第15話 DGの襲撃と目の前で起きた悲惨な光景


「ハーネイトさん、早くあの人たちを助けないと」


「ああ。リシェルは遠くから支援射撃を。エレクトリールは私と共に前に出るぞ」


「了解しました、ハーネイトさん」


「では狙撃王の実力、見せるとしますか!」


 そうしてリシェルは近くにあった一番高い建物に向かってすかさず手にしたワイヤーガンを発射し、そのアンカーを建物の外壁にさしてからそれを伝って屋上に駆け上った。


 その間にハーネイトとエレクトリールは魔獣の群れに対し攻撃を仕掛ける。


「グルルルアアア!」


「こいつら、私たちを一網打尽にする気か」


「ここまでなのか。くそっ!」


「ガルウウウ!」


 オルガべス数十頭が、住民たちを睨み付け逃げ場を封じていた。このままでは彼らは全員捕食されてしまうだろう。


一方のリシェルは屋上から多機能銃を構えて、衝撃を数倍にして物体を吹き飛ばす特殊な弾丸を装填してから狙いを定める。


 狙撃においてスコープを用いずともかなりの命中精度を誇るリシェル。ルズイークもその天性の才能に驚くほど、リシェルは狙撃の神に好かれていると言えるだろう。


「あいつが危ないな。やはりか。そうはさせない。……発射!」


 リシェルは動き出そうとしていた魔獣に対し狙撃を行う。銃の引き金に指を入れ、目標の動きを野生の勘で予測し引き金を引く。それと同時に、弾丸が風を切り目標へと飛翔する。


 事前に風の流れ、人の動きを読み切りそれでかつ直感で銃を撃つ彼は、そういう点で人間離れした神業の持ち主であった。

 

 彼の異名は「鷹の目を持つ男」「50kmの腕を持つ男」であり、彼を中心に50km圏内ならば専用の長距離狙撃銃で、人間程度のサイズならいかような状況下でも必中させることができるという。


 そして彼の本来の能力が覚醒した時、かつてこの星上で有名となったある集団の力を行使できるようになるという。


 その間、街の中央部で身を寄せ合いながら、魔獣たちに包囲され逃げ場を失った住民たちは死を覚悟していた。


 そんな中魔獣の一匹が老人に襲い掛かろうとした時、その魔獣は突然勢いよく吹き飛ばされ、そのまま地面に横たわり絶命した。


「危なかった。オルガべスは物理弾が有効だから手持ちのでどうにかなりそうだ。……切り札、使うまでもないな」


「な、何が起きたのか」


「みんな!活路を開くからそこから動かないで、穿て、白銀剣!」


 襲われそうになった老人は何が起きたのか理解ができなかった。そして駆けつけるハーネイトは住民たちに呼び掛ける。


それとハーネイトが素早く魔獣たちの群れの中を縫うように、走りながら刀で切り抜ける。そして集団を突き抜け、すぐに振り返ると、掌から銀色のしなやかに伸び進む剣を出して蛇のように柔軟にそれを伸ばしつつ、時に直角に刃を曲げながら伸ばしてオルガべスたちを貫き串刺しにする。


 一方のエレクトリールは、高く飛び上がると上空からロックオンした目標だけに電撃を的確に撃ち下ろす。

 

 彼らの強襲で魔獣の群れは散り散りになる。残った個体は逃走を始めていたが、それを2人は逃すことなく追撃する。


「気流の柱 大気の城壁 乱れば突風 止まれば凪風 風嵐の結界よすべてを守り給え!大魔法62の号・解空風壁(かいくうふうへき)」


 ハーネイトは逃走する魔獣の行く手を阻むように、風の大魔法「解空風壁(かいくうふうへき)」で風の結界を作る。


 それに合わせエレクトリールが、電気を帯びた回転機銃をイマージュトリガーを用いて呼び出し、逃げ場を失ったオルガべスらに無慈悲な弾丸の雨を浴びせ沈黙させたのであった。

 

 そうしてわずか十秒にも満たない時間で、魔獣の群れは消滅した。二人の連携により、住民たちの命は無事救われたのであった。ハーネイトもエレクトリールも、全員の無事を確認しほっとしていた。


