Code 136 事情聴取と霊量士(クォルタード)
「では、さっそく事情聴取を行う」
「ああ、話せることは話すよ」
ハーネイトは計画していた、元DGたちの事情聴取を行っていた。これは機士国からの依頼でもあり、また私的なものでもあるといえよう。
「ヨハンか、君はどこ出身だい?」
「私は、この世界の人ではないです。地球は、分かりますか?」
「勿論だ」
まず最初はヨハンという若い男から聴取を始めることにした。年代も一番近そうに見え、またどこか自身に似ているような雰囲気を感じていたことからハーネイトは彼を最初に呼んだのであった。
「それで、気づいたら別の星にいて、そこであの連中に拾われたわけさ」
「そうだったのか。それで、武器は日本刀とはな。流派は何だ?」
「示現流です。父方の祖父が剣術の師範でして」
ヨハンの武器が自身と同じ日本刀であることについて話をし、その上でどのような剣技が使えるか話を聞いてみた。そして聞いたことのない剣術に興味を持ったハーネイトは説明を求め、彼は笑顔で丁寧に説明したのであった。
「そうなのか、その技、今度教えていただきたいですね」
「では、あなたの流派と技術も見せて頂きたいですね」
「分かった、それは近く行われる採用試験の時にな」
「ええ、了承しました」
ヨハンという青年は概ね好青年と呼べる者であり、一見見た目は文学を好みそうな、優しげな金髪と碧目がとても印象的だとハーネイトは感じた。それと同時に同じ剣を学んだものとして剣を交えたいとも思っていた。年齢が割と近いためか話が思ったより弾む。そして十数分話した後次の人を呼んでくるように彼に命じ、そしてヨハンは部屋を退出した。
そして次に訪れたのはあの幼い少女であった。やや不満そうにハーネイトを見つめながら指示されたとおりに席に座ると机に置いていたお菓子を食べていた。
「アルディナ・ミリエシリア・ラフィーネ、か。君は何歳で、どこの出身?」
「あのねえ、これでも20歳超えてるのよ。それで、私はこの世界の別の星出身よ。先祖は異世界の人の血が混ざっているけどね」
またいつものことだ、年下にみられる。いつもそれに不満を抱いていたアルディナはさらに不満そうな表情で話をする。
「そうなのか、それは興味深いな」
「それで、貴方自分の年がわからないんですって?」
「あ、ああ」
「それで旅をしていたとか、なかなか不思議だわ。でも、その旅の話を聞きたいわ」
「……時間があったらその時はな。次はシダナレさんを呼んできてほしい」
リリエットから聞いた話に興味を示し、アルディナは彼の話を始終真剣に聞いていた。
このアルディナという女性はもともと別の星で王女、つまりお姫様だったのだが、内乱が起きてその際にDGが隙を突いて星を荒らし、命からがら助けられたのがDGに在籍していたリリエットだったこと、そしてリリエットに力を教えてもらい長く行動を共にしていたことを話した。そして彼女から幼馴染のことを昔からよく話を聞かされていたことを彼に教えた。
それを聞いたハーネイトはやれやれといった表情を見せながら、また話をしようと約束し、アルディナを退室させた。そして次に訪れたのはシダナレであった。日之国の城内で働く人が着るような服装で、身なりも清楚にしている白銀髪の壮年剣士である。彼は静かに一礼し、ハーネイトと面と向かって席に座って自己紹介を始めた。
「うむ、儂の名はシダナレ・ウツキミ・雨竜だ。こことも、地球とも違う世界から流れ着いてきた人の子孫でな、長年戦士としてやっておった」
「本当に様々な人がいますね。それでなぜDGに?」
「それはだな、戦乱に巻き込まれた時のごたごたで、DGに拾われたのだよ」
シダナレは自身の出生について話し、DGに入った理由を住んでいた国がDGに乗っ取られその中で半ば捕まった状態で脅され仲間になるように言われ、渋々入ったということを話した。
「そこでゴールドマンと出会ってな。彼の思想が気に入って力を貸しただけじゃ。侵略戦争を終わらせ、虐げられていた人たちの理想郷を作るという考えにな。儂も幼い時から、己の力に苦しんだものよ」
シダナレは苦笑いしながらお茶を飲み、まだ子供だった時のころにあった事件を思い出していた。彼の一言が自分の境遇と重なったハーネイトは、表情を崩すことなく真剣に話を聞いていた。
「だけど、もうそれもほぼ不可能でしょうね」
「いや、まだあきらめてはおらんよ、あの男も。だが、それよりもわしらはハーネイト、お前さんを指導者として育てたいんじゃ」
