Code102 脱走合成獣討伐作戦・前編
シャムロックたちが異変に気付いたころ、ハーネイトたちもそれに気づきトレーラーの方に急いで向かう。
「あれは、研究所から逃げ出したキメラの可能性がある。ああ、あれはよく見ていた」
「何だと、それは本当なのかギリアム」
「ああ、間違いない。このままだとあのトレーラーがじきに包囲される」
トレーラーが見えてくると、その周辺に存在していた犬と狐を掛け合わせた合成獣や牛と亀が合わさった怪物などの大群が彼らが逃げている方向へ押し寄せているのを各員は目で捉えた。
「それよりも一匹残らず仕留めないと周辺への影響が大きいな。もしこの先にある街が襲われたらひとたまりもないぜ相棒。俺がやろうか?」
「シャムロックたちも気づいているみたいだが、ここは全員で先にある街への侵攻を食い止める!伯爵は能力でこちらに迫る頭数を減らしてくれ。あと巻き込むなよ、どうせ菌の技使うんだろう?」
「へへ、OKだぜ。んじゃ俺はここで待機して後ろから追っ立てる。リリーは相棒の援護をしてくれ」
「ええ、了解!さあ、大暴れの時間よ。腕が鳴るわね! 」
ハーネイトはそう2人に命令を出すとすぐに創金術(イジェネート)で背中と足からブースターを作り出し、その噴出口から魔力を勢いよく放出しつつ、夜明け前の空に橙色の軌跡を描きながら滑空しトレーラー上空に到達した。
「4人とも仕事だ。合成獣の群れが街に迫りつつある。影響を抑えるために力を貸してくれ」
「俺、あいつら、倒す!」
「相分かりました」
「さあ、盛大に暴れるわよみんな!」
「何で血の気の多い奴ばかりなんだ。まあいい、俺の槍さばき、見せてやんよ」
それと同時に目を閉じて念じ、次元空間内にいる4人に声をかけると、ハーネイトは召喚ペンを低空で飛行しながら取り出し4人を地面に召喚した。
「うおおおっと」
「きゃあ!もう、少しは優しくしてよ、ったく」
「かかって、来い!」
「ふんふんふん~ってごはっ!」
足を挫いたシャックスを除き3人はそれぞれ武器を同じタイミングで構え、トレーラーに迫る合成魔獣たちに向かって突撃したのであった。
「痛たた、……悲しい、なぜこのような目に。いいでしょう、我が弓のサビに、してくれましょう! 」
「やれやれ、俺だって元DG幹部、見せてやんよ! 」
「うおおおおおおお!砕けろ! 」
「早く帰りたいから失せてよね」
そして最初にユミロが少し飛び上がり勢いをつけつつ、地面を大剣で激しく叩きつけ、地震と地割れを起こしながら左から迫ってくる魔獣を数体地中に埋めた。この領域周辺は風化した岩が所々に存在する乾燥した荒野のため、地面を割ることなど容易であり、足止めも兼ねたユミロの計算された攻撃は合成獣の集団の足並みを乱れさせた。
「行くぜ、霊界人の力見せてやる」
ボガーノードはそういうと槍を手元で激しく回転させた後一気に飛び上がり、その槍先を地面に突き刺す。そして反動で再度飛翔し、今度は懐から取り出した投擲槍を3本素早く地面に投射した。すると彼の周囲から悪霊が数体召喚され、それは一目散に正面に向かって飛翔、取り付いた魔獣たちの動きを封じ、呪いをかけ急速に弱らせていった。
「まずは足止めだな。ああ、なんかワクワクするねえ。久しぶりにこいつが役に立つとはな」
ボガーノードの不敵な笑顔とユミロの猛り狂う表情が双極を成し、魔獣たちの足を鈍らせる。
彼の戦技は一風変わっており、地面に突き刺した槍を起点に弱体効果やダメージを与える鬼霊の領域を形成するサポート技が中心である。小型の投擲槍を計9本所持し、状況や敵の強さに応じて必要な鬼霊を呼び出すことが可能である。また槍を突き刺し相手に鬼を送り込んだり、武器を強化しての一閃など、かなり芸達者なことができるのがボガーノードの強みと言えよう。
「だったら私も。さあ、そろそろ行くわよ、紅姫」
「そうですね、では。憑依背霊…! 」
リリエットは常にそばにいる霊「桃色輝夜紅姫」と心を通わせ、彼女の背後に実体化した紅姫が現れた。両手にそれぞれ剣を持った、赤く丈の長い着物を着て、髪を結い幾つもの簪で止めている美貌の女性。かつて壮絶な恋の果てに命を落とした貴族の霊であり、その力は神霊に匹敵するほどの力を持つ彼女の守護霊である。
「行くわよ、ロザード・エスパーディア!」
