Code 137 ハーネイトとリリエット
「いやあ、あの時の泣き虫ハーネイトが、ここまで立派に育ったなんてお姉さん驚きだわあ」
「あのなあ、そんなに歳変わらないだろう?」
「でも本当の歳分からないでしょう?」
リリエットは椅子に座るハーネイトに近寄りながら、ピカピカに反射するほどきれいな木の机の上に、そっと腰を掛けて話をする。そして妙な年上アピールをするも、ハーネイトは微妙な表情をしながら話を聞いていた。
「まさか年上とは思わなかった」
「あれ、自分のこと何歳って思っているのかな?」
「……24、くらいだ」
少なくともジルバッドは自分が6歳くらいの時に死んだ。それから数えその程度ではないかと考えていたが、師匠から詳しく聞かされていなかったためその答えに自信はなかった。かつて道場にいた際にも、リリエットは自分と同じ程度の歳なのかと思っていたため驚いていた。それほど、彼女は若く見えるのであった。
「まあそれっぽく見えるわよね」
「……それで、あれから何があったんだ」
リリエットは道場を去ってから起きたことを説明した。父に連れられこの星以外の戦場に連れていかれ、必死に戦わざるを得ない状況であったこと、そしてその前後から父の様子がおかしかったことを告げた。
「それで、お父さんに相当振り回されていたわけか。ったく、昔から流されやすいところは変わらないな」
「だけど、そうしないと何をしでかすか分からなかったもの、父さんが変わった理由が魔女だなんて、お母さんと弟が聞いたらさぞ悲しむでしょう」
「弟がいたのか、リリエット」
「そう、よ。幼い時に死別したけどね」
リリエットは悲しそうな表情で弟の話をした。優しく自慢の弟だったが、離れている間に死んだため死に目に会えず、相当悔やんでいたと打ち明けた。そしてモルジアナと境遇が似ているなと彼は話すと、彼女は道理で共感できるところが多かったのかと納得していた。
「それで、その化け物に対抗するため力を求めたわけか。……魂を食らう獣か。新しい脅威……か」
「その獣はハーネイトなら余裕で倒せるわ。まあ、霊量士の修行はまだしないとダメだけどね」
「それで、誰を師匠にすれば……」
まだ強くなれる、そして新しい脅威。けれどどうすればよいのか、情報が頭の中で駆け巡りすぎて何から手を付けてよいのか、彼はわからず頬杖をついてため息を吐いた。魂を食らう獣、それを聞いたとき異様な寒気をつま先から脳天までで感じていたのであった。
「私がいるじゃない。これでも多くの素質ある人たちを導いてきたのよ」
「……なんか、負けた気分」
「もう、昔からあなたは非常に負けず嫌いね。まだ治らないのね」
珍しく拗ねているハーネイトを見たリリエットは、まだ子供なんだからと思いつつ彼の頬を指でやさしくつつく。
「そりゃ、悔しいじゃないか」
「まあそれもそうよね。ハーネイト、たとえどんな存在でも、貴方はもう英雄よ」
彼女はハーネイトが道場にいた時から、彼の異常なまでの対抗心、そして負けず嫌いな一面を見ていた。それがどこか熱くて、命を燃やしているようで彼女はそれを見ずにいられなかったと彼に話した。
「ああ、分かっているさ。……ああ」
「貴方は一人じゃないわ。……もっとも、そのような状況にしてしまったのは私のせい、だけど」
「……あの時のことは、まだすべて許せるわけじゃない」
「分かってるわ。……でも、だからこそ今度は力になりたいのよ」
彼女が余計なことを言わなければ、孤立することも、つらい孤独を味わうこともなかった。恨み節を込めて彼女に冷たく当たる。彼女の純粋な気持ちが、幼い時の彼をひどく傷つけていた。そして子供の時はわからなかったその答えが、今ならわかる。だからこそ彼の支えになって罪を償いたい。彼女はそれを静かに伝えたのであった。
「ったく、いつの間に不思議な力を身に着けてさ」
「嫉妬?本当に変わらないわね」
「……ふん」