シダナレはDGでひそかに内部からつぶそうとが策していた中、ゴールドマンと出会い彼の野望と計画を聞いたという。それは力を持つ者の楽園を作り、そして戦争や集団をもとの異世界からの脅威を撃退する組織に戻すことであった。もともとシダナレは霊量士の素質があったため、ゴールドマンに鍛え上げてもらいながら実行の時を待っていたという。しかしあの魔女、セファスがDGに入ったころから誰もがおかしくなったことを話した。
そしてハーネイトの質問に対して不敵な笑みを浮かべながら、彼を霊量子を操る存在、霊量士の王になり多くの能力者を導く存在になってほしいと考えている旨を伝えた。
「なぜ、みんなは私のことを担ぎ上げるのだ。私は、上に立つ者の器ではないですよ。好き勝手に生きてきただけの人間ですし」
「いや、お主は自身の可能性から目をそらしているだけじゃ。それか、面倒なのだろう?」
「っ……!」
無論上に立つのを嫌うハーネイトは謙遜しながらそう言うが、それに対しややあきれながらシダナレは彼の痛いところを突く言葉を言い、ハーネイトを悩ませたのであった。まだ逃げている。そういわれ、彼は少し黙り込んでしまったのであった。
内なる力との折り合いはついた。そしてそれが自身の謎を解決する手掛かりに、そしていまだ知らない情報を知るきっかけになると覚悟を決めて向き合うと決めたのに、それでもまだ背負わなければならないのかと思い、それはまだ自身には早くて荷が重い。そう彼は考えていたのであった。
さらに彼には、どうしてもなるにはまだ早いと思う理由が明確に存在した。今まで数多くの国で王や領主に仕え事件の解決に努めてきたのがこの若者であるが、間近で王たちの活動を見たうえで、自分には彼らのような力がまだ足りないと実感していた。そんな自分がいま多くの人を率いる存在になっても、ついてきてくれる人を不幸にしてしまう。そう思うと何を言われてもそれだけは断りたかった。そう彼は思い生きてきたのである。
「まあよい。だが、近いうちに覚悟を決めたほうがいいと思うがな。まあ、年寄りからの口うるさい一言といってくれ。お主には、まだ尋常ではない伸びしろと可能性を感じるのでな。……次はモルジアナでも呼んでくるか、暇そうにしていたからな」
困惑するハーネイトにそう言ってまだ強くなれるとアドバイスをしてから、シダナレはそっと部屋を後にして次の元DG、モルジアナを呼んできた。彼女は少し暗い表情のハーネイトを大丈夫かと思いながらも恐る恐る席に座り様子を窺った。
「モルジアナよ。元地球人……よ」
「そうか、地球人は結構ここに来る割合が多い。もしかすると仲良くしてくれる人がたくさんできるかもな」
「私は、人付き合いは苦手です。貴方も、少し」
「……そうか、そういうときもあるな。それでフリージアから聞いたが、不思議な武器を持っていると聞いた」
祝勝会でフリージアから、モルジアナの武器が面白いものだと聞かされどのようなものか、またどんな技術が用いられているのかが気になっていたハーネイトは質問をし、少しいやそうに彼女がそれに答えた。
「そういう変形武器もあるのか、これは目からうろこだ」
「あなた、まるで子供のようなキラキラした目を持っているのね。……死んだ弟と同じ目をしていたわ」
普段はどこか刃物で切り裂くかのような眼光を覗かせる印象を彼に抱いていたモルジアナであったが、彼の意外な一面を見て少しづつ、昔のことを思い出していた。
「弟さんがいたのか」
「ええ。だけどDGの侵略に巻き込まれて、爆弾で……」
そしてモルジアナは昔起きた出来事を少しづつ彼に話した。モルジアナは、家族ごとこの世界に転移され苦しいながらも生きてきたが、紛争に巻き込まれ両親と兄、弟がそれで命を落としたという。そしてある男に拾われ生きながらえてきたものの、その男が所属する組織が弟たちを殺した組織であることがわかるとひたすら牙を磨いて復讐の時を待っていたと彼に打ち明けた。
「それで、復讐のためにか。ユミロと同じ、なのだな」
「あの大男も、そうだったの?よくわからない人だったけど、人?かな」
「一番最初に仲間にしたのはあのユミロだ。そして色々話してくれたよ」
モルジアナの境遇を聞いて、ユミロも同じようなものだったとハーネイトは教える。そして彼女はDGのような戦争で利益を稼ぐ集団はもう二度と現れてほしくないと願った。
「そう、なのね。……DGはなくなったけど、同じような存在がこれ以上現れてほしくない
「まさに同感だ」
「それで、しばらくお世話になるけれど、本当にいいの?」
「いいって。ただ、君たちの力の秘密は教えてほしいかな」
「……無論よ。そのつもりだから。貴方、本当に不思議ね」
うつむいたままそう言った後、顔を上げて厄介になることを告げるも彼は微笑んで快諾した。その顔がどこか、死んだ弟に似ていたことに彼女は涙を少し浮かべながら、一礼して部屋を後にした。