リリエットの動きに合わせ、紅姫も手にした剣を大地に突き刺し、それを振りぬくことで巨大な桃色の衝撃刃を生み出し、飲み込まれた魔獣は次々に塵と化していった。この衝撃波は無数の霊量子でできた花びらのような極小の刃が無数に混じっており、防御しても削る能力を持っていた。故に依然ハーネイトと戦った際に彼の展開した魔法障壁を貫通したのもこの能力によるものであった。
彼女は執行官予備役ではあったものの、父を欺くために能力を隠してきたため本来ならば父すら上回る能力を持っていた。しかしその背後にいる、黒幕が何かを見抜くほどの力を持っておらず、長年の旅の果てに故郷に帰りようやく情報収集で手にした魔法という力も勉強していなかったため全く理解ができていなかった。その結果として同じ道場で鍛錬を積んできたハーネイトの力を借りることになったのである。
「皆さん本気ですね。では私も。震えろ、フルンディンガー。そして放て、ストリームアロー」
ユミロたちの奮戦を見て、シャックスはフルンディンガーを合成獣の群れに向け、無数の嵐のような矢を右から左に薙ぎ払うように斉射し獣の命を奪っていった。先ほど足をくじいたことの怒りを敵にぶつけるように攻撃を仕掛けていく。どこか読めない一面のあるシャックスだが、それはあくまで役を演じているだけであり、至って本人は冷静に、確実に魔獣を仕留めていく。
彼の持つ弓はかなり特殊で、剣にも飛行具にもなる器用な代物である。実際シャックスにしかできない仕事もあり、DG内でも眠り目のシャックスという異名がつけられていたほどであるという。
「どんだけあの城の中にいたんだよ。だがここで仕留めれば栄養補給にも、敵の戦力も激減するだろうな。じゃけん、醸しましょうかね。さあ、獣の中にいる我が眷属よ。醸せ、日和見之叛逆劇!! 」
伯爵はすごく嬉しそうにニヤニヤしてからハーネイトの指示に従い、合成獣の大群の最後尾を観察すると天に腕を上げながら眷属である微生物に命令を出し、指パッチンを勢いよくした。すると伯爵が目を付けた合成獣の大群のうち、その中央のラインと最後尾のラインにいる物が急激に苦しみだし、5秒もせずに狙われた合成獣たちは塵となって風に舞い、跡形もなく消えていったのであった。
「まあまあ、の味だ。しかし満たされねえな。いっそのことハーネイトを少しつまみ食い……。いや、やめとくか」
伯爵が発動した「日和見之反逆劇」はとてつもなく強力な技であり、発動条件が一つだけあるものの、狙った目標は生物である限り確実に死ぬ技である。それは目標の体内にある無数の微生物が突如すべて有害なものになり、伯爵の体に取り込まれるため内側からすべてを食い溶かし、その養分を伯爵自身のものにできるという誰もが聞けば身の毛もよだつ彼専用の技であった。
これにより一瞬でおよそ9000匹はいた合成獣の約半数に相当する約5100頭が瞬時に消滅したのであった。
「クハハハハ、弱い弱い。己の無力さを味わえ。ってすでに死んでいるから聞いていねえか」
久しぶりにおいしいご馳走にありつけたと、伯爵は空中で空気にひびが入るかというほどに盛大に笑いあげた。そして愉悦に浸り、残りの敵がいないか周辺をくまなく監視していたのであった。
「む、ハーネイト様!」
ベイリックスの中で待機していたシャムロックは、ミラー越しにハーネイトの姿を見つけ、車の窓を急いで開けた。
「シャムロック!後方に反応があるのは分かっているか?」
「はい、確かに」
「そいつらは研究所から脱走した合成魔獣だ。このままだと30km先にある小さな町に集団がぶち当たる。戦闘要員を配置につかせる」
「了解しました」
そしてハーネイトの命令によりシャムロックはベイリックスを一時停車しリシェルたちに指示をする。
「ハーネイト様から伝達、至急後方から迫る魔獣たちを殲滅せよ、とのことだ!」
「やはりそうなるのね。いいわ、まだ暴れたりなかったのよね」
「捕らわれていた住民たちはとっくの前に転移魔法で元の街に移しているから、心置きなく行けるわよ。お姉さんに任せなさいな!」
そう言うと、風魔やミカエルが先に車外に出て、すぐに武器を構え戦闘態勢に入る。
「帰るまでが戦闘、ですかね」
「そういうことだな。開けた大地だ、狙撃など楽勝だぜ」
そしてエレクトリールとリシェルはトレーラーの上部にあるハッチを開く。するとそこには、厳つい表情をした付け髭の、海賊帽を被った濃紫色の豪華な服を着た男が座っていたのであった。風を体で切り、微動だにせず走行中の車の上で立ち続けるその男にエレクトリールは固まらざるを得なかった。
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