Code 169 魔本と向き合うは己と向き合う?
「あの、父さん……何処か、広大な場所はありませんか?」
「ああ、あそこならどうだ」
その後準備を整えてから宮殿を出て、地図に示された場所を目指す。そうして数十分移動したのち、見渡す限りすべて雲海しか見えないある場所に足を運んでいた。周りには確かに何もない。何かあっても巻き込むことはないだろうと思いつつも、どこからか感じる妙な気を感じていた。
「……まさか、このような場所で修業をする羽目になるとはな」
「まあ、これは自分自身の試練だからな、俺は好きにさせてもらうぜ」
「私はイメトレでもしようかな」
ハーネイトについてきた伯爵とリリーは話を聞いたうえで、自身たちも何かできることはないかと思い、各自好きなことをする。
「いいですね。……早速、始めるとするか」
ハーネイトは美しく輝く雲の上に立ち、目を閉じてから心を静め精神を統一させる。そうして次元の狭間を感じ取り、そこに在る魔本の一つを手に取り、心の中でそれをめくり、何者かを呼ぶように叫んだ。
「魔本召喚・フォレガノ!」
「ぬぉおおおおおおお!」
ハーネイトが魔本に手をかざした次の瞬間、悪魔王フォレガノは彼の目の前に現れ、威厳のある立ち姿で彼を見下ろしていた。
「どうかしたか、契約者よ」
「……フォレガノ、一つ確認したいことがある」
「何の用だ」
「あんたは、今のこの状況をどう思っている」
「はて、なんのことやらな」
「質問に答えてくれ。はっきりと。魔本に魂をとらわれていていいのかという話だ」
「……そのことか、愚問だな」
「なっ……!どういうことだ一体」
ハーネイトは、最初に呼び出すことに成功したフォレガノにある質問をせずにいられなかった。それは、ずっとその魂を縛り付けている魔本という存在の中にいていいのか、出たくないのかという質問であった。古代人が起こした幾つもの飛檄、それを聞いてから彼は、攻めてどうにかする方法がないか考えていた。しかし目の前にいる悪魔の返答は、彼の予想とは大幅に違うものであった。
「一つ覚えてよくとよい。本来我ら悪魔は、この程度の拘束など容易に振り切ることはできる。けれど、ここに残っている意味は分かるか?」
「あっ……っ」
フォレガノはそう言いながら、ハーネイトに対しなぜそうなのかをかんがえさせた。それは、フォレガノとその部下たちはハーネイトのことを好んでいるからであると気づかせたのであった。彼らは、ハーネイトが魔本と向き合う前から、彼の行いをずっと見ていた。それは、邪悪な存在である悪魔、業魔といった存在でさえ、関心を持たずにいられず感化される者も少なくなかった。そう、ハーネイトのおかげで恐ろしい存在は多くを学び、成長し、脅威ではなく味方として生まれ変わったと言えるかもしれない。
「まあ、中にはまだ貴様の力を認めておらぬ者もおるようでな。……刃をあえて交えてみるとよい。……儂も、それを望む」
しかしそうはいっても、まだハーネイトの実力に疑問を抱く悪魔も少なくはない。そこでフォレガノは、自身らを召喚したうえで、戦いその力を再度見せてくれと言う。そして認めたその時には、未来栄光彼の力になると誓うのであった。
「あ、ああ!いいだろう、そうやって向き合うのも、一つの手というわけだな!」
ハーネイトは魔本に力を注ぎこみ、そのすべてを召還して見せた。
「これが、96の悪魔!」
目の前に並ぶ凶悪な悪魔の数々、思わず彼はたじろいだ。
「はっはっは!やっと出られるとはよ、最高じゃねえか」
「窮屈だったぜ、マジでな」
「……貴様が、わが王の契約者か、ほう、面白い」
悪魔たちもまた、契約者であるハーネイトを脅すように見つめていた。
「こんな小僧だったとはな。少しは、楽しませてくれよ」
「もっとさあ、俺たちゃあの力、使って行けよなあ」
「……来い!」
ハーネイトは低姿勢で構える。いつでも自由に動きやすいようにする構えで悪魔たちを迎え撃つ。
「はああっ!っ!」
「どうした!そんなもんじゃかすりもしねえぜ!」
「そらよっ!ぶっぱなすぜ!」
「私の一撃に耐えてみるのです」
「へっへっへ、ブレイジングブラスト!」
