Code103 脱走合成獣討伐作戦・後編



「だ、誰だ」

「なぜ気づかなかったのかしら。え、ちょっと、待って!」

「ん、その声はまさか……」


 男とエレクトリールが顔を合わせた時、二人の間にすさまじい衝撃が走った。


「お、お父さん!?」

「エレクトリール!」

「え、ええ?状況が呑み込めないんだけど。確かエレクトリールは親に勘当されたと聞いたけど、なぜ?」


 二人は突然の再会に体が硬直していた。そしてそれ以上に、リシェルの表情も凍り付いたように固まっていた。

そしてエレクトリールはトレーラーの屋上にいた男の顔をまじまじと見つめていた。10年ほど前、突然姿を消した父親の顔を思い出しながら彼女は、恐れを抱くかのように彼から目を背けていた。


「どういうことだこれは」

「父さんこそ一体ここで何やっているの!」

「宇宙戦艦が白い男とDGの戦いに巻き込まれて、修理のためにこの星に来たのだ」

「宇宙戦艦、ってどういうことですか!?」


 リシェルは二人の話の展開についていけず呆然としていた。まずなぜこの男が誰にも気づかれずにこのベイリックスの屋根の上にいたのか、そして同僚であるエレクトリールとの関係があることに頭を悩ませていた。


「ああ、娘よ。儂もあの事件の後DGを討伐するために独自の軍団を作っての、敵の宇宙船を沈めていたのだよ。宇宙快賊としてなヌハハハハ!そしてのう、お前を、叱りに来た」


 男はそう言い、笑いつつも魔獣たちの群れを見ていた。


「そうなるとは、薄々覚悟していました。しかし母さんも心配していましたよ。本当に父さんはいつもやることが破天荒なのですから」

「それはエレクトリールもだろう」

「はあ、もう。なんでこんなところが似ちゃうのでしょうか。いえ、その前にあの魔獣たちを倒しましょう。お叱りは、それから受けます」


 リシェルの言葉にエレクトリールは少しだけむくれつつ、エレクトリールはイマージュトリガーを用いて巨大なレールガンを召喚する。


「吹き飛びなさい!」


 そう彼女が叫び、レールガンに瞬時に帯電させそのまま弾丸を猛スピードで発射した。その弾丸は魔獣のそばをかすめ、その衝撃で肉体が消し飛び絶命をもたらした。


「エレクトリールはマジで強いな!俺も負けてられねえ!」


 今度はリシェルがアルティメッターを構え、右から左へ魔力を圧縮した魔閃(ディスティロ)を魔獣の群れに対し薙ぎ払うように斉射する。その一撃は大地を破壊し魔獣の集団を一気に減らすことに成功した。


「相変わらずすさまじい破壊力ですね。しかしなぜ同じ技なのに呼び方が違うのですか?」


 エレクトリールの質問に対しリシェルは彼女の方を向いて笑いながらこう言った。


「魔銃士の誇り、ってやつさ」

「誇り、ですか」

「お前さん、面白い技使うな」

「リシェルです。エレクトリールのお父さん」

「リシェルか、まあよい。さあ、わしも仕掛けるとするかね」


 横から魔閃について興味津々な表情をする男に対しリシェルは名乗りながら再度魔閃を冷静に発射した。それは的確に確実に、合成獣の命を奪っていく。彼の狙撃術はあらゆるところでも精度が落ちず、合成獣の進軍による地面の振動も、乗車している車の振動さえも全く影響なく攻撃を続けていた。


「あらら、もうほとんどが消滅したわね。仕事ないかしら」

「監視は必要ですよ姉さん」

「そうねえ、まだ少し加勢は必要みたいね。帯電の柱 必罰の雷。豪に聞け音を見て悟るが良い、不可避の紫電が命を貫く!大魔法が61の号「神速紫電」」

「私も行きます、魔王は笑う そして遊ぶ。天地を返し、震わせ壊す。魔の戯れに舌を噛み自害するがいい!大魔法が14の号「魔皇天地陣」」


 城での戦闘に引き続き、魔女の姉妹二人が連携して魔法を上空から発動する。魔法詠唱の隙を飛行できる召喚獣によりカバーするこの戦術は実に有効で、それぞれが発動した魔法が魔獣の群れを蹴散らし命を奪っていく。

 ミカエルの放つ神速紫電は手のひらから無数の、紫色の電撃を放出し続ける技である。そしてルシエルの魔皇天地陣は一転範囲内にいる目標を天に飛ばしては天井の魔法陣にぶつけは跳ね返し続け物理的に命を奪う魔法であった。


「俺たちのこと忘れんな!醸せ、サルモネラブレイザー!」

「冥府の門 死者の世界。生は死を乗り越えることなく数多の霊が命を吸い尽くす!大魔法が2の号「無冥生殺陣」」


 ミカエルとルシエルの攻撃に合わせて、合流した伯爵。そしてリリーも連携攻撃を敢行し端の方にいる魔獣たちをまとめて撃殺していく。伯爵の放つサルモネラブレイザーは直線状にいた魔獣たちの肉体を腐敗させながらその生命力を吸収していく。リリーは伯爵が捉え逃した魔獣たちに死の魔方陣による凶悪な罠をプレゼントした。一方で地上の方でも各員が大暴れしていた。


