第4話 リンドブルグの住民たち



「ああ、この機械兵らが何処で作られたかを調べていてな。部品を見ると、製造したのは機士国内の工場。それはまあ当然だとして、問題は別に誰かが携わっているみたいだ。ほら、このもう一つのマークを見てくれ」


 ハーネイトはエレクトリールの問いかけに対し手に持っていた部品を見せる。


「……私の故郷を襲った宇宙人たちの服にも、同じものがついていました。しかしそうなるとその国で作られた機械兵にそれがついていることがおかしいですよね。一体何が……」


 エンブレムを見て驚くエレクトリール。同時にハーネイトもエンブレムを見て、それから推測されることに関して、怪訝な顔をしていた。


「先ほどの悪魔とのやり取りからもそうだが、既に機士国にもエレクトリールの星を襲った連中の影響が出ているようだ。そうでないと君がここに来てからすぐに襲われた理由がつかないのだ」


「それも、そうですね。確かにあまりに用意がいいと言いますか。打合せでもしているかのようですねハーネイトさん」


「そうなんだよねこれ。先ほども口に出したが、ここから機士国は距離にして7000カルメート、まあ7000㎞と滅茶苦茶離れているし大陸も違う。魔法使いか、それに類する特殊能力者でもいない限りあの規模の機械兵を瞬時に転送し移動できない。これはますます国王たちを探して話を聞かなければならない」


 ハーネイトのその言葉にエレクトリールは気になり、何があったのかをハーネイトに尋ねた。彼の話をまとめると、今から1か月ほど前に機士国で軍事ク―デターが発生したというのを情報屋から聞いたという。そして国王が現在も行方不明となっているという。


 それに関して真偽を確かめるため、通常業務とは別に彼は動いていた。


 また配下に置く近衛兵であり、最も王から信頼されているルズイークとアンジェルも同様に連絡がまともに取れない状況であったという。


 しかし東大陸までどうにか辿り着いたと4日ほど前に連絡があり、捜索と救助に向かう矢先であった。

 

 彼は先ほど起きた出来事がそのクーデターの何らかの関わりがあるのではないかと考えていた。そうでなければ、計画が凍結になったはずの兵器が、こんなところにまで来るわけがない。


 また、あまりに襲撃が手際というかタイミングが良すぎるのを感じ背後に何かがいるのではないかと考察していた。あの機械兵をけしかけたとかいう悪魔も気になる。ハーネイトは表情とは裏腹に内心、かなり戸惑っていた。


「エレクトリールを襲った連中と、機士国に異変をもたらした可能性のある誰かさんに何らかの共通点が存在かもな。このように証拠もあるし、そう考えてもいいだろう」


「すでに、奴らの手がこの星に来ているということですね」


「モーナス爺さんの話によると、約20年前ほどに宇宙人の軍団が襲来したというが、それとも関係があるか、後で聞きに行こう」

 

 2人はそれぞれ推測を口に出し、今起きていることを整理してみた。


「かつて機士国とは何度か仕事で関わったことがあるし、国王やその部下たちとも親交があった。どこかに潜伏でもしているのだろうか。最後に連絡があったのが4日前。魔磁気嵐の影響を考慮しても、そのあとの足取りがつかめないのはおかしすぎる。やはり魔法を使っているな」


 ハーネイト曰く、魔磁気嵐の影響下にあったとしても、それは魔粒子を用いた通信の妨害や一部の属性魔法の発動に影響すること以外のことは通常ないという。


 4日前には確かに2人には連絡できた。その時も通信が大きく乱れわずかな時間しか通信できなかった。更に付け足すと現在所持している小型の魔粒子レーダーでの探知ができなかった。


 だとしても通常ならば目撃情報の1つや2つは出てくるはずなのにそれが来ていないということは、それがなぜなのかを考えていた。


「かなり大変なことになっているのですね」


「ああ、そうだな。はあ、やれやれだ。やっと大きな仕事が片付いて。休暇でヴァール海岸に行こうと思ったのに。シーグラスとか、貝殻とか集めたかった。しかし、各地を回って情報収集をしているのに、音沙汰無しとは、心配だ」


