Code 138 五国会議と新組織・ARZAAD

事情聴取から数日後、すでに機士国王とその側近、そして休暇を楽しんでいた人たちもホテルを後にし、何をしようか考えていたハーネイトはレストランで食事をしながら伯爵たちと話をしていた。


「やりたいことはたくさんあるんだけど、どれからしようか」

「おうおう、だったらくじとかダーツとかはどうだ」

「それも、そうか」

「ハーネイト、私は海に行きたいなあ。そろそろ夏でしょう?」


 ハーネイトはフルーツサンデーを食べながら二人の提案を聞いて、どうしようか決めあぐねていた。


「……そうだったな。あの戦いも思ったより早く終わった。時期も悪くない、が、スケジュールを確認せねばな」


ハーネイトは携帯端末を取り出し、カレンダーとスケジュール表を見ていた。そして少し残念そうな顔をしながら二人に話しかけた。


「済まない、今週末に5か国会議があるんだった」

「あれを提唱するのね」

「ああ、もはや危機対応に人種も国も関係ない。一連の事件がそれを証明してくれた」


 星を守る、そのために今回も多くの戦士が各国から集まって戦ってくれた。誰もが気持ちを共有できた。そう彼は感じて、そのうえでこれからなすべきことを考えていたのであった。


「しかしよう、本当にいいのか?羽を伸ばして休めるんだぜ、しばらくはよ」

「せめて会議だけはな。そのあとに、な」

「ったく、相変わらずだな相棒は」


 伯爵は非常につまらなさそうな顔をしていた。とにかく退屈であくびが出そうだといわんばかりにリリーとじゃれあいながら、相棒の多忙さについていつも通りだと思っていた。


 そうして数日が過ぎ、いよいよ約一年ぶりの5国協議がミスティルトシティで開かれることになった。正確には機士国、日之国、アリューシン、マーカジャノ、ヨーロポリス連合のほかにレイフォン騎士王国やヴェルク公国など、規模の小さい国の代表者たちも参加しているため会議名を改定するかという動きも出ている。そうして各国から王やその側近、要人などがこの地に集まり、会場であるホテルウルシュトラは今までとは大きく違う賑わいを見せていた。


「今日はお忙しい中、この会議に参加してくださりありがとうございます」

「久しぶりだな、ハーネイト」


 茶髪ですっきりまとめた、口ひげがダンディな青色の軍服姿の男はハーネイトを見るな否やよっと手でジェスチャーしながら挨拶をした。彼の名前はビュコルフ・アリューシャン・ビスマといい、第4代目のアリューシャン現当主であり、海洋大国として発展を導いた男である。彼とハーネイトの付き合いもそれなりに長く気心知れた関係であるという。穏やかで理性的。ハーネイトもそういったビュコルフの一面がいいなと思い少し真似をしている節があるという。


「あらあら、元気そうで何よりですねえ」


 そしてビュコルフの隣にいる長身の美しい女性はダイアーナ・マーカジャノ・カラーヴァレーナという。赤を基調にしたロングドレスに、腕には7色に光る宝石と黄金でできた腕輪、首にはダイアモンドがきらりと幾つも光るネックレス。そして指にも輝く宝石がついた指輪。鉱山の国と称されるマーカジャノならではの服装と言えよう。この女性は代々マーカジャノを守ってきた一族の末裔であり、またハーネイトとは師弟関係という一面を持つ。


「は、はい。一応は」

「そう硬くならなくてもよろしいのですよ?それにしても、DGは本当にこれで壊滅したのですか?」

「はい、実質息の根を止めた状態ですよ。その一連の事件についても話をします」

「ごめんなさいね、山奥だからなかなか情報が来ないもので、フフフ」


 ハーネイトは彼女の顔を少し見ながらやや緊張気味でそう話す。悪い人ではないのだが、やや高圧的で傲慢な一面があり、ハーネイトが滞在中、彼女に謁見した際は体がこわばるほどの威圧感を出していたという。

実はこの二人、そこそこ付き合いが長い関係であり、ジルバッドがひそかに研究していた、いくつもの宝石の中に魔粒子を集め、一気に開放することで即時に魔法を発動できる宝石魔法について調査する中でハーネイトがある秘境を訪れているときにそこの女王であるダイアーナと出会ったのである。


「アリューシャンとマーカジャノのほうはDGの被害について何かありましたか?」

「小競り合いはあったが、こちらに犠牲はなかったぞ」

「もともとマーカジャノはご存知の通り山の中にありますが故、一切何もありませんでしたわ。もっとも、あの邪悪な原生生物の群れを突っ切れる人のほうが少ないでしょうね」


 ハーネイトは気になっていたことを質問し、二人からそれぞれ答えが返ってきた。ビュコルフはやや苦笑いしながらも事前にハーネイトが回した情報をもとに万全の準備で迎えったため追い出すことができたという。