「数だけいようと大したことではない」


「包囲が崩れましたね。住民たちも気づいて逃げています」


「これでひとまず安心か。いや、誰か来る」


 オルガベスたちを蹂躙するように討伐し、住民の避難も完了させた矢先に、異様な姿をした二人組がこちらに向かって歩いてくるのをハーネイトは確認した。それは巨大なジャガイモに手や足を生やした生物と、やたら体つきのしっかりした黒色の狼人であった。


「おやおや。生きのいいのがいますねえ」


「グシシシ、こいつは上物、だぜ」


 倒れた魔獣たちの姿を見て、そこにいる男が只者ではないことを察し二人ともニヤッと笑う。


「はあ?何をいっているのだ?」


「今から貴様を倒して捕まえる!そしてボガーノード様に!」


「貴様を献上するのだ!拒否権など……」


「……斬る!」


ハーネイトは二人が言い終わろうとする前に切り捨てながら居合い斬りを繰り出し、次の瞬間切られた二人は地面に膝をつく。


「がはっ! 」


「ごふっ! 」


「相手にならんな」


「は、早い。そしてユミロさんの時と違って容赦していない。何故でしょうか」


 ハーネイトはそういうと瞬時に間合いを詰め、二人の足元に踏み入ると剣技を繰り出す。


「弧月流・月天反翔!(げってんはんしょう)」

 

 ハーネイトは二人を勢いよく下から切り上げ、反動で後方に吹き飛ばした。月天反翔は彼の得意技の一つであり、敵の姿勢を崩し次の手につなぐ起点となる技である。


「無幻一刀流、縦横無刃!(じゅうおうむじん)」


 さらに彼は体をひねりながら追撃し、二人に対し瞬きをする暇も与えず四方八方から0.1秒で24回彼らを斬りつけた。その動きはまさに縦横無尽。彼の残像すら見えない異常なまでの猛スピードで無数の軽い斬撃の猛攻を二人に浴びせた。


「ぐあああ!速い、なんて速さだ」


「がふ、おのれ!ぬがああ!」


 それからハーネイトはとどめに二人を切り捨てた。しかし狼男が口から何かを発射するのが見えた。それは無数の光弾でありハーネイトは刀を手元で回転させそれをすべて防ぐ。


「うがががががが!喰らえ、おおお!」


 そのあとすぐにボッグズも口から同様の光弾を発射しハーネイトに激しい銃撃の雨を食らわせる。


「その程度か、期待して損をした」


 ハーネイトは余裕のある表情を見せ、そう言葉を口に出しながらすべての攻撃を刀一本ではじき返す。それを見た二人に焦りの表情が見えてきた。今まで出会ってきた連中とは何かが違いすぎる。けれど彼らはその真の理由を知ることは最後までなかった。


 一方でエレクトリールは彼らを観察しながらもハーネイトがユミロの時と違い、なぜああも猛攻を仕掛けるのか疑問を抱いていた。それはハーネイトが既に2人の体から異様な邪気を発していることを感知し、速やかに無力化せねばならないと思ったゆえの行動である。それはすぐに結果として現れた。


「斬魔の蜘蛛 黒き災厄 天落ち地を紡ぎ人切り裂く 暗呪の糸で恐怖に屈せよ!!大魔法76式・黒糸斬葬(こくしざんそう)」


 ハーネイトは、攻撃を防御している間に詠唱を終える。すると二人の影から無数の黒い糸刃が現れ、彼らの体を拘束し裂傷を負わせる。


「ぐふっ、な、何だこれは!」


「いてええ、いてええよおおおおお!

