Code 139 念願の休暇と巨大生物調査

「さあて、と。ヴァール海岸に遊びに行くぞ!」

「おーーーー!」

「やったわ!」


 五か国会議も終わり、ようやくまとまった休暇を取れたハーネイトたちは、機士国領内にある最大の海岸、ヴァール海岸に足を運んでいた。最大のリゾート地ともいわれ、多くの施設が沿岸部に立ち並んでいる。また機士国内でも有数の海がきれいな海岸であり、豊かな自然が残っている貴重な場所であった。


「魔法で瞬間移動とか便利過ぎるな」

「あの時は魔法使えない人がいたのと敵に察知されないように気を使っていたからね。だけどもう心配ない」

「けっ、だったら俺を使えばよかったんだよ」

「ニャルゴは速すぎて目立つからな」

「そりゃそうだがよう、暴れたりなかったぜ」


 すでに魔法転送石はほぼすべての地域で使用可能な状態になっていた。ハーネイトの策で強制的にいくつかの場所は封印していたため、それを戻すのにバイザーカーニアの構成員がかなり努力し元に戻したという。もう一つ使えなかった要因である魔磁気嵐も今は沈静化し、各地への移動はかなり容易に行えていた。

 そしてハーネイトはニャルゴを召喚し、彼の言葉に対しその時の状況下では難しかったという。

 正直、体調と状況次第では、ニャルゴと連携して超電撃速攻で拠点をつぶすこともできなくはなかった。敵に知られる前に、すべてを壊す。それもこの黒豹の猫又ならできる。しかし敵の本拠地がわからなかったこと、ニャルゴのスピードが速すぎることがそれを選ぶことを拒んだ。

 

「だから、ここでは好きに動いていいんだよ。さあ、満喫しようではないか」

「俺は日光浴は……やめておこう。浄化されそうだ」

「私は海に入るわよ、ハーネイトも行こうよ、ねえ?」

「あ、ああ」


 伯爵は夏仕様のスタイルで水色のアロハシャツをきていた。そしてリリーは魔力で編んだ紫色の水着を身にまとい、砂浜をかけていた。

 さすがにハーネイトも、普段の紺色のコートは脱ぎ、白地の長ズボンに黒のタンクトップと、普段見せないラフな姿で海を陸からずっと見ていた。そう、何か恐ろしいものがいることをすでに感づき、じっくりと見ていた。

 そんな中ニャルゴはハーネイトたちに対し遊びに行くといってからその場を離れた。それは口実であり、実際は彼らの邪魔をするような不届き物を追い払うために監視の目を遠くから光らせていた。この黒豹の猫又は非常に空気の読めるとても優秀な使い魔であった。


「っと、誰からだ。ってあいつか、いけない、そろそろ時間だったな」

「どうしたのハーネイト?」

「いや、ちょっと用事があってな。一旦席を外す」

「えー、折角遊びに来たのに、何するのよ」


 ハーネイトは携帯端末をズボンのポケットから取り出し、誰かと話し始めた。そして3分ほど話してから電話を切り、リリーに声をかける。


「……このあたりで最近、巨大生物の目撃情報をバイザーカーニアの連中から聞いてな。DGがらみかどうか、また原因を探るために数時間調査をしようと思ってな」

「それって、他の観光客とか危なくない?」

「そうだ、だから早いうちに片をつける」


 実は、今回この海岸に来たのは遊び目的だけではない。それは、第2次DG戦役終了後、徐々に報告が上がってきている、巨大原生生物や、謎の生物の目撃情報。それの調査を行うという仕事も併せていた。