狡猾な悪魔たちの一撃は彼の刺客から放たれるが、超人的な力でそれらをすべてよけきるハーネイト。変身する力を使えない以上、改めて自身の力量も見直す機会だ、そう考え彼は弧月流を巧みに使い攻撃を消し飛ばす。
「ちっ!魔本変身以外で対抗しないといけないわけだ。信じられるのは、自身の力!」
「……さあ、数の暴力にどう貴様は立ち向かうか?」
「翻ろ、紅蓮葬送!」
「ほう、自在に動く攻守一体の兵器か。全力で、来い、若造!」
「いわれなくても!紅蓮乱刃!」
ハーネイトは紅蓮葬送を展開し、引き伸ばし翼の様に変えてから無数の刃を飛ばした。
「ぬぅおおおお!や、やるではないか」
「伊達に、我らを使役しているわけではないな!」
「使役、どういうことだ!」
ハーネイトは彼らのその言い方が気に食わなかった。自分と彼らは同じ位置でしかない、なのに向こうは何か勘違いをしている、そう思いハーネイトは紅蓮の外套を風に乗せてたなびかせた。
「く、クハハハハ!まさか貴様、それをわかっておらずに我らの力を使っていたわけじゃあないな?」
「……俺と、あんたらはあくまで対等、それ以上にも、以下にもならない!」
「ほう、甘いことぬかすな、お前は」
「……それが、私の信念だ!」
ハーネイトは目つきを鋭くし、真剣な面持ちで悪魔たちを見つめながらそう言い武器を構えなおす。
「いい目を、しているな。だが、それでは甘いんだよ!」
「何が、だ!」
「時に、非情に切り捨てなければ、上に立てん!」
「俺は、上には立たん!」
「いや、貴様が拒否しようと、そうなる運命なのだ」
悪魔たちの攻撃を軽やかにかわしながら的確に受け止めるも、悪魔たちの言葉が胸に突き刺さり動きが少し鈍る。
「俺たちゃよ、おめえさんが苦しまねえようにアドバイスしているだけなんだぜ!」
「だから、俺は、そういうものは必要ない!」
「強がるな、小僧!まだ貴様は、運命から逃げるつもりか!」
「逃げてなど!」
「そうではないか、貴様は、すべてを導く存在として創造されこの世に生を受けた」
「だから、それがどうした!」
「ハーネイトよ、生きとし生けるものには、逃げられる運命と、そうでない運命というものがあるのだ」
更にハーネイトトフォレガノたちは武器をぶつけあう。火花が飛び散るほどに激しく、ぶつかり合い言葉も同様にぶつけ合う。
「フォレ、ガノ……」
「わしも、お主と同じじゃった。正直言うとな、王になどなるつもりはなかった。しかしな、時代の流れがそれを許さなかった。いや、力があるが故にな」
フォレガノは、昔のことを思い出しながら、ハーネイトに対し自身も同じだったということを伝えた。
「けれどな、体験してみないと分からないことばかりなのだよ」
「俺は、多くの国で仕えてきました。その中で、どうしても上に立ち民を導く王様たちの姿を見ていく中で、自身にそれはあっていないと思うようになりました」
「しかし、それは思うだけであろう。……大方、怖いのだろう?」
フォレガノたちは、ハーネイトにゆさぶりをかけて動揺させる。ハーネイトは図星を突かれていた。
「なっ、そのようなことは!」
「あの時も、お主は恐れておったな。自身の不手際で誰かを失うことを、極度に恐れて負ったではないか」
その言葉に、ハーネイトはフューゲルたちを助けた時のことを思い出した。そう、自分が無理してでも動くのは、もう何も目の前から消えてほしくない、その一心からであったこと、それは事実であり恐れでもあった。
「ふう、ならば、もっとそれに立ち向かう心を身につけろ。そうすれば、心に体が答える」
「心が体に?」
「ああ、そして体が心に応える。そう、そして心技一体の境地、そしてその垣根を超えた共鳴、融合。それが、真に力を引き出す方法だ」
「……どうしても、やるっきゃないわけか」
「そうだぜ、小僧。さあ、もっとやりあおうぜ」
それからハーネイトは3日にもわたり戦い続けた。時に吹き飛ばされ傷を負い、それでも悪魔たち96人と刃、そして心を通わせ、ようやく全員と対話することができた。その結果に悪魔たちは喜び、改めて彼の力になると誓いを結んだのであった。
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