「蹴散らせ、イジェネート忍法・黒塊! 」

「白道白銀剣(びゃくどうはくぎんけん) 」


 敵陣をかく乱するかのように南雲と風魔が連携し、イジェネート能力で確実に魔獣たちの命を奪っていく。南雲はかく乱するように動きつつ手から黒い球を打ち出し、触れた合成獣を内側から串刺しにする。そして風魔は腕を構え、手のひらから非常に細く長い銀色の剣を射出、そして薙ぎ払い連続で突きまくり蹂躙した。

 特に風魔の白銀剣は破格であり、その伸縮速度は光ともいえ、長さも限界まで細くした針のような状態であれば30kmまで理論上は伸ばせるという恐るべきものであった。しかもモーションなしで打てるので、ハーネイトも彼女の白銀剣は相手にする際苦手としていた。


「相変わらず皆さん派手に戦いますねえ」

「俺らはトレーラーの護衛だ」

「私も出るか。ミレイシア、シャムロック。守りは任せた」

「仕方のないお方ですなあ、気を付けるのですぞ!」

「では、参る」


 そうして車外にミロクが勢いよく飛び出す。その姿は残像ですらなく、魔獣の群れに飛び込むないなや、次の瞬間切り抜けた魔獣たちの体が無数に引き裂かれて爆散する。無影のミロクと言う異名はこの常人では目で捉えることなど遥か敵わないほどのスピードと的確に敵の弱点を切り裂く技術にあった。その一連の動作で残存する魔獣の群れの3分の1が消滅した。


「本当に、あれは人間か?」

「分からぬなあ、しかし研究し甲斐はありそうだ」


 ボルナレロとホミルドは車内からミロクやミカエルたちの戦闘を見ていた。


「うわあ、もうほとんどいないし。と言うかボガーノードの技変わっているな。私も、最後の一仕事行きますか」

「ならば、わしもやろうかねフハハハ!」

「だ、誰だあの人は。まあいい、残りはあれだけだな。……創金術発動、イメージするは、壮大なる剣の舞台!……剣庭(ブレイドガーデン)」

「野郎ども!あの地点に一撃ぶっ放せ!」


 ハーネイトは手を天に突き出し、振り下ろしながら詠唱する。すると爆走する魔獣たちの足元から突然鋭い剣がいくつも出現し、無慈悲に肉体を貫く。その光景はまるで串刺し公を地でいったのかのようであった。剣陣よりも範囲が広いこの剣庭(ブレイドガーデン)は、こういう時にこそ真価を発揮する。そしてトレーラーの屋上にいる男は何やら命令を出す。すると上空から巨大な戦艦の艦首が紫色の時歪門から現れ、巨大な主砲数門を右の奥側にいる魔獣たちにむける。そして強烈な閃光を放ちながらエネルギーイオンレーザー砲をぶっぱなし、まばゆい光の帯は鮮やかに空をかき切り地形ごと直撃した個所を崩壊させた。


「ここに集うは、人外ばかりか」

「それはあなたもでしょう、シャムロック」

「ああ、そうだったな。しかしそうでもしないとあの大軍を止めるのは難しい。それをまとめ上げる主殿にはまことに感服する」

「まあ、その点については流石と言っておきましょうか。どうも戦闘が終わったようです。問題は、いきなり上空に現れたあれですね」


 シャムロックとミレイシアは戦闘の光景を見た感想をそれぞれ述べて、車内に先に入っていった。


「あーあ、もう終わりか。もう少しやれるかと思ったが」

「そうですねえ、気が合いますね」

「さて、ホテルに戻ったら彼らに話をしないといけないな」

「そうですね、父さん。しっかり話を聞かせてもらいますからね」


 リシェルはそういうとその場にあおむけになり、エレクトリールとその父と言う男は魔獣たちの命が散った大地をしばらく見ていた。


「あの男、エレクトリールと似たような力を使えるみたいだな。俺のと変わらない感じだった。後で話を聞こう。敵ではなさそうだ。みんな戻るぞ!」

「あ、ああ!」

「って俺もまたその直し方かよ!」

「せめて私くらい外においてよぐすん。幼馴染にそんな扱いしていいのかしら?」

「私は悲しい。もう少し待遇の改善を……」


 ハーネイトの術で4人は召喚ペンに吸い込まれ、ハーネイトたちもシャムロックと合流した。


「せめてベイリックスがもう少し広ければね……すまない」

「トラブルはあったが、どうにかなったな」

「やれやれだぜ。まあ結果オーライだ」

「これで、必要な研究者に機材、データ、そして生の情報を手に入れた。これからが本番だ」


 ハーネイトは全員をトレーラーの部屋内に集め、作戦はこれから本格的になると説明しながらソファーに力なくもたれかかった。


「では、ミスティルトに戻りますぞ」

「早く寝たいわね」

「ああ。着いたらしばらく寝よう」


 そうして一行はミスティルトに戻るのであった。二人の研究者に加え、敵上級幹部のボガーノード、執行官予備役であり、魔法使いの影響を強く受けていたヴァンという男。そして支援砲撃を行った、エレクトリールが父と言う謎の男について話をするためである。

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