Code 168 自身の名前の由来



「シルクハイン……私の名前は、一体誰がつけたものですか」

「どうした、いきなりそのようなことを聞いて」

「……自分の名前の由来くらい、はっきりしないと落ち着かなくて」


 ハーネイトという名前の由来。オーダインが簡潔に説明してくれたが、詳細な情報を知りたい。自身が背負う名前の意味を、彼は知らずにはいられなかった。


「そうだな、オーダインからハーネイトという言葉についての意味は聞いただろう」

「はい、古代人の英雄と聞いていましたが」

「実はな、そのハーネイトと言う名前は、ヴィダールティクスの神々、14番目の神の名前として決まっていたのだ。終わりにしてすべてを束ね、始まりを再びもたらす、そういう意味だ」


 ハーネイトはそれを聞き、以前フューゲルと話したときに聞いた話と合わせ、自身は本当に作られた存在なのだなと思っていた。


「始まりと終わりを繰り返す……か」

「輪廻転生……?」

「ほう、あの魔法使いのところで育てられたのか。それで、ルシルクルフか」

「はい、師匠には、本当にお世話になりました。おかげで、魔法使いとして一定の地位を得ることができました」

「そう、か。それで戦死したとな。あの男が」


 シルクハインは、逆に何故ハーネイトがジルバッドの姓名を着けていたのかが気になっていた。しかし理由を聞き、あの時訪れた男はきちんと任務を果たしてくれたのだなと思い、同時に既に亡き者となっていたことに驚きを隠せずにいた。


「そうか……。ジルバッド、彼は偉大な男だった。古代人としての誇りをしっかり受け継いだ男だった。だからこそ、ハーネイトを託したのに……な」

「師匠の魂というか、それは魔本に今刻まれています」

「な、そこまで成長していたのか、ハーネイト」


 シルクハインは、かつて訪れた来訪者であるジルバッドのことを思い出し、同じ血を受け継ぐものとして信頼していたとハーネイトに教える。そしてDGに殺されたことを知ると、とても残念な表情を見せたのち、少しうつむいていた。けれどハーネイトは魔本の中に彼の魂はあるというと、シルクハインは驚いていた・


「ですが、そろそろ師匠と親離れといいますか、新たな道を歩もうとおもうようになりました。ルシルクルフという名を背負ってきましたが、シルクハイン……父さんの名前は」

「わしは、シルクハイン・スキャルバドゥ・フォルカロッセだ」


 改めて、実の父である彼の名前を聞いたうえで、一呼吸おいてからハーネイトは強い意志を目にたぎらせながらこう言った。


「スキャルバドゥ……フォルカロッセ。……その名前、私にもいただけませんか」

「まあ、それは構わんがな。誰もがファーストネームで呼ぶだろうし、問題はない」

「…ありがとうございます」

「おうおう、ここにきて名前あれか」

「師匠であるジルバッド様を超えるために、か。ハーネイトも変わったわね」


 相棒が次のステージに足を進めようとしている。それを感じた伯爵とリリーは祝福し、新た名前を背負い戦っていくことを決めたハーネイトに新たな期待を寄せていた。 


「みんな、これからもハーネイトって、読んでくれ。だけど名前は、ハーネイト・スキャルバドゥ・フォルカロッセだ」

「イカした名前になったな。いいぜ、ああ」

「名の通りに、活躍することを誓おう」

「そうか、好きにするとよい。ところで我が息子よ、魔本の中にある電魂の様子はどうだ」


 シルクハインは先ほどの魔本の話も含め、今どの程度力を行使できるのか尋ね、ハーネイトはやや複雑そうな顔をしたがすぐに微笑んだ顔で問題ないと説明した。けれど、不安がまだあると打ち明けた。

 それに対しシルクハインは、ある言葉を彼に送った。それは、魂に向き合えということであった。


「……、もう一度、向き合えというわけか」

「ああ、そうだ。幾らでも、向き合え」


 内なる囚われた魂をどうするか、シルクハインは息子に対しもう一度全員と対話をし向き合えば、何か答えが見つかるかもしれないとアドバイスした。


「まだ、完全ではないのか」

「フッ、息子よ。完全なるものなどないのだ」

「まあ、俺様だって弱点の一つ二つはあるさ」

「誰だって、そうよ。だからこそ、補い合うことで乗り切れるのよ、何もかも」


 全てを生み出した女神、その力の片鱗を持つ彼でさえ、完全というにはまだ遠い存在であった。そもそも、完全とは何かといえば終わりのない議論が始まるだろう。


「確かに、人はまだ未熟です。けれども、だからこそまだ、伸びしろはあるはず」

「だけど、女神はそれを認めないのだ。いや、彼女は失敗生命体としてこの世に生み出してしまったことを恥と思っているのだろう。プライドだけは誰よりも高いからのう。困ったものだ」


 ソラ・ヴィシャナティクスは昔よりそういう存在だった。シャックスからその伝承に関しては事前に一通り教えてもらっていたためさほど驚くそぶりは見せていなかったハーネイトだが、改めて自身を作った親と呼ぶべきか、そのような存在がひどくて無茶苦茶な奴ということだけは認識した。


「とにかくだ、その女神ってのが目覚める前に対策立てとかかねえと」

「その通りだ、伯爵君」

「何だその呼び方は。まあ、そんな奴に世界を滅茶苦茶にされるとか腹立たしいしな。俺様がいる限りそうはさせねえ」


 サルモネラ伯爵は、盛大に部屋でくつろぎながらシルクハインにそう話す。それを見たオーダインは、この人ではない強大な存在が何を考えているのか気になりこう尋ねた。


「では、貴方は何の世界を守りたいのですか?菌世界の王様とやらは」

「けっ、そんなもん、全てさ。ああ、全てだ。最初はよ、俺たちの世界だけ守れればいいと思ってはいたさ。けれど、あんたの息子さんことハーネイトと出会って考えが変わったよ」

「私も、世界がこんなに危ない状況っていうか、危険な綱渡りをしていたなんて考えてもみなかったもん」


 誰もが、こうしてこの場にいて初めて事態の深刻さを目の当たりにし理解した。だからこそ今までそういったことを考えることすらなかったため、彼らはまだそのすべてを受け入れることが難しかった。でも、これは自身たちの世界の話だけではない。他の世界だって、女神の機嫌とさじ加減でどうとでもなる。そして場合によっては、別の世界が消えた時に連鎖して巻き込まれることもある。それをオーダインたちから聞かされた以上、見て見ぬふりはしないと、彼らは腹をくくっていた。

 その後も話は続き、ハーネイトは今までの体験や戦いなどについてシルクハインやオーダインに対し長々と話をした。途中でリリーたちも会話に割り込みながら、彼らは楽しい時を過ごしていた。

 そうして、一通り話して落ち着いたころ、ハーネイトは何かを考えるとシルクハインに話しかけ、彼からある場所を教えてもらったのであった。

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