「やれやれ、まだまだお子様だねえ。とにかく、ハーネイトには能力者も含めたリーダーになってもらわないとあれなんだから、明日から徹底的に鍛え上げるからね」
そういい、リリエットは部屋を後にした。そして出て行った先を見つめながらハーネイトは大きく息を吸い、ふうっと吐き出した。何処か生意気で、年上ぶって何かと焼いてくる彼女が自身の知らない力を身に着けていたことに何処かいらだっていた彼は机に上半身を乗せて寝そべった。
「……勝手な奴だな。もう、少し苦手だ、ああいうのは」
「私も少しそうですね」
部屋の隣で待機していたエレクトリールがハーネイトの事務室に入ってきた。そして彼女はソファーに静かに座ると、じっとハーネイトの顔を見ながら話しかける。
「てか、リリエットとハーネイトさん、幼馴染だったんですね、本当に」
「……ただの腐れ縁だ」
「にしては仲が良いですね」
「いいや、あいつは昔から私のことをなめていやがる。年もそんなに変わらないはずなのに年上ぶるし、調子狂うよ」
ハーネイトはどこかけだるそうにそう話し、机に置いてあったお菓子に手を伸ばした。
「ハハハ、DGにいた時も割とそんな感じでしたよ。それで、リリエットと私、どっちが好みですか?」
エレクトリールには、リリエットは様々な意味で魅力的に感じていた。自分は、彼女に勝てるところがあるのだろうか、このまま誰かに彼を取られるのは嫌だ。そう考えた末にそう質問したのであった。
「……どうしても答えないといけないの?」
「できれば、です」
「……二人とも、好きだけど少し嫌い」
「どういうことですかそれは」
ハーネイトにとって、異性は鬼門であり、また恐怖の対象であった。小さい時から顔立ちがよく、性格も素直だったため旅を始めてから行く先々でモテたのだが、そのせいで大事件を起こしたことが尾を引いていた。前にシャムロックたちが話した事件のことである。だから彼は、異性を戦友として実力は認めるものの、それ以上関係を持つことは決してしなかった。それも込めての発言である。
「君も私のこと、危うく感電死させるところだったじゃないか」
「そ、それは、本当に申し訳ありませんでした」
「いいや、冗談だ。ったく、いつの間にか大所帯になっちまったな」
「それでいいんじゃないんですか?一人は嫌なのでしょう?」
研究所強襲前の一件を思い出させるように彼はそう言い、少し彼女を困らせた。そして彼の言葉に、それでいいのではと返しながらしばし話をしていた。
そして次の人を呼ぶためいったん彼女を別室に下がらせ、残りの元DG、ゴールドマンとシノブレードを呼ぶことにした。
そして数分後、ドアのノックが鳴り入るように命じたハーネイトは、二人を座らせ話をすることにした。
「ゴールドマン・ファルフィーレン・ゴージャスだ。数十年前からDGの野望を止めるために動いておったが……」
「改めて、私はシノブレード・ヴァンデンハイネ・ルクスタークと申します。リリエット様からあなたの指導に加わるように命じられておりますゆえ、よろしくお願いいたしますよ」
自己紹介を一通り聞いた後、ハーネイトはなぜこのような事態が起きたのか改めて彼らから聞き出した。こうして情報を整理し記録するのもハーネイトの仕事であり、交渉を成功させるにも、そして彼らが受け入れられるにもこうした作業は必要不可欠だと考えエレクトリールとは別にメモを取っていた。
「DGの悪行は、少なくともこの世界においてはあまりにも有名なものだった」
「私たちは正確には、約20年前に起きたDG大侵攻の時に知り合いました。ただゴールドマン様がこの星の出身だとは思いませんでした」
「そうでないとリリエットの説明がつかない」
時系列が思ったよりも複雑で、どのあたりからDGに異変が起きたのか整理するのに苦労したハーネイトであったが、一つ目に異変自体はやはりジルバッドや八紋堀の父が戦ったDG戦役前後から起きていたこと、そして二つ目にゴールドマン自身はその前から在籍していたこと。そして3つ目は、裏切った魔女、セファスがDG内部にいた革命派のとある男と出会い、入っていくうちに野望を持ちその男を殺害し、実権を握ったということを認識しまとめることができた。