「翻ろ・紅蓮葬送、そして撃ち込め、創金剣術・剣鎖(ブレイドチェーン)」


 さらにハーネイトは攻撃を重ねる。速やかに紅蓮葬送を形成し展開すると、マントの内側から6本の鎖を高速で射出し二人の体を拘束した。


 瞬時に作り出された強固な鎖は確実に二人の体を捕らえ締め付けたのち、空中に二人の体を持ち上げてからハーネイトは二人に対し質問をした。


「ぐお、ぬがががが!」


「マントから鎖だと?面白いな貴様……っ!」


「……少し黙れ、尋問は既に拷問の始まりだ。お二人さん。献上とはどういう意味かな? 」


 ハーネイトは鬼の形相で拘束した二人を睨み付けた。彼は二人の放つ邪悪な気にピリピリしていた。


「ひっ、いや。なにもそのようなことは」


「言った、だろう?私を捕らえてどうするつもりだ……!答えろ! 」


「ぐ、お。実験、材料…ぐぬぬ!」


「おま、今の状況分かっていっているのか?」


 ジャガイモ男の発言に狼男が慌てふためくも、その言葉を耳にしたハーネイトは穏やかな表情の裏に怒りを見せていた。

 

「ほう、私を実験材料か。笑えない話だ。一切合切、貴様らの目的を話してもらおうか。ユミロ、来て」


 ハーネイトは胸ポケットに刺したペンを取り出すとそれを前に振る。すると中からユミロが目の前に現れた。


「うがああああああ!貴様ら、また街を襲っているのか。この愚か者め! 」


「なぜユミロが!貴様寝返ったのか? 」


「ああ、そうだ。あいつら、ボッグスとレコミグナイスという。悪名高い奴らだ。昔から街を襲っては強盗をしていた。いつもおいしいところだけとる。弱いものばかりを襲う悪い奴らだ」


「んだとぉ!貴様も街を破壊してたじゃねえか!」


 ユミロは吹き飛ばされた二人組、ボッグスとレコミグナイスについて話をした。二人とも戦闘員でありジャガイモ人形のボッグス、黒狼男のレコミグナイスはその狡猾さで有名だったという。


 手下などに町を襲わせ、ある程度したら二人ですべてをかっさらう。そのやり方で多くの街を襲ってきたという。これでも一応DGのメンバーだが、大体戦闘員は実質鉄砲玉であり、捨て駒も同然の扱いをされているとユミロは説明した。


「うわわ!でけえ。巨人か?」


「お前は、誰だ」


「お、俺はリシェルだ。あんたは?」


「ユミロ、だ。よろしく」


 リシェルは様子が気になりハーネイトたちの下へ駆け寄ってきた。そして突然現れたユミロの威圧感に押されていたのであった。


 今まで見たこともない、褐色の筋骨隆々の巨人。長い闘いを生き抜いた彼のその眼光は、並の兵士ならばそれだけで戦意を喪失させるほどである。しかしハーネイトにとっては、その目は慈愛と聡明な力を感じさせるものに見えていたという。


「やはりね。こう長いこと戦うとわずかな邪念すら拾ってしまう。それで無性に腹が立つというか。なんというか。あれもDGの幹部なのか?」


「あれは、幹部と言うよりは下っ端の兵だ。執行官、徴収官、上級幹部、下級幹部、戦闘員の5つに位、分けられる。俺は元々上級幹部だった。あいつら戦闘員。情報、ほとんど持っていないだろう」


「そうなると情報源としての価値は?」


「全く、ない。徴収官か執行官クラスを捕まえない、とな」


 ユミロはこのボッグスとレコミグナイスについて捕らえる価値もないとハーネイトに対し即答で答えた。


「貴様、元戦闘員の存在で何をほざく。この裏切り者が!」


「俺は、お前らの悪行、見逃さない。それに幹部まで俺は、苦しい中上ってきた。俺は建物は壊したが、人は全部逃していた。しかしお前ら違う。人を傷つける。ハーネイト、この二人を倒す」


「おもじれええええ、このデカ物が!メルウクの元奴隷が!後悔させてやる。ふおおおおおお! 」


「あれを使うか、覚悟しろ貴様ら。こうなっては止められんぞ、うおおおおおおお! 」


 ユミロの言葉に対し、二人は拘束から外れていた腕を動かし、体から何かを取り出し張り付けた。すると彼らの姿がみるみる変わり、それぞれが全く原形のない魔物になったのである。