話を聞くたび、DGがいかに多くの星で問題を起こしていたかがわかり、この星でも起きたDG騒動で死んだジルバッドや、戦い抜いたミロクやシャムロックたち古代人に思いをはせながら残りの人数を数えていた。その矢先、少し問題が起きた。
「……あのう、面談は一人ずつといったはずだよね、ボガー、シャックス。それにヴァンとブラッドまでなぜ」
「辛気臭そうな顔をしていたから連れてきたぜ。別にいいじゃないか、まとめて終わるしいいことだろう?」
「……集団、面接みたいだな」
「それよりも早く戦おうぜ、ハーネイト」
一人ずつだといったのに、四人まとめて部屋を訪れたことにハーネイトは青筋を浮かべ笑顔と怒りをまとめて見せていた。けれども訪れた以上仕方がなかったので彼は諦めてまとめて彼らの話を聞くことにしたのであった。
「それで、ボガーノードは意外だな。まじで漁師……だけでなく花屋も?」
「ああ。だから上着は花柄なんだぜ。花はいい」
「全く、素行からは想像がつかないな」
「ボガーは昔から変わった人でしてね」
この後の事情聴取は実質雑談と化した。予想はしていたもののやはりこうなったことにハーネイトは今にも白目をむきそうな様子であった。しかし彼らは割と年が近く、4人の男たちが話す内容を結局はしっかり聞いていた。
ボガーノードの話を聞いて、人は見た目で判断してはいけないと改めて思い、彼もまた被害者だということを肝に銘じた。
「お前が人のこと言えるか?骨董品を不気味な笑顔で撫でまわしたり、資料を見てはにやにやしたりとな」
「私の趣味に口出ししないでください」
「いでで、悪かったって」
ボガーノードがシャックスの趣味について話、それに少し不満そうな顔を目を閉じたまま見せる彼は、ボガーの頬を軽くつねった。
「シャックスとボガーは本当に仲が、いいの?」
「幼馴染だからな。一応」
「そうなのか……」
シャックスからすでに話は聞いていたが、彼らはすべてが寒冷地という過酷な星で育った人たちであり、その中で細々と協力して生きてきたという。
「それで、ブラッドバーンはどこから来たのかもわからないのか。それで年は?」
「ああ?何歳、だっけな。まあお前さんと同じ程度だろう」
「何だこの男は……」
「ハーネイト、彼は昔から戦うこと以外頭を使わないし、興味もないんだ」
そしてブラッドバーンにいくつか質問をするも、本人はとても適当な感じでそう言い、ハーネイトを困らせた。それをヴァンがフォローした。一応それなりに仲が良いため、彼の特徴について代わりに説明を行い、それを聞いたハーネイトは大丈夫なのか少し不安になっていた。
「ああん?少しは別のことにも興味があるさ」
「何、だと?じゃあなんだ」
ブラッドは少しヴァンを睨みつけ、椅子に大きく寄りかかると腕でジェスチャーしながらゲーム、それも格闘ゲームが大好きだということを話した。
「んなもんゲームに決まっているだろう。リアルでも、そうでなくても戦う。それが俺だ」
「へぇ……意外だな。というか何なんだこの人たちは」
そのあとも話は盛り上がり、趣味から武芸の話、そして何があったのかすべてを聞いたハーネイトは疲労困憊していた。全員が妙に暑苦しく、自身と似ているものの自分より変人ではないかと感じていた。当の本人も敵を雇用したり普段考えない作戦を提案したりと変人の域にどっぷり足を突っ込んでいることは棚に上げていたが、確かに彼らも同じであった。
「本当に良いのか?」
「ああ、このくらい大したことはない」
「そうなのか、ハーネイトはとても多くの資産を持っているみたいだが……」
「あ、ああ。だけど大体は投資とか市場に流して、それと自然保護とかに使うって感じだ」
金の使い道についてそう彼に教えると、ヴァンはフフっと笑いながら自分が行ってきた活動とどこか似ているなと話した。彼は自然生物を守るレンジャーとして生きてきたため、どこか似ているハーネイトに自分の姿を重ねていた。
「今度それについて話を聞かせてくれよ。それと残りはあと3人か。いや、ユミロもか。彼だけは場所を変えよう」
そして話も一段落し、4人は雑談をしながら部屋を後にした。滅茶苦茶な連中だが、戦力としては強力であることに違いはない。そうハーネイトは感じ、今度行う採用試験でまた彼らと戦えることを楽しみにしていた。
「はーい、ハーネイト、来たわよ」
そう考えているさなか、リリエットがわざと可愛らしい声を出しながら部屋の戸をノックし、ハーネイトは魔法でドアを開けたのであった。
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