「休暇、ですか」


 エレクトリールは彼の事情を知らず、少し意地悪にそう言ってみた。それに対しハーネイトは反論する。


「アンジェルの魔法運用力は非常に高い。ルズイークも歴戦の戦士だ。私は2人のことを高く評価している。連絡が取れないのは大魔法の中で常時発動も可能な66番、四風迷彩を使用しているのだろう。とろうとした休暇も本当は彼らの捜索に充てようとスケジュールを強引に調整したのだ。もうくたくたなんだけど……」


 ハーネイトの言うルズイークとアンジェルは、かつて彼が機士国に在籍していた際に魔法の指導を行った人物である。


 元々魔法の素養がほとんどなかった二人だったが、ハーネイトが国を離れる前には両者は優秀な魔法使いになっていたという。通信が行えないのは、アンジェルに教えた風の大魔法「四風迷彩」によるものであり、魔力や気配を屈折し遮断する仕様のため連絡がつきにくい状況であると判断した。

 

 そうでないと、いくら通信に悪影響を与える魔磁気嵐が強くても全く連絡がつかないということはないため、その理由がつかなかったのである。

 

 また、それを解除できない理由があり、それが敵にまだ追われて身を隠すためであるというならば早急に救出せねばならない。そう彼は考えていた。


「確かに、疲れが顔に出ている感じが……そうですか。それなら仕方ないですね。しかしあなたの代わりに働いてくれそうな人はいないのですか?どうも一人で動いているように見えますよ」


「……それができているなら、苦労はしない。魔法協会の人たちにも連絡を取ったが……なんか連絡がねえ。部下が数名いるけど休暇出してるしな」


 2人は話を続け、個人的な話や事務所の話を軽くしてから、1つ残さず部品を集めきったハーネイトは事務所の軒先に座り込んだ。その隣に、エレクトリールもゆっくりと腰掛ける。


「しかし目撃証言とかはないのですか?」


「今のところはね。少しはこちらに連絡をよこしても……しかしあの魔法、以前から思っていたが予想より強力だ」


エレクトリールもハーネイトの言っていた、目撃情報が入手できないという点に注目していた。実際に先ほど体験したあの緑の風も、彼曰く魔法だという。その力強さを体験しただけあって、その風を纏い迷彩効果を得る術もさぞ強力なのだろうと思っていた。


 それはハーネイトも同感であった。通常66番は隠密用でしか使わず、使いあぐねていた点は否めない。それをアンジェルはうまく使っているのだろうと彼は感心していた。


 風と氷属性に関して極めた彼女らしいそのセンスは、ハーネイトに新たな魔法の使い方を提示してくれていた。


「そうなんですね。今はそのアンジェルさん、と言う人を信用して、祈るしかないでしょうね」


「そう、だな。二人の魔法ならば王様を守り通すことはできる。問題はこちらから迎えに行けないことだな。迷彩を使われるとこちらの魔法探知を駆使しても有効距離が2~4kmまで下がるし、捜索範囲が広すぎて人手が足りなさすぎる。魔法使い自体非常に数が少ないし、バイザーカーニアの連中で捜索系の能力者は数えるほどしかいない」


 ハーネイトは一応方法はあるともエレクトリールに伝えるも、それは現実的でないと付け足す。彼を支援する組織であり、魔法使いの秘密結社であるバイザーカーニアとも連携を現在とっているところだが、いまだ国王たちの確保には至っていないという。


 先ほども述べたとおり、魔法協会の人たちに協力を取り付けたいところだったのだが彼は協会内でも異端の存在であるため、人材を集めるのは困難だろうとも思いダメもとで連絡してみたのだったが、誰も連絡がつかないことに違和感を覚えていた。


「難しいのですね。しかし少しでも情報を集めないといけません」


「機士国の件もだが、魔法協会のほうも嫌な予感がする。あの男を使うか……危険な男だがな」


 2人はそろそろ一息つこうとしたそのとき、遠くから、数名の聞き慣れた声がしてくる。ふとハーネイトが声のした方向を確認した。


「ハーネイト!ご無事ですか?お怪我はありませんか?」


「ははは、遠くから見ていたが、やりすぎではないのかね?」


「えらくでかい音が聞こえたから思わず裸足のまま駆け出してしまったわハハハ。何があったのか?それとその隣の若い兄ちゃんは誰だい?」


「ハーネイトの兄貴!ご無事ですか?かっこよかったすよ!剣術にあの伝説の大魔法。流石魔法革命を既に5度も起こした天才!」


 街の方から事務所の方に走ってきた4人がハーネイトに声をかける。


 最初に話しかけたこのリンドブルグの現市長であるハルディナ、薬品を販売しているモーナス、レストランと肉屋を営むリラム、ハーネイトのファンで追っかけをしているダグニスの4人が、先ほどの騒動を聞いて、駆けつけてきたのであった。