 またダイアーナは手にした玉虫色の扇子を口にかざしながら声高く笑いつつ、マーカジャノの特殊な地形について話をし、そのおかげで何もなかったことを説明した。

 アリューシャンは機士国のある西大陸の最南端にあり、機械兵団の襲撃を受けたものの海からの砲撃や義勇団などの活躍が功を奏し、また陸路の複雑な地形を生かした地形との挟み込み戦法を行ったのであった。

 マーカジャノは先述したとおり、国に至るまでの道が険しいところが多く、周囲を日之国の外壁よりも固く高い天然の岩壁に囲まれているところである。また近くに見えないオベリスクの一本が存在し、それにより唯一侵入が容易な空からの侵入もなかったという。



「相変わらずマーカジャノの天然要塞は恐ろしいですね。それもそうか。皆さん、今日こうしてお集まりいただいたのは……」

「話に聞いたぞ、改めて異世界及び異星人との戦いにおいて優秀な戦士を各国から集めたいとな」


 事前に会議の内容は各首相に伝えられていたが、その内容に疑問を持つものも少なくはなかった。


「しかし、すでに最大の脅威は去ったわ。なぜ今、それを提唱するの?」


 ダイアーナの質問に対しハーネイトは、まだ各地に存在する同志や機士国のエージェントなどから得た情報を彼女らに説明した。その中にはまだ残党がいること、そして行方不明の研究者の中に危険な研究を行っているものが存在すること。そして自身が倒れたことを改めて話して、そのうえで代わりになるような人材を育てたいと伝えたのであった。


「それは、困りましたわね。残党勢力、それに更なる脅威。厄介ですわね」

「実際それで我が国は大変な目にあいましたので」

「今後も何が起こるか分からないのです。そしていつまでもハーネイト一人に任せきりではいけないのです」

「それは同感だが、果たして彼クラスの実力者は……?」


 幾つも提示される資料を見た各国の代表者は困惑しつつも、ハーネイトの発言の意図と目的を理解した。しかし巨大生物を一撃で真っ二つにできる存在はハーネイトくらいしかいない。そう認識していたビュコルフとダイアーナ、レイフォン王は人材について指摘をした。しかしレイフォン王はあることを思いつき、笑顔でハーネイトにとある人材を推薦した。


「それなら、わしらレイフォンからも優秀な騎士たちを推薦しようじゃないか。我が息子、娘は此度の戦いで戦果を相当挙げた。ハーネイト殿も認めておるわい」

「確かに、5人の活躍の功績は大きかったです。手紙を出した甲斐はありました」

「これからも指南役として頼むぞい。あの時のようにのう」

「は、はあ。できるだけそうしましょう、それで私が今回提唱するものは、国の垣根を超えた、特別防衛戦隊・ARZAADの設立です」


 アルザード、それは古代バガルタ人の言葉で勇敢なるもの達、戦士の意味を持つ言葉。あるいは戦士たちの住む館。ハーネイトは、次の英雄を育てるため互いに切磋琢磨しあい、技術や戦法の共有を行いつつ多くの地域や人を巻き込んでこの世界を守る組織が求められることを改めて伝えた。また同時に、一つの多国籍企業としての面も持たせ、解決屋をはじめとした人々のあらゆる悩みを解消する派遣及び民間軍事会社、ハーネイト・ザ・カンパニーの設立も行うとハーネイトは表明した。


「ほう、そういう計画か。確かに各国が参加すれば守れる規模は確かに増えるのう」

「だけど、誰が創設者になるのかしら?」

「それは、私が率いることになります。異存はありますか?」

「いいや、多くの人を教え導いてきた経歴の貴様なら俺は文句はない」


 ハーネイトがかつてバイザーカーニアにて教師をしていたことはこの場にいる人たちは全員把握しており、その実績を誰もが評価し、異論を唱える者はいなかった。今まで多くの戦士たちが、彼の教えのもとに育ち各地で転移生物などを撃退している。今までの経歴や貢献が、話を円滑に進めさせていた。


