Code116 1番塔の戦い 遊撃隊VSエヴィラ侯爵&零 前編
そして重要な1番塔の戦いが始まろうとしていた。一番兵力が多く偏っているため、伯爵はここで戦力を分散させようか迷っていた。だがここは感覚を信じ、彼は一斉突撃を選択した。
しかしここで、伯爵にとって最大の問題が発生していた。
「うげげげげげ!!ま、まずい」
「どうした伯爵」
「お前ら、あれとだけは絶対に戦うな。ハーネイトクラスの治癒能力者がいなければ全員死ぬ。てかなんでこんなところに……エヴィラ……っ!」
伯爵が見たもの。それは彼にとっても忌まわしいというか、正確には許嫁であったとされる菌界人、エヴィラ侯爵であった。
なぜ彼がそこまで恐れるか。それは菌界人同士で戦った場合伯爵もただでは済まないことを、かつての経験から学んでいたのであった。
対生物としては最強の能力を持つ菌界人も、同じ菌界人同士でやり合えば傷が治るのが遅く、それが致命傷になりかねないというものであった。
だから伯爵は好敵手であるハーネイトを相棒として見て、共に行動しているのである。何故ならば、ハーネイトの魔眼ならば自身が受けた傷も完全になかったことにできるからであり、だからこそハーネイトを人一倍心配し守ろうとする傾向にある。
「一人だけですが、あれは不吉ですね。と言いますか、あんな人いました?」
「分からぬ。しかし伯爵の言うことが本当ならば、ここは彼に任せよう。回復はミカエルとルシエルに任せ、彼を囮に塔の破壊を。そして怪盗たちとルズイークたちはかく乱を頼む」
「ああ、しかし、あれは俺たちが倒す」
南雲と風魔は、塔の上にいた黒い忍を見つめていた。そう、彼こそが里の忍を手にかけた重罪人、零であった。そして伯爵にあれは自身らの手で倒すと告げ、伯爵はただうなづいた。そして指示を改めて行った。
「あれが零という忍か。わかった、そいつは南雲と風魔に任せる。全員只者ではないな。各自慎重に、大胆に仕掛けるのだ」
「俺はここで支援砲撃だ。相手が菌だろうと撃ち抜く。ベイリックスからの超遠距離狙撃、見せてくれる」
「私もここで支援砲撃をします。落雷にご注意を」
「了解した。防衛ラインはしっかり守れよ。」
そういい、エレクトリールとリシェルは後方に下がり、支援砲撃の準備を始める。
「さあて、なんでおめえがいるんだ。エヴィラ。ヴァリオラを追ってきたのか?」
「あら、まさかと思ったけれど、よりによってあなたね。ククク、ここまで来た甲斐はあったわ」
「何の目的でいるんだ貴様は。DGと手を組んだとか、悪い冗談はよせよ?」
目の前にいる彼女は、菌界の中でもウイルス界に属する存在で、かつて王であり多くの死を振りまいたヴァリオラ・メイジャーという凶王がいたが、それに近い実力を持つ死の女王ともいえる。
問題は、なぜそういう存在がこの世界に、しかもDG側についているのかであり、伯爵はにらみを利かせていた。
「ああ、そのことね。貴方を探しに放浪していたら、ここに来てね。偶然その、DGという組織に助けられて人探しをしているって伝えたら、協力してくれた。それだけのことよ。大分感知能力が衰えたのかしら」
「……そういうことか。悪いが、あんたには消えてもらうぜ。俺の嫁は、リリーだけだ!そこで待っていろリリー! 」
伯爵は腹をくくり、その場で飛び上がると、彼女めがけて急降下しながら手元で菌武器を形成する。なぜあの女がいる。そしてDGに加担している。謎は尽きないがそれどころではない。速やかに倒す。ただそれだけを目的とし、巨大な戦斧を菌で作り出し、彼女にたたきつける。
