Code 134 新たな仲間と決意

「さてと、他にも話したい人はたくさんいるが……」


 レストランの中は大盛況。こんなに人が集まることはそうそうない。この星の人だけでなく、異星の人間までいる状況に感嘆しつつ、自分も相当変わり者だなと思っていたハーネイトであった。けれども、いやな気分には全くならない。むしろ仲間が増えたことにうれしさを感じていた。


「それにしても、こんなに多くの人が集まりともに戦ってくれる。旅に出た時とは偉く違うな」


 自身の謎を追うために旅に出たが、最初はうまくいかないことばかりだったことを思い出すハーネイト。けれど諦めなかったから、今こうして、多くの仲間といられる。それが無性にうれしくて、うれし涙を流しながら微笑んでいた。


「なあ、リリエットよ。DGは本当に滅んだ、のか?」

「ええ、そうよ。長年の夢は叶ったのよ」

「だが、記憶が……まだ、おぼろげだ」


 そんな中、元DGで洗脳されていた能力者集団のリーダー、ゴールドマンは娘であるリリエットに話しかけ、今どういった状況なのかをまた確認していた。それを見たハーネイトはそっと近寄り話しかけた。


「どうした、リリエット。それと、ゴールドマンさんでしたっけ」

「お主がハーネイトか、娘が、迷惑をかけたそうだな。……そしてわしがふがいないばかりに、あの女に乗せられ、取り返しのつかないことをしてしまった」

「まあ、あの後いろいろありましたがね。……悪いのは、多くの人を操り苦しい目に合わせたあの魔女です」


 二人は軽く挨拶をし、簡単に事の経緯を話した。そしてリリエットが犯した失態について彼が代わりに謝ったのであった。気にしていないといは言っても、どこかで納得できていない表情を隠しきれなかったが、ハーネイトはそれでも話をつづけた。


「一殺の愛弟子とは聞いておったが、阿奴は元気にしておるか」

「え、ええ。って、まさか知り合いとかでは……?」

「その通りだ」


 その言葉を聞いたハーネイトは、今まで抱いていたいくつかの疑問が心の中から消えたのを認識した。


「昔から師匠はおっかない人だったのですね」

「まあ、そうじゃな。だが、生きているとはな。……DGは、本当に消えたのだな?」

「はい、私だけでなく、この場にいる、いや、この星の上で生きる多くの人たちのおかげで」

「それと、あそこにいる二人組の男もよ」


 リリエットが窓際にいて食事をとっているオーダインとミザイルを少し指さす。それに気づいた二人が手に料理が乗った皿を持ちながらこちらのほうに向かってきた。


「昔ほどではないが、いいところだな。ああ、ハーネイトか」

「しっかしよ、敵を仲間にするとはな。本来なら討伐対象なんだぜ、そいつらは」

「しかし、真に倒すべき敵は倒れました。無駄な戦闘は控えるべきだと思います」


 ミザイルの粗い言葉に苦笑いしながらも、自身はやるべきことをやったし、無益な戦いはしたくなかったとハーネイトは意思を示した。


「……あの女のせいとはいえ、申し訳ないことをしたな」

「それなら私たちも同じよ」

「ああ、ぼくたちは、多くの人に迷惑をかけた」

「モルジアナ、ヨハン……無事だったか」


 料理を取るために席を離れていたモルジアナ、ヨハンが戻ってきた。意識を取り戻したのがつい先ほどであり、ようやくはっきりしてきたのか、ゴールドマンは彼らをじっと見ていた。


「ボスもご無事で何よりです」

「無事だったのは、これで全部か?」

「ああ、パラディウムとガミオンは……」


 友人であり戦友の2人について、どうなったか尋ねるゴールドマン。その答えに対してヨハンたちは首を横に振って残念そうな表情を見せていた。


「父さん、あの二人は例のアイテムを使用しました」

「あれ、か。変身するあれだな。それで、ここにいないということは……」


 ゴールドマンはすでに理解していた。この場に旧友がいないこと。それは彼らが既に天に召されたこと。わかっていても、涙を完全に防ぐことができずうっすらと涙を浮かべた。


「彼らは、戦死しました。彼らの所持していたデモライズカードは融合型で、元に戻す術がないとな」

「……そうか、シノブレード。……あいつらは私の古い友人でな、こうなるとは……」

「しかし、過ぎてしまったことは仕方がない。何せ、彼らは洗脳の汚染度がかなりひどかったと、あそこにいる女性たちから教えてもらいました」

「セファス、か。くそ、あの女さえいなければ」


 シノブレードは淡々と言いながらも、悲しんでいた彼のことを内心かなり気にしていた。


「セファスは私の師匠、ジルバッドを殺し弄んだ仇でした。……このようなこと、二度とないとよいのですが」

「そうだな、ハーネイトよ。今回の事件、私がすべて責任を取る。さあ、好きにするがよい」

「何でもしていいって、言いました?フフ、一応裁判には出てもらいますが、おそらくアレクサンドレアル6世は……」


 形だけ裁判を受けてもらい、その刑としてハーネイトの下につき再教育という形で引き取る予定になることをまだ説明していない人たちに教えたハーネイト。動揺が広がるも、すでに話を聞いていた人たちは納得済みであった。


