第77話 日之国領・貿易街ミゴレットの調査



 日之国から離れ早数時間、森林地帯をシャムロックの操るベイリックスは豪快に突破しつつあった。巨大なトレーラーが森の中にある道を100km近くのスピードで飛ばしているため猛獣や魔獣が近づくことすら敵わず、安全に目的地まで進んでいた。


 リシェルやエレクトリールが話す中、ミカエルとルシエルは爆睡し、南雲たちは車内から外を見ていた。


「本当に、シャムロックの作る道具は恐ろしい」


「機士国にもこんな車両はなかった。あの運転手のおっさん、シャムロックか。とんでもないお方だ」


「いろんな意味でそうですね。見た目も性格のギャップもです」


 ハーネイトはトレーラー部分の中にある部屋で紅茶を飲みながら乗っているトレーラーの感想を述べた。それにリシェルとエレクトリールも加わる。


「鉄の馬に鉄の馬車か。面白い。てか早すぎだこれ! 」


「もう、南雲ったら。お子様みたいよ」


 南雲は初めて乗った乗り物のスピードと走る仕組みに驚きながらそれを妙な例えをしつつ、車内から窓を介して景色を見ていた。


「機士国の連中には引き続きエージェントたちからの情報収集を頼んでいるが、別視点でいうとどうしてもアリスの力が頼りになるな。しかしなぜここに? 」


「え、いやあ兄貴。私は私でハーネイトの兄貴の取材もしたいですし、それにバイザーカーニアの連絡係として私がいないといくつかの道具の手配ができませんからね?」


「そうだったな。仕方ない。あの連中にXZIRの1を12本、8を6本頼むとするか」


 そういいながらハーネイトはコートの中に備えているペン型投げナイフの種類と本数を確認していた。彼の使うペン型投げナイフはバイザーカーニアという魔法秘密結社で作られている代物であり、応用力の高さからサブウェポンとして利用している。


 なぜ銃などの飛び道具を使わないかというと、投げナイフは投擲時に音がほとんどしないのと、銃を使うことに対する抵抗感が彼にまだ若干残っていたからである。


 かつて魔法使いの派閥の中でも異端児として、銃に魔力を込めて放つ魔銃士という集団が存在した。


 彼らは魔法を戦いで多く使うことこそを至高とし、多くの戦争に介入し力を奮ってきた。しかし彼の師匠、ジルバッドはそれを良しとせず嫌っていた。魔法は人を含めたすべてを幸せにするためのものであるという師匠の教えを死別するまでずっと聞かされていたハーネイトには、銃という道具をどこかで苦手だと思いそこまで使ってこなかったという。


 しかしリシェルやアルといった現代にわずかに残る魔銃士を見て、心の中で考えが変わりつつあった。元々魔銃士が編み出した魔閃を独自に習得したハーネイトだが、より効率よく使用するには道具を介して魔力収束率を上げる必要があった。そしてそれを刀で行っていたのだが、リシェルの戦い方を見てやはり銃が一番効率よく魔閃を放てることを理解した。

 

 だが一つ問題があった。彼に適する銃が彼自身でよく分からず、しばらくは多様な使い方のできる投げナイフを使おうと、アリスに必要なナイフの注文を頼んだのであった。


「シュペルディンとカラミティイグニスですね?かしこまり!ではなく了解しました。連絡して手配しておきます」


「ああ。頼んだぞ。費用は口座引き落としでな。それとシャムロック、あとどのくらいでミゴレットにつくか?」


「あと30分ほどです。魔獣たちの魔力反応もなし。しかしなさ過ぎて不気味ですな」


「そうだな。シャムロックの言うとおりだ。いなさすぎる、というのも不自然だ」


「丸ごとどこかに移動した感じだな」


 シャムロックに到着の時間を確認し、それと同時にシャムロックは運転席に備えているレーダーを確認し魔力反応を探る。しかしあまりに反応がなさすぎることを既に肌で感じていたハーネイトや伯爵は不思議に感じていた。


「いないならいないでいいんじゃないんですかね、師匠? 」


「そうとは言えなくてね、まるで生き物の気配が全くない、死の森だって言いたいのだ」


「確かに、マスターの言う通りですな。何も感じない。不吉な予感がするでござる」


「ええ。ハーネイト様。この先はさらに警戒しましょう」


「ああ。これは嫌な予感しかしない」


 リシェルの質問にそう答え、目を閉じて周囲の気を探るハーネイト。南雲と風魔もそれを感じて警戒していた。


 それから約30分後、貿易の町ミゴレットに到着した一行は町の入り口で車から降りた。ミゴレッドは小規模の貿易街であり、細々と周囲の街と織物や周辺で採掘される鉱石といったものを取引していたという。しかし町の現状を見たハーネイトたちは起きていた異常事態を雰囲気で感じた。


