。新型の魔粒子早期探知追跡システムも順調に機能しており、後方で支援するボルナレロやダグニス達はタイミングよく前線の兵士たちに指示を出していく。
「退治か、任せな、ガルバルサスのおっさん」
「お前は、セヴァティス!それにルクスもか」
「騒ぎと聞いて駆けつけてきたぜ」
彼らの頭上から声がし、すると二人の男が急に飛び出し、ガルバルサスらの前に降り立った。彼らはハーネイトの生徒たちであり、そして魔法工学を極めたマジカルマイスターの称号を持つ男たちであった。
「それと、他にもハンターたちを集めてきたぜ」
「お前ら、ハルクス騎士団の支援に向かってくれ。それとセヴァティス、その棺桶の武器で道を切り開け。ハーネイトを支援しろ!」
「先生もいるんだな、了解、任せとけ!」
そうして速やかに二人は前線に向かい、指定されたポイントに対し攻撃を開始する。セヴァティスの兵装はコフィンアームズ。背中に背負った棺桶からキャノンやミサイルなどが発射される物であり、魔法工学の結晶の一つといわれる。そしてルクスは巨大な4枚の透き通ったオレンジ色のブレードから構成される自立攻撃兵器を4基召喚し、すべてを死人の群れに向かわせビーム攻撃を行った。
「兄さん、今です!機士国軍たちの軍勢に道を!」
「言われなくとも、セフィラ。さあ、この一撃を受けるがよい、レインボーブレス!」
そしてハルクス龍教団も一気に攻勢に出た。ウルグサスは拠点から飛びあがると空中で巨大な霧の龍に姿を変えると、口元に光を集め、出力を調整しながら遺跡のほうに向かって、虹色のドラゴンブレスを放った。その鮮やかな光の一閃で、多くの死人が浄化され消滅した。
「俺らも行くぜ、兄貴たち!」
「あまり先走るなフリージア!」
「ったく、気性の荒い妹を持つと胃が痛いな」
「同感だが、今はあの力を借りるほかない。そらそら!レイフォン騎士団のお通りだ!退きたまえ!」
先に遺跡に向かっていたレイフォン騎士団もガルバルサスやボルナレロの指示、支援を受けて突撃を仕掛け、部隊が通れる道を一時的に作り出していく。フリージアたちの魔剣技が炸裂し、遺跡まで一本道が豪快に完成した。ここまでの力を出せるのも、ハーネイトが彼らの装備を調整したり、互いに鍛錬しあったからである。
「おおう、あいつらすげえな」
「ええ、あの人たちのおかげで道ができているわ」
「見てえだな。さあ、俺たちは遺跡側に向かう軍勢として出向く、さあ、ついてこい後輩たち!」
伯爵とリリーはその光景を見ながら、気に入られた忍たちを率いてさらに突破口の維持に回る。神出鬼没な伯爵による一撃、そしてリリーの魔法支援と忍たちの戦技が敵陣を切り裂き吹き飛ばす。そんな中、ガルバルサス側の拠点にある人たちが訪れていた。
「遅くなってごめん!」
「すまんのう、切り札の用意に時間がかかってな」
「バイザーカーニアの連中か」
「ミカエルさん、ルシエルさん、そちらの方は」
「敵の中で数人強大な魔物に変身した奴らがいて、少しづつ押され始めているわ」
ロイ首領をはじめとしたバイザーカーニア関係者。そしてダグニスも急遽ミスティルトからやってきたのであった。
「なんと、ハーネイトは何をしておる」
「彼は事件の元凶、セファスオスキュラス。そう、私の父さんを殺した魔法使いと戦っています」
「あ、あの魔法学史上最大の惨事を引き起こしたあの女が本当に生きていたとはな」
「大丈夫でしょうか、破門されたとはいえ、彼女の実力は本物です」
この星の魔法使い、魔導師にとって今彼が戦っている相手は誰もが一度が名前を聞いたことがある、禁断の魔法に手を染めた大罪人として知っている。そして6聖魔の一人を倒した実力も知っていた。バイザーカーニアの構成員の中には、不安がるものも少なくなかった。
「しかし、彼には不思議な力がある。ああ。必ずやり遂げてくれるとわしは信じている」
「ロイ様……そ、そうですよね。ジルバッドの正式な伝承者、ハーネイト様に敵なんておりませぬ!」
「さあ、わしらも雑魚どもを蹂躙するぞ!遍く光の輝跡 幻惑の調べ 数多の光よ指先集え 百撃をもって終焉を与える!大魔法89の号・天衝彩光百砲(てんしょうさいこうひゃっぽう)」
「では私もっ!地を刺す楔 死者の刻石 雨のように悲しみ降り注げ 幾多の無念よ墓標から解き放たれろ!大魔法79の号 石墓呪殺黒剣!(せきぼじゅさつこっけん)」
拠点に迫る不死の軍勢に対し、魔法使いたちがそれぞれ大魔法を詠唱し攻撃を始めた。それぞれが大地を破壊するほどの一撃。光と闇の最強魔法が合わさり、100もの巨大な光の弾丸と、無数に落とされる禍々しい墓石の雨が魔獣や機械兵の大群に襲い掛かり蹂躙していく。一時は押されていたものの、全員の意思がまとまって形となった今、敵の勢いを完全に飲み込み逆転の狼煙を上げていた。
「ひゅうう、あれが魔法使いの連中、バイザーカーニアの連中か。ド派手だな。さあ、魔銃士の誇りにかけてこの戦い、勝つ!」
「ああ、久しぶりに腕が躍るわい。孫よ、行くぞ」
「おうっす!爺さん!」
「それじゃあ、わしも行くか。野郎ども!錨を上げな!」
前線のやや後方で、ベイリックスから戦況を監視しつつ支援砲撃を行っていたリシェルたちは位置を変えるため車を動かす。そして有効射程圏内に敵を治めると、相手の逃げ場をなくすように無数の魔閃、そして次元の狭間から召喚された3隻の宇宙戦艦による一斉放火が敵の抵抗をそぎ落とす。
「ったく、なんて数なのよ。でも、あの一撃で敵の陣形が乱れたわ!」
「ああ。みんなが一つになっている。そして敵の勢いも。アンジェル、そして王様!行こう。我が友のためにも!そして世界のためにも!」
「よく言うではないか、ルズイーク。ああ、私もこの不毛な戦いに終止符を打とう!」
あれからもう3時間。途中どうなるかとは思ったものの、一騎当万、億級の戦士や魔導師らのおかげで敵の猛攻を耐えきっていた。そして日之国から魔甲馬に乗って駆け付けたアレクサンドレアルたちは前線の状況を確認しながら、さらに追い打ちをかけるため兵士たちと同じ戦場に立ち、味方の軍勢を鼓舞したのであった。
「おおおお!われらが王、アレクサンドレアル王!」
「勝利を、王にささげようぞ!」
王の勇ましく、よく響く声が味方の士気を大幅に高め、セファスが召喚した死人の群れをどんどん押し返し、戦場の支配域を塗り替えていった。
遺跡周辺の制圧は時間の問題ではあった。そしてハーネイトとセファスの戦いも、そろそろ決着がつきそうな状況であった。そのはずだった。
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