「……へっ、どうせ俺たちは行く当てもない。しかしだ、また勝負してもらうぞ、ハーネイト」

「こんな形であれだが、本当に良いのか?」

「かまわない。ただ、復興と今後のために力を貸してくれ」


 ブラッドバーンは椅子に全力でもたれかかりながらハーネイトに話しかけ、再戦を申し込んだ。三度の飯より戦い好きな彼はより強い敵と戦いたくて仕方なかったのであった。そして一人考え事にふけっていたヴァンも力を貸すことを約束したのであった。


「話聞いた?モルジアナ」

「ええ、アルティナは?」

「同じよ、行く当てはないのは元DG全員なんだからね」

「洗脳から助けられた身だ、何も文句は言えまい」

「そこの人たちも含め、明日さっそく事情聴取を行う。ホテルの部屋は用意しておくから、そこで待機していてくれ。しかし、リンドブルグにいつ帰れることやら」


 事務所兼家のあるリンドブルグに帰れるのはもう少し先かなと少しため息をつきながら、その場を後にしてデザートを食べようとバイキングテーブルのほうに向かおうとしていた矢先、バイザーカーニアのロイ首領に話しかけられた。


「ハーネイト、ご苦労だったな」

「ロイか、そちらもな」

「ああ、魔法協会の話は聞いたか?」

「相当手ひどくやってくれたみたいだな」


 DGによる被害をもろに受けた魔法協会。住民や関係者は無事だが、施設が壊滅的な被害を被っていることを聞いたハーネイトは早急に対処せねばと考えていた。今回の戦いで、実質協会の機能は停止したといっても過言ではない。それはセファスに、重要な役職についていた協会の幹部のほとんどを抹殺されたからである。幸い6代魔道家は協会から一歩引いて離れた場所で各自暮らしていたために無事であったが、こうなっては結果的にハーネイトらが後を継ぐしかない状況であった。


「そちらのほうはこちらに任せてくれ。ハーネイトはしばらく休んでくれ」

「そう、させてもらう。金が足りないときは連絡すればすぐに送ろう」

「フフ、その時はな。しかし、いつしか立場が逆転したな」


 昔旅をしていた中で彼女に助けられたことがあったハーネイト。今ではその立場が逆転したものの、彼女から受けた恩は忘れてはいないといい、また会おうと約束したのであった。


「……なんだここは、ここだけ空気が異様に重い。何故だ」


 そんな中、異様な空気を放っている空間を見つけたハーネイトは、何があったのかを確かめに行った。


「貴様らがもう少しきちっとしておれば、事態は悪化しなかっただろうが」

「ただ監視していたあなた方に言われる筋合いはありませんよ、業魔界の住民」

「あの、折角のパーティーなので険悪なムードは……」

「おお、ハーネイトか、よくあれを倒せたな」

「はい……久しぶりに、死の恐怖を感じましたが

 

 Dカイザーとフューゲル、オーダインとミザイルが話をしていたのだが、少し険悪なムードであり自然と割り込んだハーネイトはカイザーからそういわれ、少し困惑していた。


「あの邪神は、業魔界でも恐れられていた存在だ。ああして出てきたこと自体あり得んのだが、本当に成長したな」

「……だが、まだ力不足だ。防御相性の面とはいえ、あの一撃を食らってしまった」

「お主はまだ若い、伸びしろなどたくさんあるじゃろう」


 伯爵から説明を受けたものの、願望無限炉の所持者が絶対的に強いわけではないことを知ったうえで、起きた事実を述べながら戦うのが正直怖かったと気持ちを明かしたのであった。今まで戦いに向かうことで恐怖を覚えたことなどなかった。それは自身の体質がそうさせるのだろうと思っていたが、改めて無敵ではないことを自覚させられた今回の戦いは、彼に新たな感情を芽生えさせる結果になった。


「ハーネイトは、究極の存在として、そして失った文明も歴史も取り戻すための鍵なのだ。しかし、剣と魔法はどこで身に着けた」

「オーダイン、それは……」


 本来ハーネイトは女神によりあらゆる破壊方法をインストールされ、専用の武装が与えられるはずであったとオーダインは告げた。そしてその際に人格も女神が望んだように書き換えられる予定であったことを聞かされ、ハーネイトの顔はひどく青ざめていた。

 しかし遺伝子改造と古代人の技術をもってしても、戦闘センスを身に着けるのは時間がかかるし、そこまでは人の手ではプログラムできなかったという。しかしあの戦いぶりを見たオーダインたちは、どうしてその力を身に着けたのかが気になっていた。