「一応調査も兼ねてるからな。やれやれだよ。だが、もし本当ならまずい話だ。早速DGが残した置き土産が悪さをしているなら駆除するまでだ」

「しかし、そんな無茶な真似普通するかね」

「結構してきただろう?ボガーノード、船の調子は?」


 ハーネイトは手配していた小型の船をボガーノードに運転させていた。ブランクはあれど、慣れた手つきで船のかじを切り目的の地点まで彼らを運んでいた。


「今のところ問題ない。しかし、また船に乗ることになるとはな」

「本業だったんだろう?」

「まあな。しかし、この星の海は真水かよ。結構あべこべだぜ」

「全く、研究し甲斐がありますね」


 乗る前にボガーは、ハーネイトからこの星特有の気候や地形、そして減少について簡潔に話を聞いていた。その中でも海水が塩分を全く帯びていないという事実に驚いていた。それでここではどのような魚介類が取れるのだろうか、それが気になっていたのであった。そして彼の言葉に続いて、けだるそうな声が上のほうからしてきた。と次の瞬間、目の前にシャックスがやや寝ぼけている感じで船の甲板に立っていたのであった、


「うぉあ!いつの間にいたんだ、シャックス」

「ずっと前からですけど?私影が薄いもので……」


 フルンディンガーを手に取りなでながら、シャックスは遠くを見ていた。そしてすかさず弓を構える。


「来ます、これ」

「来るって、ってうおおおおあああ!」

「なんじゃこりゃ!でかいウミヘビってか?」

「そうみたいね、でもまるでクジラみたいな大きさよ」


 彼らの目の前に現れたのは、まるで巨大なクジラのよう、しかしいように細い胴体。どちらかと言えば大蛇が海面から体を出している光景であった。


「そうだな、こいつが噂の化け物ってやつだな」

「本当は原生生物なのだが、ここまで大きい個体は見たことがない。よくて5m程度だ」

「だけどよ、あれ20m以上あるだろ。早速醸すか」

「あのねえ、伯爵はあれの動きを鈍らせて。巨大化した原因を突き止めるためのサンプルが欲しい」


 伯爵は絶好調だと自身でいい、すぐに蹴りをつけるというが、相棒の指示でいったん下がる。確かに巨大化した原因は食べただけではすべてはわからない。正直伯爵も原因が気になっていた。


「ちっ、しゃあねえなあ」

「分かったわ先生。確かに、あんなものがうろついていたらおちおち遊べないもの!」

「同感だぜ。漁師としても、あれは止めるべきだ」

「ではいきましょうか。ガーンデーヴァショット!」


 シャックスは華麗に、船の上から強烈な霊量子の矢を数本放ち、ウミヘビの鼻にすべて直撃させる。しかし決定打にならず、大暴れし海面を荒立てる。


「なっ、やりますね」

「次は俺だ!鬼霊夜行!」


 ボガーは腰に付けた短い槍を取り出し、2本を合体させることで長槍状態にし、すかさず構えてから、槍先から幾つも鬼霊を打ち出す。それが巨大ウミヘビに向かいとりつくと、もがき苦しみ始めた。そう、呪いにより体の自由を乱していたのであった。


「少し鈍ったな。どれどれ、内側から少しいじってやるかね」

「きゅうううういいい!きゅうう!」

「行くぜ、神経死配……!神経にとりついて、動きを支配した。相棒、リリー、やれ!」

「言われなくても!行くぞ、無幻一刀流・疾風帰刃(しっぷうきじん)」

「やるにきまってるわよ!」


 さらに追い打ちをかけ、伯爵が神経死配で蛇の体の内側を丁寧に醸し、自由を完全に奪う。そしてリリーは黒獄暗界、ハーネイトは疾風帰刃を用いて動きを止め、確実に狙った部位の肉を風のブーメランでそぎ落とす。そして落ちた肉をすかさず紅蓮葬送でつかんで回収した。