「それで、リリエットは親せきに預けていたが、再会した時に引き取ったわけか。これで大分繋がったな」
「娘が相当な迷惑をかけたな。あやつは昔から、私の死んだ妻によく似ていたよ」
そしてどういった経緯でリリエットが道場を去り、その後どうなったのかを別のルートで聞いた。そして実は、リリエットもゴールドマンも、親が異世界人であることを知り驚愕したのであった。
「リリエット様は、今思えば魔女の洗脳に侵食されつつある私たちを救おうと、ついてきたのでしょうね」
「結果的に、DGは消滅、あなたたちも洗脳が解けた。問題はこれからだな」
そうして話をしている中、突然部屋のドアをけ破るかのように南雲と風魔が部屋の中に入ってきた。
「済まないマスター!お取込みのところ済まないが早速問題が起きた」
「藍之進様から至急帰投命令が出ています。向かってよろしいですか?」
「ああ、構わないが気をつけろよ。それと終ったら報告書を出してくれ」
「了解であります」
あえてあまり事情は聞かず、事後に報告しろと伝え2人の姿を見送ったハーネイトは聴取の続きをした。この老齢の男たちはもう敵ではない。またこちらの知らない情報をいくつも持っているだろうと踏まえ彼らを仲間に加えることを決めた。
小一時間話をして二人に羽を広げて休むようにと街の地図を渡して好きな場所で休息をとってほしいと指示して二人を見送る。その後エレクトリールに部屋の番を任せ、何か異変が起きていないか軽く調査をすることにした。そしてエレベーターに向かう途中で壁に背中を委ねて考え事をしているユミロの姿を見かけ声をかけた。
「ああ、ユミロ、どうしたんだい?」
「あとで、用事が終わったら軽くて合わせ、してほしい。体がなまるの、いやだ」
「……わかった。屋上で待っていてくれ。少ししたら向かおう」
そして一旦ホテルの外に出て用事を済ませてからホテルに戻り、屋上に足を運ぶ。するとすでにユミロが腕立て伏せをしてトレーニングをしていた。
「済まない、マスター。俺、体動かしていたほうが、楽だ」
「そうだな、こちらも少し運動不足だ。さあ、行こうか」
そして互いに武器を構え距離を取る。先に動きたのはユミロで、巨体に似合わぬ俊敏な移動で一気に間合いを詰める。そして手にした棒を振るうが、ハーネイトがそれを身軽なステップで後方にかわし、側転で回り込みながら懐に入り込もうとするが、それをユミロは地面を素早く薙ぎ払い阻止し、空中にジャンプして逃げたハーネイトはたたきつけるかのように武器をユミロに向けて振るう。
「ぐぬぬぬ、本当にパワーはけた違いだな」
「マスターも、よく俺の一撃に耐えるな。ぐぅおおおおおお!」
しかしそれを防がれ、今度はユミロが思いっきり振りかぶりハーネイトを襲う。そしてそれを受け止めるも破格のパワーにやや押され気味であった。
「はあ、はあ、どうだ、少しはすっきりしたか?」
「ああ、個々の環境にはまだ少し慣れないが、こうしていればじきに慣れるだろう」
「そうか、ここは少し空気が重いからな。各自で体を慣らしてほしいものだ」
ユミロはまだトレーニングをするといい、無理はするなよとハーネイトは念押ししてから屋上を後にし、ホテルのフロントまで足を運んだ。一般客のほか、ボガーノードやヴァンがソファーに座りくつろぎながら話をしていた。
「さてと、今日はどうしようかなこれから」
しばらく休業することは伝えたため久しぶりに自由な時間が取れている。それを利用してやりたかったことをやろうと思ったハーネイトは、ホテルを出てスイーツ屋に向かうことにしたのであった。
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