「それと場所と活動方針はどうなのだ?」

「拠点となる場所はここも含めて3か所です。防衛施設も充実していますし、移動用の転移石などもつかえますから」

「まあ、確かにここは中立地帯だ。そういう意味では悪くないが、砂漠のオアシス都市とはまたあれだな」


 海の男、ビュコルフが場所について少し疑問を抱いたが、よく考えるとこのミスティルトは交易の拠点としても盛んだし、何より防御面や地形、周辺の生物などを鑑みて確かに悪くないと判断した。ほかのゴッテスシティとヴァルミージュシティも同様であり、彼らは真剣に話を聞いては案を提示していた。


「勿論、我らもサポートする所存だ」

「まだ若い私らがこういうのもあれですが、改めて異世界からの来訪者、侵略者に対する対策を強化しなければならないでしょう」


 少し遅れて、ヴェルク公国の王、ヴェルク・マッカーソンが会場に到着した。すでに部屋の外から漏れ出ていた声を聴いて、自身もその対策の重要性について痛感していると、改めてハーネイトノ方針に賛同する。

 このマッカーソンは際立った活躍はないものの、ハーネイトの有用性を早くに理解し、彼が行う活動の殆どを領国内で許可したことにより犯罪率の減少や経済の発展などに関し成果を上げ、結果的に国民たちから支持を多く受けている指導者である。


「それを円滑に行うには、ハーネイトの言うとおり、国の垣根を超えた組織の存在が必要だ。そう考えこの席を設けたのです」


 アレクサンドレアルと夜之一がハーネイトの発言を支える形でそう言い、3か国の代表を納得させようとした。


「……そうだな、確かにそうだ。いつこちらにそう言うのが来るか分からないからな。現にこの前来たからな、ハハハ」

「仕方ないですわね。ハーネイトの頼みでしたら」

「では次の議題に移りますが問題ありませんか?次の議題は各地の被害状況と復興に必要な費用について……」


 そうして重要な議題がいくつも出され、そのすべてに一応答えは出たうえで会議は終了した。そして全員がミスティルトの視察をしたいと申し出て、ハーネイトはアルシャイーン3兄弟を急遽連絡で呼び出し、案内させることにした。そして終了後、会議室を片付けているとエレクトリールが部屋を訪れた。


「ようやく終わったな。皆さん、相変わらずだな」

「ハーネイトさん、お疲れ様です」

「エレクトリールか」


 少し疲れの表情が出ているのを彼女は察し、彼のそばに来ると手に弱い電気を流し、肩をもんであげたのであった。


「電気に、こういう使い方も、あるとはな。……だいぶ楽になったよ、ありがとう」

「えへへ。それで、うまくいきましたか?」

「ああ、話は取り付けた。あとはいろいろと準備をするだけだな。これからも脅威は絶えない。だからこそな」


 DGは潰えたといえ、不安要素が次から次に尽きない。どうしても気にせずにいられないのが彼の性格であった。


「さあ、ここからまた忙しくなるな。次元融合装置の調整が終わるまでに、ある程度形にしておきたい。それと、闘技場の手配もしなければな」

「その、闘技場とその大会って、私も出ていいのですか?」

「あ、え、えーと……多分出たら、君が優勝間違いないんじゃないか?」

「ど、どういうことですか?」


 ハーネイトに尋ね、帰ってきた返事が予想外のものであったためえっと驚くエレクトリール。それについて説明をすぐに彼は付け足した。


「あのねえ、君の電撃、どれだけ威力あるか分かっているよね?」

「あ、はい……」

「直撃したところが蒸発とか、どんだけ熱エネルギーあるのかとな。プラズマ化して蒸発とか、うっかり試合で使ってみたら、どうなるか?」

「はい……そうですね。すみません」


 毎回屈強な戦士が何名も現れるが、彼女の力はそれらを遥かに凌駕するものであることは今までの付き合いで理解していた。そして犠牲者が出ないようにするため、彼はある提案を彼女にしたのであった。


「だから、スペシャルマッチで私が挑戦者すべてに相手をするってのがあるから、そこにでるといいってことさ」

「え、いいのですか?でも、うっかり溶かしてしまったら……」

「ほう、自信満々だな」


 ハーネイトは彼女の発言に軽くニヤッとしながらそういう。確かに対策を怠ればただでは済まない。至近距離で彼女の雷を見たからこそわかる、威力の桁違いさ。しかしそれをも破れなければこの先襲撃してくるかもしれない強敵に勝てるかわからない。そこでハーネイトは軽く挑発し、彼女をやる気にさせたのであった。


「いえ、そうではないです。とにかく、その時は胸をお借りしますね」

「フッ、観客を盛り上げてはくれよ、エレクトリール」

「はい、ハーネイトさん」


 そうして、二人は会議室を後にしてから夜の食事をとるためホテルの2階に足を運ぶのであった。

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