「協力ご苦労、さあ、あとは任せてくれ。この肉片は研究部に回すとして、本体は……いや、本体も送る必要がある」


 ハーネイトは結局、肉片も蛇の本体も異界空間に格納することにした。


「最初からそれ使っとけば早かっただろうによ、ったく。そうか、まあいいや。これで遊べるな、へへへ」


 そうして任務を終わらせた彼らはボガーに港まで行くように命令を出し、勢いよくボートを彼は走らせた。


「本当に、面白い人たちですね」

「まあ、そうだな。さあて、帰ったらひと眠りするか。ったく、おっかない奴らだ」

「ああ、ありがとうボガー。おかげでこの一帯は当分安全だ」

「フッ、あとは好きに遊んで束の間の休みを互いに楽しもうぜ」


 そうして、彼らは港に帰り再び、休暇を楽しんでいた。そんなさなか事件は起きた。

 ハーネイトは砂浜でパラソルを開いてシートを敷き寝ていたのだが、しばらくして起きると目の前の光景が数時間前とは大きく異なっていることに気づいたのであった。


「うぉおおあああああ!な、何が起きたんだ?砂浜が、ああ、もう滅茶苦茶なんだけど?」

「わりぃ、相棒。俺も止めようとしたんだが、おっかなくて……」

「何が起きたのか説明してくれ」

「実はな……」


 伯爵は屋台でリリーのために冷たい飲み物と氷菓子を買っているさなか、リリーが慌ててきたという。事情を聴くと、エレクトリールたちがビーチバレーをしているようで、しかも一回ボールを打つたびに周りが破壊されているという内容であったという。そして駆け付けた時にはすでに遅し、砂浜が滅茶苦茶な状態になっていたという。


「は、はあ?遊んでいてなんで砂浜がああなるんだ」

「彼女たち全力で遊んだみたいでさ、熱が入ったんだろうなあ。あー怖かった。てかミカエルとルシエル、風魔と南雲もいたとはなハハハ」

「お前のほうが数段怖いだろう。棚に上げるな」

「けっ、それなら相棒もだろ」


 伯爵に指摘され、まさにそうだと反論できないハーネイト。ここまで彼女らが好戦的で熱い人であることを見抜けず、あとのことをどうしようか、大きくため息をついていた。


「はあ、面倒だった」

「しっかりみとかねえとな。監督不行き届きってやつだぜ」

「反論、できないな」


 とにかく元に戻さないといけない。そう思いハーネイトは渋々、目の力を使い最初に見た砂浜の姿に戻るようイメージし、それを実際に世界に反映させた。


「……よし、これでもとにもどった」

「お前の魔眼、恐ろしいな。いや、まじで」

「一度でも見て覚えたなら、その通りに復元できるって確かに恐ろしいね」

「まさに神様かなんかだな」

「えー、こんなだらけ切った神様なんていないよ、伯爵」


 ハーネイトは、荒れ果てた砂浜を魔眼で元に戻した。その光景を見た人たちはただただ驚いていた。どこをどうやってもそんなことは不可能なはずであり、改めて少しけだるそうにしている若頭ことハーネイトの実力に感嘆していた。


「へっ、それもそうか。さてと、リリー、そっちはどうだ?」

「ええ、ハーネイトの好きなシーグラス、このあたりにたくさんあるわよ」

「それはでかした、ありがとうリリー」


 リリーが先に、先ほど被害を受けた場所とは違うところできれいなものが落ちていると彼に教えた。そうして、そこに向かうと数時間ハーネイトは落ちているアイテムを集め、満足した表情で戦利品を確認していた。


「うーん、これは船とか作ってみるのがよさそうかな。いいグラスが手に入ったね」

「ほうほう、こんな小さい奴を集めてくっつけるわけか」

「そうだよ、ある意味伯爵の体みたいだね」


 伯爵は物珍しそうに、水色に美しく輝くシーグラスを手に取り光にかざしながらどう利用するのか尋ねていた。


「まあな」

「ハーネイト、私も何か作ってみたいわ」

「いいよ、何を作ろうかね」


 その後も彼らは貴重な休日を満喫し、お目当てのものを手に入れてから砂浜の入り口に集まっていた。


「さて、そろそろ日も暮れる。今日はウルシュトラで泊まるとするか」

「魔法転移ね、分かったわ」

「へいへい、先に俺様は行ってるぜ」


 ようやく念願の休暇を過ごせ、やりたいことは一応できたハーネイトだったが、巨大生物の件といい、行方不明の研究者の件といい、まだ落ち着かないなと思いつつ夕暮れ色の空を見てからミスティルトに戻ったのであった。

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