「いい、師匠に巡り合えたようだな」

「あの一撃は、確かに見事だったといっておく。だが、神造兵器だろうが、あの例の女神相手にはまだあれだな」

「二人は、そのソラという女神とあったことは?」

「いや、間接的にだ、ハーネイト」

「だが、あれはこの世のものとは思えない存在だ」


 師である3人の話を聞いたオーダインたちは、それで納得したのであった。そしてハーネイトは疑問に思っていたことを口に出した。それの回答はおよそ予想道理だったものの、その力については少なくとも事実だろうとは感じていた。


「そうでしょう、ヴィダール・ティクス神話。それはこの世界において各惑星で幾つも伝承が残っているほど影響が大きいのですから」

「誰だ、貴様は」

「私はシャックスと申し上げます。ハーネイト、女神ソラ、ソラ・ヴィシャナティクスはあらゆる世界の創造者であると伝えられています。そしてその力は作った世界を意のままに消すことができるほど強大です」


 さらにシャックスまで割り込んで、女神の話を進めていく。この時、彼のような存在がいてくれたことにハーネイトは頼もしさを感じていた。普段は寝ぼけてつかみどころのない彼だからこそ、そのギャップが印象的であったという。


「ということは、あらゆる世界の命がその女神の掌の内にあるという、ことか?」

「ええ、そうですねえ」

「だから、機嫌を取るために俺たちはこうしてわざわざ来て、活動していたんだ」

「知らなかった……じゃあ、もし選択肢を誤れば」

「すべてなかったことになるのう。お前の実の父親から話を聞かされたが」


 彼らの話を聞いて、自分はいったい何をやっていたんだと悔しがった。世界は、思った以上に広すぎるな。そう思いながら恐るべき存在にどう立ち向かうかを考え始めていた。


「皆さんは知っているのに、なぜ自身は気づけなかったのか……」

「そりゃお前さん、わしらが情報統制をしておったからな。気に病むことはない」

「だったらなぜ、その事実を今まで知らせなかったのです」

「ならば、それを知ってどうするつもりだったのか?」

「それは……」


 もしそれを早く知ったとして、確かにどうするつもりだったのだろうか。そう思うと彼は言葉が少し詰まった。聞いたところで答えなど固まっていなかった。 


「とにかく、向こうに行けるのはしばらく先なのだから、焦るな、弟よ」

「そうだ、マスター。休める時に、休まなければ」

「ユミロ……ああ、そうだな。それと、こうしてついてきてくれてありがとう」

「構わない。それと、ありがとう」


 ユミロは、先の戦いで敵討ちという点で花を持たせてくれたことにすごく感謝をしていた。これで、今まで消えていった者たちに対し少しでも報いることができたといい、ハーネイトに対し深く一礼したのであった。


「俺らを受け入れてくれた、それだけでもいい。この戦い、決して一人では勝てなかったと思う。みんながいるから、どんな時でも立ち上がれる。今までどこかで、人が怖いって、恐ろしいって思っていたこともあった」


 ユミロは率直な気持ちを伝え、それに対しハーネイトは力強く、静かに、でも熱く話をつづけた。


「だけど、そうしていつまでも目を背けていては、答えをつかめないって。それに気づけた。そして新たな力と出会い、向き合い、手にできた。今までの私とは違う」

「フッ、いい目つきじゃねえか相棒。ああ、運命に向き合わなきゃならねえ時なんだ、今がな」

「……心配していたが、頼もしくなったな」


 大切なことは運命に向き合うこと、そして受け止め前に進むこと。それを改めて再確認し、一皮むけたハーネイトの表情は以前よりもたくましく、また落ち着きのあるものになっていた。


「さてと、大体食べたな。しっかしうめえな!ヴァンももっと食えよな」

「ボガーは遠慮するという単語が頭の中にないのか」

「それなら俺もないぜ」

「ブラッドバーン、お前もか」


 ハーネイトがそう思っている中、ボガーノードやシャックス、ブラッドバーンは異星の料理を楽しんでいた。しかしヴァンはあくまで自身らが元敵であることから自重しろというものの、友人であったブラッドまでダメなお兄さんであるボガーと同じことを言っていたことにあきれて、どうしようもないなと思い机に置いていた水の入ったコップを手に取り、ゆっくり飲んでいた。


「いやぁ、城の食事よりもうまいなあ、兄貴!」

「フリージア、帰ったら料理長に言いましょうか?」

「い、いや、わ、悪かったって」

「ったく、ハーネイトの坊主は本当に曲者ばかり集めよるな。にしてもだ、なんだあの女は。俺たちの食べる分まで食べているだろ」


 エレクトリールとフリージアが大食い対決をしているようである。そして兄たちにそう言い、アレハンドロスが笑顔で睨みつけて軽く脅した。


「だが、それが彼なんだろう。敵すら魅了し引きずり込むその手腕、見境なくて私は賞賛するよ」

「褒めてんのかけなしてんのか分かんねえな、兄貴」

「ハハハ、まあよいではないか。今のうちに食べまくるぞ!」


 こうして、楽しい夜は過ぎていくのであった。もはや国や立場はおろか、人種、いや、種族すら異なる集団がこうして集い、一つの力となって脅威を退けた。そして未来をまた紡ぐことができたのであった。

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