「ああ、それは大丈夫だがそれよりも街の被害はありませんか?ハルディナ街長」


 ハーネイトはハルディナの顔を見て、少し目を逸らしながら答える。もし何かあれば、この後恐ろしいことが起きると理解し彼の顔が少しひきつる。


「今のところ特にはないですが、何があったのですか。魔獣の襲撃ですか?来た時にはもう終わっていたみたいなので」


 ハルディナがハーネイトの前に来て、顔をそっと覗きながら質問する。彼女の、三つ編みに結んだ栗色の髪がハーネイトの肩にかかる。


 ハルディナはこのリンドブルグの街長で、図書館の館長も務めている。彼女のおかげで、事務所をこの街に建てられたといっても過言ではない。東大陸における唯一の銀行「ヨーロポリス銀行」の創業者ローランド・ニコ・アンダーソンの養子でもある。


「ああ。事務所が何者かに襲われたので外に出て応戦し、撃退したのです。しかし厄介なことになってきたかもしれないですね。ハルディナ街長、迷惑を掛けた」


 もしかすると彼女の拳が顎に炸裂するのではないかと思い、彼は先に深々と謝る。


「そんなこと言わないで、ハーネイト。いつもありがとうね。貴方の戦いはいつも派手で見てて面白いからね? 」


 予想に反し、ハルディナは満面の笑みでハーネイトにそう言う。言われた本人の顔はまだこわばっていた。実は彼、女性が苦手なのである。これには彼の黒歴史も合わさるのだが悲しい事件に巻き込まれた結果でもあると言う。


「まあ気にするなやハーネイトよ。お主には町の住民はいつも助けられておるからのう」


「はい、そう言っていただけると助かる限りです」


 モーナスのその言葉に、ハーネイトは軽く礼をする。


 このモーナスという男は天然の薬草から様々な薬を生み出す魔術師であり、他の地域にも薬品を販売している。頑固で厳つい高齢の男性だが、筋はきっちり通す仁義に厚い男である。


「疲れただろうハーネイト。そこの兄ちゃんも、後でうちのレストランに来いよ。ご馳走振る舞うぜ」


「そうですね、あとで昼飯食べに行きますよ。エレクトリールもついてくるといい」


 リラムの誘いに、ハーネイトはお腹をさすりながら答えた。このリラムという男は、街内で肉屋とレストランを開いており、他の街からも食べに多くの人がやってくる人気店の店長兼、街の近くにある高原で牧畜を行っている人物である。またハーネイトと新料理の開発を行う親しき友人でもある。


「それにしても、ひどい匂いだわ。油と焦げた臭い、しかも残骸を見るからに獣ではないし、ハーネイト?私に何が起きたのか説明してほしいのですが」


「ああ、みんなに話す」


 ハーネイトは、事の経緯を4人に伝えた。機士国で製造された機械兵の集団に襲撃されたこと、その後悪魔に襲われ、龍や女神についての話をされたこと。1か月前に起きた機士国でのクーデターと関係があるのではないかと言う考察を話した。


「これは、あとで二人に話をしなければならんのう。DGの再来か?」


 モーナスは聞いた情報から、容易にある存在を推測できた。それだとすれば緊急事態だ、そう思うと早く離さずにはいられなかった。


「もしかして、そこの金髪の美形さん、宇宙人すか?わあー初めて見ましたけど、私たちと体つき案外変わらないんですね?不思議不思議」


「そうです、私はテコリトル星からやって来たエレクトリールと言います。いきなりのことで、皆さん困惑しているでしょう。よろしければ、皆さんに仲良くして頂けるとありがたいです」


