Code 170 自身が生まれた理由とは


「はあ、はあ、本当に、なんて力だ」

「その力が、貴様を守る力になるのだ。恐れるな、若者よ」

「……っ!ひとつ言っておく、俺は、お前らの上にも下にもならん!あくまで、対等だ!」


 そう言い放つハーネイトに、悪魔たちは声を出さず消えていったが、全員彼の言葉に期待していた。ヴィダールは全員自分たちこそ至高の存在であると言い、他のすべてを見下していた。しかし彼は違う。他の存在も受け入れる器を手に入れていた。彼ならもしかすると、今までの悲劇全てを解決できるかもしれな、その期待だけで彼らは十分に従う理由を見出したのであった。


「よう相棒、悪魔の力とやらはどうにかなったかい?」

「……どうにか、ね」


 ハーネイトはフラフラになり、ようやく神殿に戻った。リリーは心配し抱き着くも、ハーネイトが頭をなでると落ち着いたのか手を引いてソファーに座らせた。


「相当苦労したようだな」

「とくに精神的にね。きっついことばかりいわれて」

 

 オーダインの言葉に彼は疲れた声でそう返した。けれど目的の1つは果たせた。それを聞いたオーダインは微笑んで彼にお茶を用意した。しかし伯爵はどこか不満そうにこう言いハーネイトを困らせる。


「そりゃおめえがわるい。俺はとっくの前に腹くくってるんだぜ」

「見てきたものが互いに違うだろうが。……私は、ごく平凡な生活を送りたかった」

「そうか、相棒は何気ない日常というものを、あまり体験していないからか。だからこそ、憧れがあるわけだな?」


 ハーネイトの今までの生きざまはリリーから聞いていた。戦い漬けの日々、休むことなく武術と英知を養い力をつけてきたその歴史に、平凡というのは明らかに縁がなく苛烈こそがふさわしい。そしてハーネイトは逆に二人はどう平凡な生活というのを体験したのか聞いた。それを聞いて彼はうらやましい、その感情しか心から出てこなかったのであった。


「伯爵、リリーとそういう関係だったのか」

「ああ、リリーは、本当にいい子だ。俺のことも、受け止めてくれた。だからこそ、守りたいと思ったんだ。不思議な感覚だったが、今ではそれが自身の素直な気持ちだって、分かったんだ」


 伯爵もまた、自身はどうあるべきか迷っていた。しかしリリーとの出会いが彼を王たらしめる存在になるきっかけだったという。


「伯爵、私はね。あの時の生活がとても楽しかった。うん、絶対に忘れることはないわ」

「リリー、俺もだよ。……だからこそ、そう生きられる世界を守りてえ」

「そうか、もう君たちは迷いなんてなかったんだ。それに比べ自分は、ずっと迷っていた。世界を守りたい、その気持ちはだれにも負けない自信はあった」


 自身の中にある迷い、それを打ち明けながらハーネイトは自分がなぜ上に立つのを恐れるのか、それを話した。それはすべて、今までの旅路から得た経験によるものであった。


「けれども、こんな、凄まじい力を持った奴が上になって、事をなせるのだろうか。そして、誰もが享受しているありふれた日常を知らずして、誰かに寄り添えるのだろうか。まだ、足りないんだ、何もかもが!」

「そういう、ことか」

「父さん……」


 シルクハインはハーネイトがどこか落ち着きのない理由を理解した。そう、あまりにも彼の年や経験に対して背負うべきものが大きすぎたということであった。


「古代人の特性か。古代バガルタ人は基本的に不死だ。年を取るのも非常に遅い。しかしお前は、まだ20数年しか生きておらぬ。まだ、経験が足りぬのも仕方ない。……本当に、申し訳ない思いで沢山だ」

「……でも、自分じゃないと、やれない仕事なのでしょう?」


 父の謝罪の言葉を聞き、ハーネイトはそれでも運命に向き合い、自分なりに答えを出していかなければならないと思った。自分にしかできないこと、それを理解し、彼は静かにそういった。


「そうだ、表向きは女神のために、けれどその実は女神を止めるためのカウンター、それは不変の事実だ」

「私に、その女神とやらが本当に、止められるのか?」

「そのために、女神をだまし禁断のアイテムを埋め込んだのだ。……本当は、儂が女神に仇を打ちたかった。だがな、儂にそれを扱える技量も適正もなかった。オーダインもそうであった。だから、ハーネイト、お前を作った、いや、この世に生み出したのだ」


 真に女神の生み出した神具に適合する存在を作り出すには、一から女神の権能をその身に含んだ素体が必要だった。それに神々の力を他の生命体のために行使した自身の力も組み込み、ようやく願望無限炉に100%適合する存在を生み出したのであった。


「父さん、私はどうやって生まれ、いつが誕生の日だったのです」


 ハーネイトは、最も気にしていたことをシルクハインに話した。実の親がジルバッドでないことを知った時から、いやそれ以前に、道場で暮らしていた時から抱いていた疑念を明らかにし、自信に納得させるために、いつもより強いまなざしで実の父を見つめながら質問した。


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