「馬鹿な真似を。菌界人同士が争えば死ぬことをわかっているのかしら?」
「ああ、だからこそ。蹴りをつけてやる。ウイルス界の女帝め! 」
「気を付けて、伯爵」
「ああ、じゃあ行くぜ」
伯爵はそういうと更に作った武器に稲妻をまとわせつつ、エヴィラ侯爵めがけて一目散に突貫する。しかし彼女の菌壁がそれを阻む。
「けっ、防御が堅てえ。てめえはあの件からすっこんでいろ。あのヴァリオラは、俺の親父の仇なんだぜ!」
「それがなによ。しかし、わらわのものにならないのならば、ここで倒れなさい。血河侵蝕!」
エヴィラ侯爵は伯爵に向けて扇状に広がる血の沼を生み出し伯爵を飲み込もうとする。それをかわすため上空に飛びあがるも、そこから生えた無数の血の槍が伯爵に襲い掛かる。
その時ベイリックスの方から黄色の閃光、そして上空から強烈な雷がエヴィラ侯爵を襲い、伯爵に迫る攻撃を防いだ。
「ぐおおおおお!だが、こんなもの」
「遅い、穿て我が眷属。菌帝神槍! 」
「ぐ、はあああ!だがこの程度。貴様もっ!血肉死槍! 」
「ごは、っ……。くそ、まともに食らったか」
リシェルたちの支援攻撃の隙を突いた伯爵はエヴィラに強烈な一撃をぶちかますも、彼女の反撃にあい半ば相打ちの状態になっていた。互いに深手を負い、片膝を突きながらも睨みつけることを互いにやめない状態であった。
「ぎ、ぐ……っ、私は、あの凶悪な王の復活を、阻止するために……」
「悪い、リリー。しくじっちまったぜ。がっ、な、それは、どういうことだ」
「今治すわね。大魔法91の号・万里癒風!」
「……仕方ないわね。ルシエル、全員で回復魔法を」
「ええ、行きます!」
伯爵の様子を見た3人の魔女たちは急いで大魔法で伯爵の傷を癒そうとした。そして効果はてきめんであり、伯爵は元の状態に戻った。そして菌転移で後方に回避し再度武器を構えながら彼女たちに感謝した。
これは事前にハーネイトが情報を入手し、伯爵に似た能力を持つ者がいることを知り、保険をかけて魔法使いを重点的に配置していたからであり、事前の打ち合わせがなければ連携を取るのが難しい状況であったと言える。誤算としては、その存在がウイルス界菌界人であるエヴィラであったことであったが、それも対処した伯爵はうれしそうな顔をしていた。
またハーネイトも、伯爵から体の特性を聞き、また秘かに魔法をかけて効果のほどを確かめていた。だからこそ伯爵は死を免れたのであった。相棒以外にも、ある程度までなら受けた傷を治せるものがいることに彼はニヤッとしていた。彼らと手を組めば、恐れるものは何もない。目的を達成するにはちょうどいい。そう思いフフッと伯爵は邪悪な笑みを見せつつも、傷ついたエヴィラの目の前に立ち彼女を睨む。
「済まなかった、まさかここまで回復するとはな。エヴィラ、お前に足りないもの、何かわかるか?」
「ぐ、な、何よ」
「仲間を信じる心だ。一人では、勝てない相手もいるんだぜ。あの邪王はな」
伯爵はすごくうれしそうに笑いエヴィラの方を見ていた。それを見て昔の思い出を思い出した彼女は歯を食いしばりながら言葉を放った。
「は、私は、私は。今までずっと一人だった。危険性を説いても誰も聞いてくれなかった。だからこそ、あの時見たあなたが、うらやましかった。」
「へっ、俺も、このリリーという人の女の子に出会ってなければあんたと同じ目にあっていた。ここまで俺を追ってきたことは褒めるが、俺はあいにく様一途なんでな。わかったらもう引っ込んでいろ。DG、いや。あの邪悪な魔法使いになぜ協力していたのだ?