 さながら、悪役が変身し怪人になったかのようであった。


「ガルルルル……!」


「グジュルルルル……!」


 ボッグスは巨大な灰色のワニに、レコミグナイスは小型の2足歩行するリザードに変身したのである。それと同時にハーネイトの拘束を吹き飛ばし変身したレコミグナイスがハーネイトに突撃を仕掛ける。


「これは、どういうことだ。元の原型が全くない」


「む、ぬう!奴ら、あれを使ったのか……!」


「あれとは?って見た目に反して早い、ぐっ!」


 襲い掛かるレコミグナイスに対し、紅蓮葬送を手のように操作しながら鋭いリザードの爪をいなすように防ぎつつ、ユミロに質問をする。


「異形の者に変身するアイテムだ。機士国の研究者、作っていると耳に挟んだ」


「それは……はっ!いや、まさかあいつの研究がっ!とにかくこのままじゃ埒が明かない。ってユミロ、横からくるぞ!」


「グジャアアアアア! 」


「ふんむ!覚悟しろ、ボッグズ! 」


 ユミロから聞いた話を聞いたハーネイトは、かつて危険な研究を行っていた人物の名前を思い出した。


 それからユミロが別方向から迫るボッグズに対応しその贅力で突撃を受け止め、背負い投げをかましてボッグズを吹き飛ばした。


「こちらもだ。紅蓮葬送・紅蓮縛手!」


 ハーネイトは展開している二つのマントでレコミグナイスを素早く包み込むとジャンプし、投げ飛ばされたボッグズに対しレコミグナイスを投げぶつけた。


「ぐ、お、う。ぐああああああ!」


「コ、ロス、オオオォォォ!」


 完全に魔物となり人としての心を失った二人に対し、ハーネイトはとある技を放ち攻撃する。


「貴様ら程度の敵など、剣先ひとつで倒せる。蒼の魔閃(シュトラール)」


受けていた攻撃をステップでかわし、ハーネイトは剣先を2人に素早くすっと向ける。すると青く透き通る魔法レーザーが目にもとまらぬ速さで放たれた。


 それは二人の体を飲み込んで魔法の力で氷属性の大ダメージを2人に与えたのである。


「オオオウ、グオオオォォォ……」


「では改めて尋問タイムだ。覚悟しろ!」


 彼らの肉体を凍てつかせ、動きを止めた後突撃を仕掛けるハーネイト。だがユミロは違和感に気づき、ハーネイトの体を止めようと猛スピードで追いつく。


「さあ、話せ。全てを」


 そうして彼がレコミグナイスに襲い掛かろうとした時、ユミロが目の前に現れて二人を遠くに蹴り飛ばしたのだ。


「なぜだユミロ。邪魔をするつもりかい?」


「いや、よく見てくれ、あいつらを……っ!」


「なに?って奴らの体が光りだした。……まさか、自爆か!大魔法85式・光壁散華!(こうへきさんげ)」


 ハーネイトが見たもの、それは二人の体が光り、その場で大爆発を引き起こしたものであった。その衝撃が彼らのもとまで来る。


 それをユミロが身を挺して、更にハーネイトが詠唱略式で放った光の結界と合わせて、後方の街への影響を完全に防いで見せたのであった。


「ぐっ、な、なんだと、人が爆発した?」


「能力に、耐えきれなかった、のだろう。膨大な力が体からあふれ出過ぎたのだ。デモライズ、カード。恐ろしい道具だ」


「デモライズカード、やはりハイディーンの研究していた技術分野か。ちっ、厄介なことを。しかしあれほどの力とは。ボルナレロのよりもえげつない。そして、なんてことを……何の目的で、あれを渡しているのだ」


 ハーネイトは機士国にいた際にある人物とあっていた。その名はハイディーンと言い人を異形の姿にすることで侵略魔と戦う術を見出そうとした危険な研究者であった。そ


 して先ほどの爆発を見て、ユミロはハーネイトに対しそのような危険な道具を説明もなく戦闘員に渡していたのではないかと説明し、それを聞いた彼はその行為に憤っていたのだ。