「ふああ、よく寝たわね。しかし誰もいないじゃない」


「そうですね。何も気配が感じられない」


 若干寝ぼけながらも車内から降りたミカエルとルシエルは、すぐに街の中に人の気配がないことに気づいた。


「うむ、あれだけ活気のある街がこうなるとはな。ただ事でないぞ」


「そうですわね。しかし調べれば何か見つかるでしょう。ハーネイト様、八紋堀様からの依頼の件はお忘れではなくて?」


「ああ。全員で調査する。30分後に再度ここに集まって」


 ハーネイトがそう言うとペンを取り出し、シャックスを強引に呼び出した。寝ていたのか寝起きが悪そうな状態であり、少し機嫌を悪くしていた。


「むにゃ……。はっ!ここはどこですか。何か不気味な感じがしますねえ」


「人の気配が感じられない。シャックスも手伝ってくれ。細かいところを見るのは得意そうだし」


「ええ、仕方ないですね。いいでしょう」


 ミロクとミレイシアの言葉を聞き、ハーネイトは全員に調査指示を出した。少しでも何があったかわかればそれでもいい。彼自身も神経を研ぎ澄ませ何かないか気を探っていた。


「わーかったよ。酒場のあたりに相当物が落ちているな。調べてくるぜ」


「わかったわ伯爵。行きましょ! 」


「ではあの建物から調べますか」


 伯爵は早速、菌探知(バクテリアサーチ)で何か異変を感じリリーと共に真っ先に町の中に飛んで行った。ミカエルたちも続いて入り、ハーネイトも駆け足で入っていった。


 伯爵が町の中央からやや離れた場所にある大きな酒場に入り、物が散乱した床をくまなく確認する。彼はすでにここから邪悪な気を感じていた。そしてハーネイトと風魔、南雲が続いて入る。


「おい相棒、これを見てくれ」


 伯爵は机の下にあった禍々しい一枚の札を手に取った。


「これは、あのカードか。デモライズ、そうなるとDGがここにきて何かをした可能性がある。あの報告書にあった兵士魔獣化計画か」


「わずかに薬品の臭い。頭がくらくらしそうだぜ」


「これはジグドの臭いだわ。催眠作用のある薬剤ね。私たちは効かないけどね」


 ハーネイトは伯爵の持つデモライズカードを確認し、南雲と風魔の言葉から日之国で起きた技術者誘拐事件の時と同じ手口でDGが住民をさらったのではないかと推測した。


 同じころ、リシェルとエレクトリール、ミカエルとルシエルは町の北側にある大きな建物の中にいた。そしてリシェルが暗い屋内の中で何か光るものを見つけ手に取った。


「これは、きれいなバッジだ」


「屋内はほとんど荒らされていない。ただの盗賊たちの仕業ではなさそう」


「誘拐のプロが住民をさらったようだ。しかしなぜだ」


 リシェルはバッジをよく見ながら周囲を確認し、ミカエルとルシエルは魔法で周囲を灯して何か異変がないか確認をしていた。伯爵が確認した酒場と違い、ここは物を探すために荒らしたような痕跡はなく、4人は不思議に感じていた。そして30分が経ち町の入り口に再度全員が集まった。


「こんなバッジが落ちていたっすよ師匠。これって」


「DGのマークだ。それにこの酒場で拾ったカード、これらのことから犯人はDGである物証はそろった。ワニム!」


 ハーネイトはそう叫び、その場で手紙を素早く書くと使い魔のワニムを召喚した。


「お呼びか、主よ」


「八紋堀のところまでこれを運んでくれ」


「了解した」


 そういい、ワニムはすぐに手紙をくわえ日之国の方角に飛び去って行った。


「そうだとしたら、一体彼らは何をしたいのでしょうか。本当にむかつきますね」


「そうね、いなくなった住民の行方も分からないし、どうしたら」


「しかし、霊量子の反応はないですね。もしかするとあの不届き者による仕業ですかね」


「ハイディーンのことか、早く捕まえないと関係ない人にも被害が出るだろう」


 エレクトリールが表情を険しくする。そしてミカエルは周囲を目で確認しながらいなくなった住民の手掛かりを探ろうとしていた。


 それにシャックスとハーネイトはデモライズカードの件について、DGとは別に誰かが動いている可能性について話をしていた。 

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