Code 176 ビュコルフからの依頼
「これから、一体何が起こるのか……」
ある昼下がり、ミスティルトシティのホテル、ウルシュトラ。その屋上でぼーっと空を眺めている二人がいた。町全体を覆う魔法結界のおかげで、周囲に存在する砂漠由来の砂などは入ってこないが、風だけは街中を吹き抜け、熱気に時折不快感を示しながらも彼らは只管空を見ていた。
「どうした相棒、浮かない顔しやがって」
「ああ、例の試練についてな」
「もう匙は投げられた、じゃなくて賽は投げられた。あとは成り行きだな」
それは天神界から帰還したハーネイトと伯爵であり、雲がほとんどない透き通った青空を見ながら話をしていたのであった。
その中でハーネイトが浮かない感じな理由を察し、伯爵はもう過ぎたことだしやるべきことをやるしかないと言った。
「伯爵……」
「は、ハーネイトさん!ここにいらしたのですね」
そんな2人の会話に割って入ったのは、急いでいる様子のエレクトリールであった。彼女の慌てぶりに驚く2人は、ただ事ではないなと思い起き上がる。
「エレクトリールか、慌てているようだが」
「ビュコルフさんから緊急連絡です!至急事態の収集に当たって欲しいと」
「全く、何があったんやがな」
「あの人がそこまで、というのが珍しい。嫌な予感がする」
ハーネイトと伯爵は急いでホテルの地下にある通信部屋に駆けつけ、ディスプレイに写る少し焦ったビュコルフの顔をみながら話を始めたのであった。
このビュコルフという男は、ハーネイトが旅をしていた中で知り合った海洋国家の元帥にして、領主であると同時に、ハーネイトにとってはある意味憧れの存在であった。多くの部下から熱く深い信頼を得た、気さくで常に余裕のある振る舞いを見せる年上の男に、彼はこういう人になりたいと思わせたのであった。そういう意味では、今のハーネイトを形作った人の一人ともいえる。
「おお、いきなりですまないな」
「いえ、それよりも何があったのです?」
「私の治めるアリューシン領地内にある、前に魔獣の襲撃で壊滅した街、ウノガノが何者かにより占領されているというのだ」
ビュコルフのいうウノガノは元々別の国が治めていた地域だが、近年内政の問題から反乱がおき不安定な場所であった。そこで管理をビュコルフという男が引き継いだという。
そこが今回のDGとの戦いで被害を受け多くの住民がアリューシンに保護された経緯がある。
問題は人がいなくなった街にある集団が隠れていること、近くを通った商人旅団が襲われ食料などを奪われたことであった。その商人旅団の中には、ハーネイトと関わりのある者も少なくなかった。
「ウノガノ…ああ、今回の戦いでかなり影響を受けたあそこですか。今どのような状況かはわかりますか?」
「特に建物への被害などはないが、ことごとく街にはいるのを妨害してくる感じだ」
普段は朗らかで陽気な、少し変ないたずらばかりする飄々な彼が困り果てた顔をしているからに見て、相当手を焼いているなと思ったハーネイトは彼の話をすべて聞いたのであった。
「それと、どうもお前さんを呼んで話しがしたいらしいな。解放の条件を先程突きつけてきた」
ビュコルフはさらに、ハーネイトを連れてくれば話しに応じると向こう側の方から言い出したことも伝えた。それを聞いたハーネイトは、ビュコルフからそれを言った人の特徴を聞き、恐らくヴラディミールで間違いないと判断した。
「わかりました、今すぐ支度をします」
「死傷者もなく、向こうもそこまでやりあうつもりはないようだが」
「おっさん、そいつらたぶんDGの残党だぜ」
伯爵が通信に割り込み、街を占拠している連中に関して話をし、ビュコルフは驚いていた。
「なんだと?」
「この前その仲間とハーネイトたちが遭遇している。ただ彼らも住んでいた場所を奪われた復讐者だ」
「うむ、とにかく詳しい事情はこちらに来てから聞かせてもらおう」
ビュコルフはそういい通信を切った。ハーネイトは前にヴァルターらから聞いた話が本当だったのかと思い急いで支度をしようとした。
「まったく、仕方ないな」
「若も帰還早々忙しいですな」
「ミロクじいさん、いたのですね」
するといつのまにか通信室の壁に寄りかかり腕を組み、一部始終を聞いていたミロクは面倒な顔をしつつも体勢を戻した。
「うむ、話も聞いたぞ。ワシが代わりにやつらに伝えてこようか?」
ミロクはそういい他の人たちに声をかけるため部屋を出たのであった。すると10分ほどしてリシェルたちが通信室を訪れハーネイトに声をかけた。
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