「酷い、こんなことがあっていいのか……ハイディーン……っ!お前のやりたいことは、そういう事じゃなかったはずだろ!」


「そう、だな。しかしDGは、霊的な力のないもの、容赦しない。その結末があれ、だ。しかし、ハーネイトは優しい、のだな。ああなっても、敵を気遣おうとするとは」


 ユミロはハーネイトのその言動と雰囲気からそう言葉を述べた。普段の落ち着いた雰囲気とは違う、年相応にも見える反応。それを見たうえでエレクとリールは彼に近づき声をかける。


「そりゃそうだろう!だっていきなり、あんなもの見てしまったら……」


「ハーネイトさん、これは戦争です。この先このようなことがまだ起こるかもしれません。冷たいようですが、いちいち気にしていたら心が持ちません」


「しかし、だ。ああいうことまでする連中だということは分かった。大丈夫。もう落ち着いたよ。エレクトリールはあれを見ても平気なのか? 」


「戦場では、全くないというわけではありませんでしたから。どうしても軍人としての気質が出てしまいますね。でも、味方にああいうものを持たせて使い捨てるのは、大嫌いです」


「そう、なのか。ああ、こうなったらこちらも覚悟して事態に立ち向かわなければならない。……昔のことを思い出してな、少し取り乱した」


 エレクトリールの言葉に対し、ハーネイトは徐々に平静を取り戻した。そして同じ組織の人間にも関わらずあのような仕打ちを行うDGを絶対に倒すと、彼はそう誓ったのであった。


「ふう、しかし危なかったですよね。もう少し遅れていたら犠牲者が出ていました。それにしても今回は容赦なかったですね」


「あ、ああ。ユミロ、ありがとう。そしてエレクトリール、リシェルもお疲れさまでした。私は、何があっても仲間のこと、絶対に守り通すから」


 彼はそう3人をねぎらいながら、無意識に高い女性の声でそう言った。


 元々戦闘を嫌う彼は、無理やり心と体を動かし戦うことが多いため、気を張った後の反動でとてもやさしく穏やかな状態になるために、今のようなことが起こるのであった。


「ハーネイトさん、今のは」


「あまり気にしないで、欲しい。さあ、気を取り直して素材回収しよう?」


 そうしてハーネイトたちは倒した魔獣を集め素材を回収していた。中には完全に破壊されていたものもあったが、自身が創金術で仕留めたものは急所だけを確実に打ち状態がとてもよかったため、それを利用しようと彼は考えていた。


「しかしこんなにオルガべスの爪や皮が取れるとはな。肉はここで加工しよう」


 ハーネイトは気分を切り替えてから手際よくオルガべスを解体し、肉を魔法で干し肉にして事務所で見せた収納方法でそれを収め、皮と爪はそれぞれ袋に分けて分別した。


「これは予想外の収入になりそうだ。少し質が低いのがあれだが、それでも十二分に価値がある」


「す、すごい速さで解体しましたね」


「慣れているからね」


 エレクトリールの言葉にハーネイトはそう言いつつ、イジェネートで串を作り出し、転送していなかった分の肉を串刺しにしてを魔法の炎でじっくり焼いたのをリシェルやエレクトリール、そして住民たちに振舞う。


「どんどん食べてくれ。鮮度が落ちるとおいしくないからね、オルガべスの肉は」


 ハーネイトの呼びかけに住民たちが徐々に集まってきて、焼いた肉を受け取り口にほおばっていた。


「う、うまい」


「助けてくれた上に料理まで振舞うとは、英雄王ハーネイト様は器が違いすぎる、ああ、感謝せねばな」


「あ、あの……本当にありがとうございました。しかしハーネイト様はともかく、あなた方は一体何者ですか?旅のお方ですか?」


助けられた一人の少女が、ハーネイトたちに恐る恐る話しかけた。恐怖からかまだ、腕や足が若干震えていた。間に合わなければ今頃魔獣の意の中に収められていたはずだ、そう思うと身震いが止まらなかったのであった。


「そうですよー。今日泊まる宿を探しているのです!」


「そうです。しかし助けが間に合ってよかったです」


 エレクトリールの気抜けした言葉と、ハーネイトの仕事人としての振る舞いがその少女の緊張を少しだけ解かす。その声を聴いたのか、群衆の中から一人の男性の声が彼らの方に響いてきたのであった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る