 ダグニスはそんな中、パワードスーツを着たエレクトリールに興味津々であった。やや困った顔をしながらもエレクトリールはさわやかな口調と笑顔で、丁寧に自己紹介をした。


 ほんわかした、優しい雰囲気のおかげか、異星人でありながら、周りにいる人間は警戒心を深く抱かずに、目の前にいる宇宙人と話せていた。


 言葉の壁もなぜか感じられず、それがどうしても腑に落ちないところがあるとハーネイトは思いながらも、その光景を微笑ましく見つめていた。


「エレクトリールちゃんね?よろしくね。私はハルディナ・ニコ・アンダーソンよ。この町で街長をしてるのよ。困ったことがあったら言ってね」


 エレクトリールのけなげな感じに魅了され、ハルディナは思わず手を取り握手をする。それに彼も応えて握手した。


「遠路遥々お疲れさまじゃの、宇宙の人よ。わしはモーナス。モーナス・アモルド・ラジスじゃ。薬屋をやっている。よろしくしてくれ、エレクトリールよ」


「はい。こちらこそよろしくです。モーナスさん」


 そしてモーナスとも、固い握手を交わす。その手は皺こそ多いものの、長年鍛えられてきた物であり、どこか落ち着く感じがした。


「わいはリラム。リラム・テルメロイ・アシムだ。肉屋とレストランをやっとるけに、食べに来てくれよガハハ!」


「はい。よろしくお願いしますねリラムさん」


 エレクトリールはリラムの厳つくて大きな手に驚きながらも、細い手を差し出し握手をする。それぞれ感触は違えども、みんながそれぞれ歩んできた道をそれから彼は感じ取っていた。


「最後に俺だな?俺はダグニス・ルーウェン・アリス。そこのハーネイト兄貴のファンっす。実は二人の戦っている所を物陰から見ていました。兄貴もエレクトリールも、ナイスファイトだったです。兄貴の伝説についてなら三日三晩話せるぜ。これからよろしくな、エレクトリール」


「よろしくお願いします。ダグニスさん」


 とても明るく、軽い口調で自己紹介をするダグニスに、エレクトリールも元気よく返事をし、ぎゅっと握手をした。


 このダグニスは、ハーネイトが事務所を建てる際に協力した、狂信的なまでの彼のファンである。そして、ハーネイト専属のBK諜報員でもある。


 そうして、エレクトリールは丁寧に対応しながら、事務所まで来た街の人とお話をしていた。宇宙人の噂を聞いてぞろぞろと人が集まる。


「おうおう、新入りかい?しかも宇宙人だと?まあええや、よろしゅうな。ワイも別のところから来たから、似とるかもな? 」


 いかにも浮世絵から出てきたかのようないでたちの男は婆羅賀という。5年前に異世界である地球からこの世界に来た歌舞伎役者で、仕込み傘を得意武器とするバサラ者である。


「へえ、こんなこともあるんだな。せっかく来たんだしよ、いろいろ見ていくといいぜ」


 ペレー帽をかぶった緑のジャージの男は香月といい各地を回る商人である。少々胡散臭い商品を売っているが、内容についてはハーネイトのお墨付きでありゼルベット商人連合という商人ギルドに所属する男である。


「わーい!宇宙人だって、すごいねすごいね?」


「宇宙人の兄ちゃん、かっこいい!イメージしてたのと全然違うよ」


「す、すごいですね。こんなに人がいるのですか。みなさん、よろしくお願いしますね」


 街の子供たちも集まり全員が、ハーネイトが初めて街に来た時のように歓迎する。それにエレクトリールが丁寧に対応し、街のみんなに一人ずつ挨拶をして、人の波も一段落した。


「ふう、人気者だな、エレクトリール。この町はいい人が多いからな。昔は排他的だったが、今ではいろんな人を快く受け入れてくれる素敵な街になったぜ」


「はい、こうして話すと、よくわかりますね。この星に落ちてきたときは、どうしようかと思っていましたが、少しホッとしました」


 リラムがエレクトリールにそう話す。それに対しハーネイトは少し皮肉った感じでこう言葉を口にする。


「そうか。私が最初に来たときは仲良くなるのに時間がかかったのだがな」


「そうなのですか?」


 エレクトリールが驚いた表情で、ハーネイトの顔を見る。とてもやさしそうで、温和な雰囲気の彼がなぜそうだったのか不思議に感じ質問する。


「いつの時代、世界でも先駆者と言うのは、苦労が絶えないものでね。今では、みんな親切に接してくれるけど。う、お腹が減ってきた」


 彼の長い旅は、世界を大きく動かした。しかし彼にとってその旅は辛いものであり、だれもがしないことを先駆けてやる苦労について話をする。


「そんじゃ、みんな飯にするか! 」


 リラムの言葉に従い、ハーネイトたちは、事務所の近くにあるリラムのレストランに向かうことにしたのであった。

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