「そ、それは」
なぜ霊界人でない彼女がこの世界を訪れ、そして滞在していたのか。それは今回の事件の首謀者である魔法使いによる予言を聞かされたからであった。仲間になればまた伯爵に会えると。どういう経緯で出会ったかまではこの場では話さなかったが、それでもいかに多くの人間が魔法使いの手にかかっているのかということは彼らは理解できていた。
そしてエヴィラは、昔のことを思い出しながら、伯爵の力がどうしても欲しかったと心情を吐き出した。
「ふうん、要するに乗せられたわけだな」
「は、はあ、ぐ……。私は、あの女神に認められたというあなたの力を使って、あのヴァリオラの復活を阻止しようと」
「実際の目的はそっちか、まあ、だろうなと思ったよそ。ったく、手間を駆けさせやがって。助けてほしいなら、素直に助けてくれと言えばよかったんだ。プライドなんざ邪魔にしかならねえ。しっかし、こんなところでほんと、何をしていたんだ」
「まさか、何も知らないでここに来たわけじゃ……」
伯爵の反応を見てエヴィラは戸惑いつつも、本当に何も知らないのかと尋ねたのであった。
「ああ?俺らはこの塔を破壊しに来て、本拠地に乗り込むために……」
「ああ、伯爵。あなたたちはめられたわね。私はそれを伝えようとここにいたの」
彼女の意味深な言葉を聞いた伯爵はじっと彼女の顔を見つめつつ、内心焦っていたのであった。
「嵌められただと?」
「ふふふ、実はあの魔法使い、この塔一体に貴方たちを一気に集めてから、まとめて処分するつもりらしい、わよ。どちらにせよ、もうおしまいだわ」
「あ?お仕舞いになんかさせねえよ。大魔法が91の号っ……!見様見真似だが、これでもある程度治せる見てえだ」
死にゆくエヴィラの体を伯爵は、なんとまだハーネイトが教えていなかった大魔法。その中でもある程度センスがないと使えず、彼のもっとも得意としていた回復魔法を詠唱し、その癒しの風でエヴィラの体を治してあげたのであった。その光景に全員が目を丸くしていた。けれどやはり人の体でない伯爵がそれを行うのは無理があったらしく、少し体がよろける。それをリリーが咄嗟に支え、お疲れさまと軽く頭を撫でた。
「嘘、伯爵いつの間に」
「まあ、見様見真似さ。さあ、俺らとともに来るんだ。敗者に文句を言う権利はない」
「しかた、ないわね。だけど……。じきにこの一帯は空中に浮かび上がるわ。同時にあの結界も解けるだろうけど」
エヴィラは傷ついた体を直してくれたお礼に、改めて伯爵たちが罠にはめられていることを教えたのであった。しかし伯爵の表情は一切崩れず、どうにでもなると自信満々の顔であった。
「なら嵌められたとは言わん。一気に叩き潰して飛んで逃げればいい。俺に任せろ」
「なんて、やつなの……。本当にあなたなら、あの男を止められそうね。もうDGにいる目的もないし、菌界最悪の王の復活を阻止するにはあなたがいないとダメなのよ。……お願い、あれは……すべてに災いをもたらすわ」
「へいへい。ったく、また面倒ごとが増えた。ハーネイトにどう説明すりゃ……」
「伯爵のほかに、まだ仲間がいるの?菌界人って何なのよ」
伯爵はエヴィラを抱きかかえ、しんどそうにそうつぶやいた。いつもそうだ、彼の言葉は力強く、確信に満ちていた。そんな彼にあこがれていた。エヴィラ侯爵は彼の肩にもたれかかり目を閉じた。
その光景の一部始終を見ていたミカエルたちは、ハーネイトと互角以上に戦える存在がまだいくらでもいるということに動揺を隠せずにいた。
そんな中、第一塔の門番を退けた頃、南雲と風魔は探していた裏切り者の忍、零と対峙していたのであった。
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